米大陸に新幹線の夢、テキサス高速鉄道の計画復活で現実に一歩近づく
(ブルームバーグ): 米大陸を高速鉄道が走る。関係者が一度は挫折した長年の夢に、ようやくレールが敷かれ始めた。
フロリダ州オーランドとマイアミを結ぶ「高速」鉄道システムを推進する民間企業ブライトラインは、ラスベガスと南カリフォルニアを時速200マイル(322キロメートル)で結ぶ本物の高速鉄道プロジェクトで4月に着工した。いずれはサンフランシスコとロサンゼルスを結ぶことを視野に、まずは2030年代初頭に加州中央部のセントラルバレーに最初の区間をオープンすることを目指している。これとは別にアムトラック(全米鉄道旅客公社)は、ボストン・ワシントン間の所要時間を1時間短縮する一連の改良を予定している。
革命前夜
アムトラックは最近、テキサス州のダラスとヒューストンを高速鉄道で結ぶ長期計画を復活させた。
米国は「高速鉄道の革命前夜を迎えた」と同社の高速鉄道開発プログラム担当上級副社長、アンディ・バイフォード氏は言う。飛行機や自動車に代わる「移動手段があるという事実に、人々は突然気づき始めている」と語った。
全長約390キロメートルのダラス・ヒューストン区間は、高速鉄道にとって理想的だとバイフォード氏。「ちょうど良い距離だ。潜在的な乗客数は膨大だ」と述べた。
この距離は自動車で少なくとも3時間半かかる。それを高速鉄道なら90分もかからない。
しかしこの構想は「300億ドル(約4兆7000億円)を超える」プロジェクトであり、依然そのハードルは極めて高いとバイフォード氏は指摘する。テキサス州議会は州予算の鉄道輸送充当に前向きではない。
このルートでの超高速鉄道は過去にも試みがあった。「テキサス・スーパートレイン」の名を冠した構想は、住民やダラスに本社を置くサウスウエスト航空からの反対に遭い、数年でとん挫した。
現在進められているダラス・ヒューストン間新幹線計画は、JR東海と提携するテキサス・セントラルが2009年に立案。その後の10年間で国際協力銀行からの3億ドル融資を含め、数億ドルを調達した。2020年までには環境関連で必要なすべての許可を取得し、連邦当局からもJR東海の新幹線ネットワークから機器を調達することも承認済み。建設に必要な用地の30%を取得した。
「10ヤードラインまで来ていたのに」と振り返るのは、ロビー団体テキサス・レール・アドボケーツのピーター・ルコディー氏。テキサス・セントラルは2022年、取締役会を解散し、事業は停止したかに見えた。
岸田文雄首相
状況が変化したのは2023年8月。アムトラックはテキサス・セントラルと協業する機会を模索していると発表した。ホワイトハウスのファクトシートによれば、岸田文雄首相が今年4月にバイデン米大統領と会談した際、このプロジェクトが話題に上った。
アムトラックはこのプロジェクトを進めるべきかどうか、まだ審査の段階だとバイフォード氏はいう。「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が去った今、ビジネス面での論拠は極めて強い」と述べた。
欧州やアジアで普及している高速鉄道サービスを、北米の旅行者は知らない。 日立レールが最近サンフランシスコと首都ワシントンの住民を対象に行った公共交通に関する調査では、高速鉄道路線があれば短距離便の削減を支持すると54%が回答した。
少なくとも今のところ、政治的な風向きも良好だ。ブティジェッジ米運輸長官は「高速鉄道およびこのプロジェクトに極めて協力的」だと、バイフォード氏は語る。「政府はこのプロジェクト成功を望んでいる」と述べた。
テキサス・セントラルが参考にできる唯一の前例は、民間資本による米鉄道サービスであるブライトライン・フロリダだ。フロリダ州マイアミとオーランドを最高時速約200キロメートルで結ぶこの鉄道は、運営後最初の四半期で月間利用者数が平均24万1000人と、予想を下回っている。
テキサス・セントラルの資金集めは厳しい道のりだ。しかしリック・ハーニッシュ氏ら賛成派は高速鉄道の革命が全米に広がることを切望する。「すでに大きな進展を遂げた。実際に2つのプロジェクトが着工していることは、情勢を一変させる」とハーニッシュ氏。「テキサス・セントラルの計画が動き出せば、事態は前に進む」と述べた。
ジョージア州アトランタ・ノースカロライナ州シャーロット間や、オレゴン州ポートランド・ワシントン州シアトル間、さらにはブライトライン・ウエストとカリフォルニア高速鉄道を結ぶハイ・デザート区間など、複数の高速鉄道プロジェクトが現在検討されている。これらのプロジェクトの費用を賄うには、連邦政府から新たな資金を必要とする可能性が高い。
米国人が初めて超高速鉄道の切符を買うようになれば、この交通手段に対する大衆的・政治的熱意は高まるとバイフォード氏は考えている。「真の高速鉄道が稼働し、実際に乗客がそれを体験すれば、自分たちの都市にも開通してほしいと市長らは騒ぐだろう」と述べた。
原題:Texas High-Speed Rail Plan Re-Emerges, With Amtrak Support(抜粋)
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