UFOの目撃情報が相次ぐ!?富士山そっくりのメキシコの火山、修道院のフレスコ画に残された文字「太閤さま」の謎
TBSの人気番組「世界遺産」の放送開始時よりディレクターとして、2005年からはプロデューサーとして、20年以上制作に携わった髙城千昭氏。世界遺産を知り尽くした著者ならではの世界遺産の読み解きと、意外と知られていない見どころをお届けします。
文=髙城千昭 取材協力=春燈社(小西眞由美)
富士山そっくりなポポカテペトル山 PopoAmeca2.JPG :アレハンドロ・リナレス・ガルシア派生作品: Ricraider (トーク)by ricraider, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
世界遺産を「見て・知って・楽しむ」コツ
「世界遺産」を「見て・知って・楽しむ」ためには、ちょっとしたコツがあります。それは、まず正式な登録名を調べること。例えば世界遺産リストに富士山は、「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」と書かれています。
これを見れば、富士山は自然遺産ではなく、文化遺産だと分かるのです。古来、日本人は富士山を<神仏が住む>聖なる山と崇め、登れば生まれ変われると信じてきました。その証しとなる、修行地(人穴、忍野八海)や登山道、祈りの場(浅間神社)など25件が、世界遺産・富士山を形づくる物件になっています。
無戸室(むつむろ)浅間神社(河口湖フィールドセンター内)の神棚下に口をあけた洞穴……その奥へ這いつくばって進むと、江戸時代の“胎内めぐり”そのままの世界です。溶岩の突起が、まるで乳房のように水を滴らせています。かつては、この聖水により子宝に恵まれると広く伝えられました。これらが「信仰の対象」です。
そして富士山は古(いにしえ)から詩歌にうたわれ、浮世絵のモチーフとなり、ゴッホなど西洋の芸術にまで影響をおよぼす「芸術の源泉」でした。
どうです、登録名そのままでしょう?
逆に、円錐形の美しい姿をもつ山は、世界中にボッコボコと数えきれないほどあります。他に類をみない地形ではないため、富士山は自然遺産に選ばれないのです。
さあ本題。今回紹介する世界遺産は、「ポポカテペトル山麓にある16世紀初頭の修道院群」です。見た目が富士山そっくりなので、日系人から「メキシコ富士」と称されるポポカテペトル山は、標高5426mの活火山。メキシコ中央高原にそびえ立ち、やはりアステカ帝国の昔から〈神聖な山〉として崇められてきました。呪文じみた名称は、アステカの言葉で「煙を吐く山」を意味するとおり、現在もモクモクと白煙をたなびかせています。
では、この世界遺産を読み解いていきましょう。
アメリカ大陸に進出したスペイン人は、16世紀初めにアステカ帝国を滅ぼすと、ポポカテペトル山麓にキリスト教布教のための基地を築きます。それが、フランシスコ会・ドミニコ会・アウグスティヌス会の宣教師たちが、次々に建設した修道院群です。その中で、初期の姿をよく留めている14の修道院が文化遺産になっています。
では、何ゆえにポポカテペトル山麓だったのか?
富士山に修験者や巡礼者が集まるごとく、アステカ人にとって神聖な山であるポポカテペトル山には、神殿ピラミッドがつくられ、麓にはいくつもの集落がありました。修道士が伝道するためには、絶好の土地だったのです。
けれども先住民の反抗は怖い……修道院の高くぶ厚い外壁は、そんな疑いの表れです。
一方では、どうやって先住民を受け入れるかに心をくだき、アステカの儀礼が太陽の下で行われると聞き、前庭を広くとってオープン祭壇をつくり、行列できる道さえ設けました。
メキシコには、水の湧く泉のほとりに〈十字型の目印〉をたてる習慣がありました。そこで前庭に、目立つように石造の十字架を飾ります。同じ形のシンボルが立つ修道院に、先住民は集まるようになっていきました。
こうしたストーリー(歴史)を、14の修道院は静かに物語っているのです。
見逃せない3つのポイント
キリスト教に改宗したアステカ人たちは、修道院をいろどる彫刻や壁画をみずから手がけるようになります。ヨーロッパ美術に触れたことのない先住民は、見本を手にさまざまな技術を身に付けますが、装飾には土着文化の香りが色濃くとけ込んだのです。
そうしてヨーロッパを父とし、アステカを母とする、メキシコ文化が育まれました。
14の修道院には、その生々しい〈始まりの痕跡〉が残されています。神は細部に宿るの格言のごとく、見逃せないポイントを3つ紹介しましょう。
1.クエルナバカ修道院のフレスコ画
クエルナバカ修道院 写真=フォトライブラリー
礼拝堂の壁を修復するために、後に上塗りされた漆喰をはがすと、あらわれたのは「TAYCOSAMA」の文字……そう「太閤さま」です。豊臣秀吉の命により長崎で磔になった日本二十六聖人の殉教が、17世紀すでにメキシコで描かれていました。
「TAYCOSAMA」の文字が見えるフレスコ画 アレハンドロ・リナレス・ガルシア, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
牛車で引き回し、十字架にしばられ、槍で刺された聖人たち。壁をぐるりと埋めつくす殉教図は、赤・緑・茶などのヘタウマな絵で、どこか浮世離れしています。
2.オクイトゥコ修道院の噴水
オクイトゥコ修道院の噴水 聖ミドガルド, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
スペインのアルハンブラ宮殿を代表する「ライオンの中庭」が、修道院の回廊がめぐる中庭に先住民の手で真似されました。中央の噴水のまわりに6頭のライオン。でも、ライオンを見たことがない先住民は、得体のしれない怪物(聖獣?)みたいな巻き毛のライオンを彫ります。似せても違ってしまう、ふしぎな面白さが満点です。
3.トチミルコ修道院への水道橋
トチミルコ修道院への水道橋 ディエゴRCH, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
宣教師たちは広場にのぞむ修道院を中心に、城壁をもたない開放された街をつくりました。それは誰にも開かれ、先住民と共生するユートピアを夢見てのことでした。ポポカテペトル山麓の泉から水を引くための、古代ローマ帝国をしのばせる巨大な水道橋が残されています。子供たちは、広場の水飲み場であそび、修道院で読み書きを習ったのです。
UFO目撃の謎
近年のトピックは、なんとUFO! ポポカテペトル山周辺で、UFOの目撃が相次いでいます。2023年には、活火山を監視するライブカメラが、火口から飛び立ちつづける20基(?)のUFO隊列をとらえたと大騒ぎになりました。映像をネットで確認すると、たしかに光の矢が、次々と列をなしてゆくのですが……!?
このことからポポカテペトル山は、メキシコ有数のUFOスポットとして、今では知る人ぞ知る超・有名地になりました。アステカの神殿に、スペインの修道院、さらにUFOの秘密基地……そこには、聖なる山ゆえの磁力でもあるのでしょうか?
訪れるなら4月初めのセマナ・サンタ(聖週間)の時期がおすすめです。世界遺産の一つ、ウエホツインゴ修道院に行けば、前庭でキリストの受難劇が演じられます。鞭うたれ、血を流しながら十字架を運ぶキリストの姿に、植民地時代、村人は自らの辛い日々を重ねたといいます。
ポポカテペトル山麓ならではの聖なるメキシコ文化に、ぜひ触れてみてください。
※修道院の公開やセマナ・サンタ(聖週間)のイベントは、年ごとに変ります。
※旅行に行かれる際は外務省海外安全ホームページなどで現地の安全情報を確認してからお出かけください。
https://www.anzen.mofa.go.jp/