任天堂「9年ぶり」の後継機はどうなる? VR、生成AI……未来のゲーム機を考える
Swichの後継機はどんなものになるか?(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)
任天堂は5月7日、公式XアカウントでNintendo Switch(以下、Switch)の後継機種に関するアナウンスを今期中に行うと発表した。2015年3月にSwitchを発表して以来9年ぶり(発売日から数えると約7年2カ月ぶり)となる。
これほどの期間が空いた背景としては、いまだ根強いSwitchの人気、世界的な半導体不足、ゲーム市場の変化など複数の要因が推察される。特にゲーム市場の変化は任天堂の判断に大きな影響を与えているのではないか。
任天堂は次世代機でどのようなゲーム体験をもたらそうとしているのか。昨今のゲーム市場の変化や、技術的なトレンドを材料に考察したい。
●ブランクは過去最長に
これまで、任天堂の据え置きゲーム機は5~6年ごとに新型機が投入されていた。過去最長のブランクはファミリーコンピュータからスーパーファミコンまでの7年4カ月だ。競合であるプレイステーション(PS)シリーズをみると、PS3からPS4、及びPS4からPS5までのブランクがそれぞれ約7年。Nintendo Switchから次世代機までのブランクは、それらを超えて過去最長になる公算が高い。
Switch発売以降、ゲームを取り巻く環境変化は過去に例を見ないほど大きかったといえる。スマホゲームの台頭、協力プレイの増加に伴うコミュニケーション機能のニーズ、中国系ソフトメーカーの急成長、要求スペック上昇などがそうだ。いずれにせよ、期間が空いたことの真相は公式発表を待つしかない。
これまで任天堂のゲーム機は、多くの新しいゲーム体験を提供してきた。家庭用ゲーム機市場を作り出したファミリーコンピュータ、携帯ゲーム機を定着させたゲームボーイ、二画面とタッチ操作を搭載したニンテンドーDS、ゲームに触れていなかった人を多く取り込むきっかけとなった、モーションコントロール搭載のWii、据え置き型と携帯型を統合したSwitchなど、任天堂はさまざまな形でゲーム体験、ゲームの楽しみ方を再定義してきた。次世代機ではどのようなゲーム体験が実装されるだろうか。
●VR・ARとの相性は
注目される新技術として、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)関連技術の進化が挙げられる。2016年の米メタ・プラットフォームズ(旧:フェイスブック)によるOculusシリーズ発売以降、家庭向けVRゲーム機も普及しつつある。
任天堂も、過去にバーチャルボーイ(1995年)やNintendo Labo Toy-Con 04: VR Kit(2019年)でVR表現へ、ニンテンドー3DSのARゲームズ(2011年)でAR表現に挑戦している。
VRは没入感が高い一方で、1台のゲーム機では1人しか遊べない。一方で任天堂の過去のゲーム機をみるに、同社はゲームを通じた(オフラインの)コミュニケーションを重視していると考えられる。そのため、VRゴーグルを次世代機の中心に据えることは考えにくい。
ただ、VR/AR表現が“コントローラー単位”で実装される可能性はどうか。3次元加速度センサーを搭載した「Wiiリモコン」のように、コントローラーの概念を変えた実績はある。例えば、「小型のVR/ARゴーグル」と「ゲームパッド(ボタンなどの操作デバイス)」が1セットになり、1つのゲームコントローラーとして機能するような形式はあり得るのではないか。
●クラウドゲーミングを活用する可能性
「クラウドゲーミング」の普及も注目すべき点だろう。クラウドゲーミングとは、ゲームをクラウド上で処理し、映像としてユーザーのゲーム画面にストリーミングする方式のこと。個々のゲーム機で行う処理はコントローラーからの入力と映像投影程度で済み、画像レンダリングなど高負荷の処理はサーバー側に任せられる。
要求スペックが上昇している昨今、ゲーム機のみで処理を行うのはコスト面で限界がある。クラウドゲーミングによってゲーム機本体の価格を抑えられる点は魅力的だ。
ただし、クラウドゲーミングを十分に楽しむには高速低遅延なインターネット回線が必要となる。日本や北米は光ファイバー回線や5G回線の普及率が比較的高いが、欧州をはじめ他の国・地域はそうではない。そのため、任天堂が強みを持つライトゲーマー層にアプローチできない可能性がある。
次世代機がクラウドゲーミング前提となることは考えにくい。ただし「PlayStation Plus」のような付帯的なサブスクサービス、あるいは特定タイトルや一部の機能に絞り、クラウドゲーミングを用いることは考えられる。
●生成AIを実装する?
また、生成AI活用も注目したい。これまでもNPCとの会話やマップの生成などをランダム生成する手法はあった。これらや、メインストーリーそのものに生成AIを組み入れる可能性もあるのではないか。生成AIをうまく取り入れられれば、個々のプレーヤーによりパーソナライズした体験を提供できるだろう。
その他、対戦型ゲームにおける敵キャラクターや練習パートナーのような振る舞いも可能かもしれない。プレーヤーのプレースタイルを学習し、苦手分野を突いてくるような戦い方をしてくる未来はどうか。
次世代ゲーム機は「今期中に発表」することが公表されたのみであり、任天堂が次に追加するゲーム体験は謎に包まれている。ただしこれまでの概念を覆す新たなゲーム体験を実装し、幅広い層にとってゲームの入口となるような体験をもたらそうとしているのは間違いないだろう。
また、以前紹介したようにゲーム以外の分野へも新規層の獲得、及び自社IPの強化に動き出している点を鑑みるに、次世代機単体としての発表ではない可能性もある。
多くのファンが心待ちにするなか、任天堂はどのような発表をあたためているのか。引き続き注視したい。
●著者プロフィール:滑 健作(なめら けんさく)
株式会社野村総合研究所にて情報通信産業・サービス産業・コンテンツ産業を対象とした事業戦略・マーケティング戦略立案および実行支援に従事。
またプロスポーツ・漫画・アニメ・ゲーム・映画など各種エンタテイメント産業に関する講演実績を持つ。