「日高屋化」する幸楽苑 ラーメン店から町中華へのシフトで復活できるか

「日高屋化」する幸楽苑 ラーメン店から町中華へのシフトで復活できるか

業績が急回復しているラーメンチェーン「幸楽苑」

 ラーメンチェーン「幸楽苑」の業績が急回復している。2024年3月期の幸楽苑ホールディングス(HD)の決算(連結)は、売上高が268億円(前年同期比5.2%増)、営業利益は3300万円(前期は16億8700万円の赤字)、経常損失は1億600万円(前期は15億2800円の赤字)。親会社株主に帰属する当期純利益は9400万円(前期は28億5800万円の赤字)と、わずかながら経常損失になったものの、最終利益を確保して黒字に転換した。

 同社は2023年6月23日、巨額の赤字を計上した責任を取って、新井田昇前社長が退任。新井田氏の父で、創業者の新井田傳氏が5年ぶりに社長に復帰(会長を兼任)した。傳氏は不採算店の整理などスリム化を行う一方、売りになる新メニューを開発。わずか1年という短期間で、傾いた幸楽苑の業績を立て直した。一代で日本有数のラーメンチェーンを構築した傳氏の経営手腕が光る。

 最近、幸楽苑の店舗に行くと、昼も夜も結構混んでいる。1年前はいつ行っても空いていた印象があり、目立って顧客が増えている。コロナ禍が終わってきたプラス効果もあるが、郊外のラーメン店は、コロナ禍の真っ最中でも、ギフトHDが経営する「町田商店」、丸千代山岡家「山岡家」のように好調なチェーンが多かった。

 郊外ロードサイドの店は、非接触性が確保できる車に乗って行けるし、ラーメンならば1人で黙食が自然にできるからだ。そんな中、幸楽苑はコロナ禍でも有利だったはずの郊外型で、一人負けのごとく売り上げを落としていた。

●「ディナー定食」が起爆剤に

 傳氏が社長に復帰してから幸楽苑に起きた変化のうち、最も大きいのは、午後3時以降のディナータイムに定食を設定したことだ。野菜炒め・レバニラ炒め・麻婆豆腐・豚角煮といったメインにご飯とスープが付いた定食により、特に夜の集客が増えている。

 5月23日の決算説明会資料によれば、ディナーメニュー販売前に「6対4」だった昼と夜の売上比率が、現在は拮抗するようになったという。なお、昼の顧客が減っているのではなく、夜のディナーメニューに支持が集まり、全体の底上げにつながっているようだ。

 幸楽苑のメニューは以前、ラーメンをメインに餃子とチャーハンの3品を軸に構成されていた。直近は上述したような定食が増えたことにより、幸楽苑は従来の一般的な「ラーメン店」から「町中華」としての色が強くなっており、結果的に「日高屋」に近似してきた。

 その一方、コロナ禍で鉄道の利用が減り、駅近辺の店舗が多いことから3割もの売り上げ減に悩まされた日高屋は、打開策として出店エリアを見直し、郊外ロードサイドに進出。郊外店を強化しようとしている。つまり、日高屋は逆に「幸楽苑化」しているといえる。

●メニュー拡充で活気を取り戻しつつある幸楽苑

 幸楽苑HDの2024年3月期決算説明会で、新井田傳会長兼社長は「欧州では事業を100年続けて初めて評価される。幸楽苑も100年企業を目指している。その延長上に私の長男がおり、将来を託したが、4~5年の短い期間で業績の悪化を招いた。3連続営業赤字の決算で、その責任を取って社長職を辞したいとなり、私の出番となった」と、再登板の経緯を説明。加えて「当時のメニューは原理原則から逸脱しており、このメニューでは売れないと判断し、メニューの作り直しから入った」と、原点回帰のメニュー改革から事業再建を始めた。

 食材の値上がりがのしかかり、メニューの値上げも急務だった。主力のラーメン価格を490円に据え置きながら、利幅のあるセットメニューを数多く作って、値引きする方針で臨んだ。値上げラッシュの中で「お得感」に評価が集まり、結果として顧客が戻ってきている。ほとんどの店で、ランチのピーク時に行列ができるようになった。ディナー限定のメニューでは客単価が10円強上昇しており、いわゆる「ちょい飲み」も視野に入れた「中華ダイニング」メニューも好評だ。

