「成長病」の人が見落としているシンプルすぎる事実
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漠然とキャリアは「アップするもの」と思っていないだろうか。その背景には、キャリアに対するモヤモヤとした不安がある。この状況を打開するためにはどうすればいいのだろうか。※本稿は、石倉秀明『CAREER FIT 仕事のモヤモヤが晴れる適職の思考法』(宝島社)の一部を抜粋・編集したものです。
「キャリアはアップするもの」という前提を疑う
「キャリアアップ」そのものがどういう状態を指しているのか、なんとなく分かるようでいて、実はあいまいではないでしょうか。
いったいどうなることがキャリアアップなのか、明確にしないまま、「キャリアはアップするもの」だと強迫観念的に信じてしまっているのかもしれません。
かつてであれば、4年制の大学を出て、社格の高い大企業に就職し、人よりも高い給料をもらって、その中で出世し、役職が上がっていくことをキャリアアップとシンプルに呼んだのかもしれません。ある種の画一的なライフコースを、多くの人が夢見た時代だったともいえるかもしれませんが、今日では果たしてそれが本当に幸せかどうかは分からないだろうと思います。
僕も、もしそういう画一的なキャリアアップだけを考えるなら、DeNAにずっと勤めていたほうがよかったでしょう。DeNAでは営業から始まって、その後は営業責任者、新規事業担当、人事担当を務め、最後は部長でした。
一部上場企業(当時)の部長職ですから、もう少し勤めていれば子会社の社長や、本社の執行役員にはなれたかもしれません。プロ野球球団を所有している会社の役員ですから、そのほうが世間的な「キャリアアップ」には適っていたでしょう。
けれども、会社員という立場は、次第に僕にとっては窮屈なものになっていましたし、もう少し自由に幅のある働き方をしたいと思いました。自分の特性から考えても、会社員として働くのは合わない気がしたのです。
その後、独立し、フルリモートワークで会社を運営する株式会社キャスターの取締役に就任。現在は、同社が設立した働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Labの所長を務めています。
2024年2月からはSTEM(理系)分野のジェンダーギャップ解消を目的として活動する山田進太郎D&I財団という公益財団法人のCOOを務めています。
アップしたのかダウンしたのか分かりませんが、自分の強みやそれが活きる場所を探してきた結果だと思います。
分かりやすさに流されず、具体的に考えていく
漠然とキャリアはアップするものと信じてしまう背景には、皆、キャリアに対するモヤモヤとした不安があるからなのだろうと思います。しかし、そのモヤモヤとした不安も、基本的にはキャリアについてきちんと調べたり、考えたりしていないからなのではないでしょうか。
強みと場所という視点で分解してキャリアを考えてみたり、強みをさらに分解してスキル・能力・特性から考えてみたりすることで初めて、どんな構造があるのかを理解することができるわけですが、独力でそれを行うことはなかなか難しいものです。
内実がよく分からないため、全体として「キャリアアップ」とざっくりとした塊でつかみ取ってくれるような言葉を、信じざるを得ない状況に置かれているのかもしれません。
また、キャリアに関する語りの多くは、ひと握りの成功者の声ばかりが大きく取り上げられています。生存者バイアスが非常に強い言葉が多いのです。
結論としては、その成功者がすごかったか、たまたま運が良かっただけで、それを再現できるかというと嘘になるでしょう。
『CAREER FIT 仕事のモヤモヤが晴れる適職の思考法』 (宝島社) 石倉秀明 著
再現化できないということは、つまり体系的に語りづらいということですから、やはりシンプルなメッセージになりやすい。そして、過度に単純化したほうが多くの人には伝わりますから、「キャリアアップ」の言説ばかりが、世間には駆け巡っていくわけです。
ですから、まずは、そうした分かりやすいようでいて、よく考えてみると結局、何を言っているのかよく分からない、フワッとした言葉を鵜呑みにしないことです。
そして、自分の強みを分析し、その強みを活かせる場所を探すことから、着実に始めるべきだと思います。そのように足を地につけて、一歩一歩考えていくことが、漠然とした不安をかき消すためのヒントを与えてくれるのではないでしょうか。