米大手銀に重圧なし、ストレステスト厳格化でも
米連邦準備制度理事会(FRB)による今年のストレステスト(健全性審査)では、銀行全般がより大きな打撃を受けた。ただ、その打撃は過去ほどには銀行を失速させないかもしれない。
失業率の急上昇や商業用不動産価格の急落などの事態を想定したFRBの「深刻な景気悪化」シナリオでは、米大手銀行全体の普通株式等ティア1(CET1)比率の低下幅が最大で2.8ポイントとなり、前年の2.5ポイントから拡大した。
マイケル・バーFRB副議長(金融規制担当)は発表文で、これは経済シナリオを厳格化した結果ではなく、クレジットカードローンの残高増加や延滞率上昇、さらに経費の増加といった銀行全般の変化によるものだと述べた。それでも今回の結果は「最近のストレステストの範囲内」に収まったとした。
この結果だけを見れば、それに伴い自己資本比率の引き上げを求められる銀行は、多少の財務改善を強いられるかもしれない。だが大手銀は既に、直近の数四半期に経営のスリム化を進め、米政府の次の大きな動きに備えてきた。その動きとは、2008~09年の金融危機の後に始まった資本規制改革を最終的に完了させる「バーゼル3最終化」のことだ。
そうした備えをしてきた結果、多くの銀行には最終的に、もう少し株主還元ができる余地が残っているかもしれない。特にバーゼル3最終化が開始地点とは異なる結論に達した場合は、その可能性がある。
自己資本要件は、銀行のコア収益性に大きく影響する。より多くの自己資本が求められる中で、ほぼ固定的なものばかりの資産に資金を投入しなくてはならない銀行は、最終的に株主資本利益率(ROE)が低下する可能性があり、株価純資産倍率(PBR)の低下につながることが多い。反対に、要件が引き下げられれば、資本資源を自由に使えるようになるため、自社株買いや配当によって株主に還元でき、株主のリターンおよび1株利益(EPS)を押し上げることになる。
バークレイズのアナリストの推計によると、規制当局は以前、現行のバーゼル3最終化案に基づく変更で、世界の金融システム上重要な最大級の米銀の資本要件が平均で約19%、金額にしておよそ1500億ドル(約24兆1000億円)増える可能性があると予想していた。
しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によると、規制当局は最初の提案以降、修正に取り組んでおり、この修正によって一部の銀行の資本増強額は平均で半分縮小される可能性がある。
この最終化に先立ち、銀行は諸策を講じてきた。可能なところで一部のリスク資産の「ダイエット」をしたり、他の投資家とリスクを共有したり、より多くの利益を留保したりして、リスク調整後の自己資本比率の向上を図った。バークレイズのアナリストがカバー対象銀行についてまとめたデータによると、ストレステストの結果が出る前の、1-3月期時点の米銀大手のCET1比率の中央値は、現行の要件を2.6ポイント上回っていた。
各行は数日後から、新たに求められる自己資本比率について発表できるようになる。過去の例では、こうした発表と同時に株主還元計画の最新情報も示されることが多かった。しかし各行は、厳格化された新たなストレステストの結果が出た後ということもあり、バーゼル3最終化より先走りし過ぎて新たに多額の株主還元を確定してしまう、ということは当面ないだろう。だが今回のストレステストの結果は各行にとって、自己資本は十分に積んでいるとの認識を示す機会にもなる。
ストレステストの結果発表を受けて、ジェフリーズのアナリストは26日、「バーゼル3最終化がまだ途中段階にあることから、株主還元に関して今後想定し得る取り組みについて総合的結論を出すのは難しい」と述べた。
S&P500種指数の年初来上昇率は15%近くに達しているが、大手銀を対象とするKBWナスダック銀行株指数は約6%にとどまる。しかし、各行が求められる自己資本比率について状況がより明確になれば、金利水準や消費の健全性を巡る不透明感など、より広い分野の企業が直面しているリスクに対し、いくらか相殺効果が見込めるかもしれない。実際、景気の低迷で融資の伸びが鈍れば、各行の自社株買いの拡大が可能になることさえ考えられる。そうなれば、それほど前向きでない他の要因による株価への打撃が若干緩和されるだろう。
市場ではこのところ、多くの銘柄の株価が既に大幅に上昇してしまっている。銀行株の株主還元が増える道筋が見えれば、一部の投資家がいくらかの資金を銀行株に振り向ける理由になるかもしれない。