 その他、ラーメン業界の新たな流行である「釜玉ラーメン」を取り入れたメニューの展開や「煮干しらーめん」「背脂中華そば」、期間限定の「鶏白湯らーめん」「冷麺」を発売するなど、ラーメンのラインアップも豊富になっている。こうした取り組みを踏まえ、新井田傳社長は「黒字決算を積み重ね、業績好調を自慢できる会社に育てたい」と抱負を述べている。

●「出自」の異なる親子が経営してきた幸楽苑

 現在、幸楽苑HDの社長を務める傳氏と前社長の昇氏は、親子でありながら犬猿の仲といわれてきた。傳氏は父が開業した中華食堂「味よし食堂」を18歳で引き継ぎ、「幸楽苑」と改称した上で2003年には東京証券取引所第一部へと上場(現・東京証券取引所プライム上場)。290円と超安価な中華そばを販売し、デフレの勝ち組となり、一世を風靡(ふうび)した。

 町中華で修業をした、いわば職人である傳氏に対して、息子の昇氏は慶應義塾大学経済学部から三菱商事へとエリートコースを進んだ秀才だ。その後、幸楽苑に入社。数々の経験を積んだのち「デフレ脱却」というテーマを託され、副社長だった2018年に社長へと就任した。

 職人から叩き上げたチェーン店の敏腕社長に、高学歴エリートである後継者、さらに親子で仲が悪いというと、インテリア業界の覇者だった大塚家具を思い起こさせる。

 大塚家具の創業者・大塚勝久氏からバトンを受け継いだ娘の久美子氏は一橋大学経済学部から富士銀行(現・みずほ銀行)に就職し、国際広報業務に携わっていたキャリアウーマンだった。久美子氏は2009年に社長へ就任するが、業績は低迷。2019年にヤマダ電機(現・ヤマダHD)の傘下に入り、その後は吸収合併されて、栄華を誇った大塚家具は法人として消滅した(ブランドは存続)。

●斬新な施策もあったが、店舗数は大きく減少

 半面、幸楽苑は土俵際で辛くも残ったといえよう。昇氏が社長だったころは、客層の若返りや女性客の取り込みを図り、さまざまな施策が打たれた。原理原則にとらわれない発想によるものもあったが、最終的に深刻な顧客離れを招いてしまった。

 例えば2019年11月には、静岡県富士宮市にラーメンやコーヒーを楽しめる初のカフェ業態「KOURAKUEN THE RAMEN CAFE」をオープン。しかし伸び悩み、2022年10月に閉店した。

 他にもロッテとコラボして、バレンタインデーにちなんだ期間限定商品として3年連続で販売した「チョコレートらーめん」、餃子と「雪見だいふく」に、カラースプレーのチョコやカラメルソースをかけて「コアラのマーチ」を乗せた、恐らくもう二度とはお目にはかかれない、冒険的な商品「パニックde餃子with雪見だいふく&コアラのマーチ」などが思い起こされる。他の企画では、ラーメンに雪見だいふくを入れたり、雪見だいふくをチャーシューで巻いたデザートを提案したりもした。

 2023年1月にはユーグレナとのコラボで、鳥羽周作シェフが監修した「ビーガン餃子」を発売。インバウンド客に多いビーガンだが、幸楽苑でインバウンド客が来るような都心部立地の店は秋葉原店くらいしかなかった。つまり、業態にマッチしていなかった点が残念だった。

 他社の勢いがあるフランチャイズ(FC)に加盟し、不採算店を「いきなり!ステーキ」「焼肉ライク」「赤から」などの業態に転換していったのも悪手だったといえる。最初は好調に推移したが、いきなり!ステーキの失速が著しく、2020年3月末に16あった店舗は、現在全て閉店している。

