ウクライナ軍のT-64戦車はまだまだ尽きない 新編旅団にも配備、長期戦に光明
ウクライナ軍のT-64戦車はまだまだ尽きない 新編旅団にも配備、長期戦に光明
ウクライナ軍は昨年10月、第150独立機械化旅団を新たに編成した。ウクライナ軍の地上兵力を構成するおよそ100個旅団(編集注:陸軍、海兵隊、空中強襲軍の戦闘旅団の合計。領土防衛隊の30個旅団は含まず)を増強するため、小規模な動員で組織されたものだった。
新たな旅団の編成自体は、とくに注目すべき動きでもない。ロシアがウクライナに対する戦争を拡大してから2年4カ月の間に、ロシア軍もウクライナ軍も新たな連隊や旅団をいくつも編成してきた。専属の幕僚や支援部隊をもつ新たな旅団を組織すれば、戦闘で疲弊した旅団と丸ごと入れ替え、後者に休息や補充、再訓練の時間を与えることができる。
第150旅団に関して注目すべき点は、その装備だ。この新編旅団には、T-64戦車の改良型T-64BV 2017年モデルが配備されている。これは、戦争拡大から2年以上が経過し、ウクライナ軍の戦車がロシア軍の地雷や大砲、ドローン(無人機)で何百両と失われたあとでもなお、ウクライナが新たなT-64を生み出し続けていることを意味する。
戦争が3年目に入る見通しとなるなか、これはよい兆候だ。ウクライナ軍は、戦場で歩兵のタクシーのような役割を果たす歩兵戦闘車(IFV)や装甲兵員輸送車(APC)を十分な数入手するのに苦労している一方、少なくとも戦車は十分な数を保有している。
重量38t、乗員3人、ディーゼルエンジンのT-64は冷戦期の代表的な戦車のひとつで、数百mmの装甲、125mm滑腔砲、この主砲用の自動装填装置などを備える。ロシアとの国境からわずか40kmほどのウクライナ北東部ハルキウ市にあるマリシェウ工場で、1963年から1987年にかけて生産された。
1991年のソ連崩壊後、ウクライナにはソ連軍のT-64が数千両、一説によると少なくとも3000両残された。マリシェウ工場は後継のT-72戦車やT-80戦車とともに継続使用できるように、T-64を約1000両を改修している。第150旅団に配備されたものを含め、新たに改修されたT-64の供給が続いているのは、残りのT-64から充当されているからだと推測される。
2014年、ウクライナ南部のクリミア半島がロシア軍の侵攻を受けると、ウクライナ国防省は国内各地の広大な車両置き場で保管されていた古いT-64を回収し、修理させ始めた。クリミア侵攻と続くウクライナ東部ドンバス地方への侵攻で始まった戦争をロシアが2022年2月に拡大したあと、この回収・修理作業が大幅に加速されたのはほぼ確実だ。
マリシェウ工場は戦争が拡大した直後にロシア軍の攻撃を受け、深刻な損害を被った。だがウクライナの産業界は戦時下で適応し、攻撃にさらされにくい都市に既存の設備を分散させたり、小規模な施設を新たに設けたりした。並行して、ウクライナ政府はポーランドとチェコの工場でT-64を修理・改良する取り決めを結んだ。
ウクライナ軍がこれまでにT-64を戦闘で430両ほど失いながら、引き続きこの戦車を既存の旅団に配備しているばかりか、新たな旅団にも配備できているのは、ウクライナの戦車産業の拡大と一部の外部委託から説明できるだろう。
注目に値するのは、修理・改修のためウクライナからチェコに送られたT-64がまだ1両もないことだ。これは、T-64のオーバーホール需要が現状、ウクライナとポーランドの産業界で賄えていることを示唆する。言い換えれば、ウクライナはT-64の修理や改良で余剰のインフラすらある可能性があるということだ。
もっとも「新たな」T-64とはいっても、元の古い車体に現代的な光学機器や射撃統制システムを搭載したものなので、ウクライナのT-64も有限な資源ということになる。いずれ在庫は尽きるだろう。
しかし、それはすぐではないだろう。ウクライナ軍のT-64の損失ペースは年に180両ほどとなっている。ソ連軍がウクライナに残したT-64のうち数百両を修理・改良できれば、さらに数年は激しい戦闘に使い続けることができそうだ。
一方、前線で失った戦車の補充を古い戦車の再生に頼っているロシア軍も、さらに数年、大規模な戦闘を続けるのに十分な数の戦車を確保できる可能性がある。
ロシア軍もウクライナ軍も、補充用の戦車は国内に備蓄していた古い戦車だけではない。ロシアは年に500〜600両のペースで戦車を新造している。ウクライナは支援諸国からこれまでに700両ほどの戦車を受け取り、今後数カ月でさらに300両取得できる見込みだ。より長期的には、ドイツ企業との間でドイツ設計の戦車のウクライナ国内での生産に向けた交渉も進めている。
ともあれ、ウクライナ軍の旅団ではしばらくの間、冷戦時代の遺物である数百両のT-64が、引き続き重火力の主力を担うことになるだろう。
(forbes.com 原文)