被害女性はすぐそこなのに… 救助隊とクマ、狭まる間合い 発砲しても逃げ出さず 青森・八甲田山中
散弾銃を手に捜索を終えて戻る猟友会のメンバーら=25日午後2時ごろ、青森市荒川南荒川山
クマの目撃・被害情報が相次いでいた八甲田山系。25日、恐れていた事故が現実のものとなった。救助隊が山中で出合ったクマは、人の気配にもその場から離れることはなかった。「これだけ発砲しても逃げないなんて…」。被害に遭った女性はすぐそこのやぶの中。助けたくてもたどり着けない、緊迫した時間が流れた。
同日午後0時半ごろ、消防や警察、青森県猟友会から合わせて約20人が、草木が茂る細道から山へ次々と入っていった。女性が襲われたとされる場所にたどり着いたのは約30分後。辺りにはまだクマがいるはず-。「パン」。乾いた銃声が山中に響いたが、クマが逃げ出す気配はなかった。
女性を救助するために辺りの草木の刈り払いなどをしているうちに、クマの姿が見えた。クマはこちらの様子をうかがっているかのようだった。じりじりとした時間が流れる。互いの間合いが狭まるうちに、クマは逃げて行った。辺りを探したところ、あおむけに倒れていた女性を発見。現場に着いてから助け上げるまで10分ほどがたっていた。
この日は警戒目的のものも含め計30発以上発砲したが、クマには効果がなかった。県猟友会東青支部の小野素志副支部長は「よっぽど人間に固執しているのだろう」と推測し、付け加えた。「もうクマよけの鈴は効かないかもしれない…」
クマが人を襲ったとの情報は、現場からほど近い酸ケ湯温泉旅館の利用者にも衝撃を与えた。
香川県から登山仲間6人で来ていた男性(72)はこの日、酸ケ湯から大岳を登るコースを巡った。被害を知ったのは下山後。「ヘリが飛んでいて、何事かと思った。襲われた人が気の毒」と話した。
埼玉県から訪れた山好きの11人のグループは、銃声にもひるまないクマの話を聞き、悲鳴にも似た声を上げた。26日に入山予定だったが、大館義雄さん(75)は「残念だけど、断念するしかない」と悔しそうに語った。