 こうした経緯もあり、かつてホールディングスで500以上あった店舗は、2024年3月末時点で389まで減少している。

●コロナ禍からV字回復を果たした日高屋

 日高屋は、2024年2月末時点で直営店が449店、全体では455店ある。餃子が主力の「餃子の王将」、長崎ちゃんぽんの「リンガーハット」を除外すれば、ラーメン業界で最大手のチェーンでありながら、首都圏1都3県に店舗が集中している関東ローカルのチェーンといえる。

 1号店をオープンしたのは、2002年。以降は怒涛(どとう)の出店を続け、一気にラーメン業界の頂点にのし上がった。幸楽苑の290円に対して、日高屋の中華そばは390円。幸楽苑とともにデフレの勝ち組として、経済が低迷する日本で業績を伸ばした。中華そばの390円という価格は堅持し、今や幸楽苑より安くなった。2010年頃からは「野菜たっぷりタンメン」が新たな看板メニューとなり、ヘルシーなイメージも持たれている。

 日高屋は駅前立地の店舗が多く「屋台」の代わりがコンセプトであり、幸楽苑の勢いが止まってからもちょい飲み需要を前面に出して好調を維持した。長らくビールと餃子、中華そばで1000円以内の価格設定にこだわっていた。

 しかし相次ぐ値上げにより、現在は生ビールと餃子、中華そばを頼むと1000円を超える。とはいえ餃子を3個、あるいは中華そばを半ラーメンにすれば1000円を切る。

 長らく業界の勝ち組だった日高屋だが、コロナ禍では鉄道の利用が激減し、飲酒の場が感染源になるとして規制されたのは痛かった。2020年2月期に約422億円だった売り上げは、2022年2月期には約264億円まで大きく減少。営業損失も2021~22年度にかけて巨額となったが、2023年2月期は黒字に転じ、約6億円の利益が出た。

 2024年2月期決算にはV字回復を果たし、売上高は約487億円、営業利益は前期比653.2%増の約46億円、経常利益も同92.5%増となる約47億円、当期純利益は同112.8%増の約32億円と、過去最高の売り上げ・利益を更新した。

●今後は「4大町中華」に注目

 好調の要因として、まずは出店戦略の見直しが挙げられる。これまで出店する場合は駅の乗降客数5万人を目安にしてきたが、競合がなければ2万人台でも出店するように変更した。また、これまで出店していなかったロードサイドを開拓。2024年2月期決算短信によれば、新規出店した18店のうち半数の9店がロードサイドであった。

 商品としては、2023年3月に発売した「日高ちゃんぽん」、同10月に復刻した「温玉旨辛ラーメン」、さらに季節商品の「冷麺」や「チゲ味噌ラーメン」などが好評を博している。最近はお酒に合う辛いメニューが増えており、同年12月に「ドラゴンチキン」「明太子ボテトサラダ」などもメニューに加わった。ドリンクでも、紹興酒を使った「ドラゴンハイボール」や、ウイスキー「陸」を使った「陸ハイボール」を相次ぎ投入。ちょい飲みを強化した結果が好業績につながった。

 ラーメンの種類が増え、ちょい飲みを視野に入れた定食メニューで業績回復を狙う幸楽苑は、日高屋の牙城である駅前に対応する業態に変化してきた。今後の駅前進出もあり得るだろう。一方、辛いメニューやアルコールの強化で、ちょい飲みの需要を喚起する日高屋は、定食メニューが終日食べられることから客層が広く、野菜たっぷりタンメンのヒットで女性客にも強い。幸楽苑の牙城であるロードサイドへの出店加速へと舵を切った形だ。

 両チェーン共に、タッチパネルや配膳ロボットを活用して人件費を抑えていること、セットで割引するメニューで単価を上げるのに成功している点も、戦略が似ている。

 従来の「ロードサイドの幸楽苑」に対して「駅前の日高屋」という、それぞれの出店エリアが異なり、住み分けがなされてきた時代は終わりつつある。今後は餃子の王将と大阪王将を加えた、町中華の4大チェーンが競り合いながら、後継者難で減少する個人店に代わって、全国に浸透していくのではないだろうか。

(長浜淳之介)

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