丸亀製麺さん、正気ですか!?まさかのドーナツ発売に不安も…「うどーなつ」がヒットしそうな3つの理由
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うどんチェーンの丸亀製麺が、6月25日から全国の店舗でドーナツの販売を始めました。生ドーナツでブーム再燃中のドーナツですが、「うどん屋が参入して大丈夫なの?」と思う方もいるかもしれません。しかし、丸亀の「うどーなつ」にはヒットしそうな3つの理由があるのです。(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
丸亀製麺がまさかのドーナツ発売
大丈夫なのか…?
丸亀製麺が6月25日から全国の店舗でドーナツの販売を始めました。
先に読者の皆さんには感想を頭に浮かべていただきたいと思います。「丸亀製麺がドーナツ」というニュースを耳にして不安を感じた方も多いのではないでしょうか。
日本では王者ミスタードーナツが長年にわたり成功を収めている一方で、ドーナツのニュービジネスが生まれては消えていく歴史が繰り返されています。
バブルの頃にはアメリカ最大のドーナツチェーンである“ダンキンドーナツ”が日本に上陸していたのですが、そこそこ人気はあったものの最終的には日本から撤退します。
21世紀に入ってアメリカから“クリスピー・クリーム・ドーナツ”が上陸します。その柔らかな食感と甘さで一躍ブームになり、新宿駅南口の1号店の店頭には2時間待ちの行列ができました。その後ブームが終わり一時はかなり縮小に追い込まれましたが、戦略を見直して小型店で日本向けの味にアレンジしたことで国内59店舗まで回復しています。
記憶に新しいのは、セブンイレブンが大々的にレジ横でドーナツを販売した当時のことです。セブンカフェとの相乗効果を狙ったのですが、コーヒーと一緒にドーナツを買って帰る顧客は思ったほどはおらず、やがてドーナツケースは売り場から消えていきます。
丸亀の「うどーなつ」
“ニュービジネスとして筋がいい”3つのワケ
そして最近ですが、生ドーナツが10代から20代女子にブームです。「ミスタードーナツのメニューでいえばエンジェルクリームのような」というと身も蓋もない表現ですが、ふわっとした生地にじゅわっとするクリームがたっぷり入っていて美味しいのが生ドーナツです。
生ドーナツは美味しいですし、ブームに水を差すつもりも毛頭ありません。
ただ、コンビニでも類似品が売られるほどの状況になってくると、未来予測専門の経済評論家としては頭の中に懸念がなんとなく湧き上がってくるのです。
さて、ここでの本題は生ドーナツではなく丸亀製麺の「うどーなつ」です。現在はクリスピー・クリーム・ドーナツから数えて第三次ドーナツブームだとも言われているのですが、そのブームに乗って登場した感のある「うどーなつ」、果たして大丈夫なのか?という話です。
ここまでのちょっと暗いイメージのエピソードから入っておいて何ですが、私の見立てでは「うどーなつ」は結構筋がいいという話をしたいと思います。
そもそもこの「うどーなつ」、かなり美味しいです。
ひとくちで食べられるボール型の小さなドーナツで、原材料の30%は丸亀製麺のうどんです。これが物凄くもちもち感がある。だから見た目は小さくても食べ応えは相当あります。
店頭で「きび糖味」と「カレー味」どちらかのパウダーをかけて、紙袋の中でシャカシャカと混ぜるタイプです。
ベテラン店員によると、「カレー味ときび糖味を混ぜると【甘めのキーマカレー風】に、 きび糖味を持ち帰って、家でソースをかければ【明石焼き風】になる」とのこと Photo:DIAMOND
おそらく初動としては「きび糖味」の方が人気なのでしょう。なぜなら個人の感想として美味しいというだけでなく、私が購入したときには、きび糖の方がタッパの中で残りわずかな分量に減っていたのです。
一方で、友人によればカレー味ときび糖味のパウダーを混ぜると絶妙な甘さのキーマカレー味になるそうです。SNSではこういった食べ方がバズるかもしれません 。
ただ飲食業をされている方なら誰でも経験があるように、美味しい商品が売れるわけではない。ここが新商品開発の難しいところです。
しかしこの「うどーなつ」、売れるかどうかは別にしても、成功する新事業の条件を実にうまく満たしているのです。今回の記事では「筋がいい理由」を3つの切り口から説明したいと思います。
理由1:顧客の隠れた「負」を解消
丸亀の弱みは「デザートがない」ことだった!
丸亀製麺はサイゼリヤやマクドナルドと並ぶ外食産業の勝ち組です。何と言っても顧客に支持されています。
お店で粉からつくる打ち立てのうどんメニューを選び、好きな天ぷらをトッピング注文し、小腹がすきそうならおにぎりも一緒に購入する。手軽な価格で手軽な食事を提供してくれるという点で、丸亀製麺に顧客は満足しています。
ただ、ニュービジネスを考えるにあたっては、この一見満足しているはずの顧客のどこかに「負」の要素がないかを発見することが重要です。
そう考えるとひとつ思いつくことが、食後にデザートが食べられない。これがこれまでの丸亀製麺の「負」でした。
確かに思い出してみると、私も家族でよく丸亀製麺に行くのですが、必ずといっていいほど帰りにコンビニに寄ってスイーツを買うのがわが家のルーチンでした。
この「負」をどのように解消するか。単純に考えればスイーツメニューを加えればいいことになるのですが、考えてみるとこれが意外と難しいことがわかります。
回転寿司と違って丸亀製麺では注文は一度で済ますため、回転寿司チェーンで人気のアイスクリームやパフェなどの食後にに向いたメニューは溶けるため設定しづらいという課題があります。
若い方はあまり気にしないかもしれませんが、うどんは和食なのでスイーツもできれば和テイストがいい。
先払いで注文できる和のスイーツとしては「大学いも」や「おはぎ」などが定番でしょうか。悪くはないのですが、うどんと違い工場で作ったものを店頭で販売することになるので、管理が少し複雑になります。
その点、ドーナツは小麦粉をこねてつくり、油で揚げる食べ物です。設備的には店内のうどんと天ぷらの設備で製造できます。「うどーなつ」の場合、味は和のスイーツに寄せてあります。そう考えると顧客の「負」を解消するスイーツとして「うどーなつ」はいい着眼点なのです。
理由2:オペレーションが簡単という商品特性
ドーナツはチェーン店舗で展開しやすい!
顧客ニーズの観点から「うどーなつ」がフィットするという話をしましたが、実はドーナツは店舗オペレーションの面でも有利な点があります。
というのも、ドーナツという商品は実はチェーンオペレーションに向いているのです。理由は味の違いを生み出すレシピの部分さえ確立できれば、店頭での製造はそれほど熟練を必要とはしないのです。
これを裏付ける話があります。アメリカの西海岸にはたくさんのドーナツ店があります。東海岸から進出した大手ドーナツチェーンもたくさんあるのですが、実は地場系のドーナツ店がたくさんあるのが西海岸の特徴です。
そしてもうひとつの特徴は、それらのお店の多くはカンボジア人が経営しているのです。その歴史はポルポト政権によるカンボジアの弾圧に始まります。
この弾圧を逃れてアメリカに難民として渡ってきたカンボジア人の中にテッド・ノイさんがいました。彼はアメリカでドーナツチェーンのフランチャイジーのビジネスを始め、そこでドーナツビジネスを学びます。
その後、独自のドーナツ店を始めたノイさんは、後からカンボジアを脱出した親族や友人などにつぎつぎとドーナツ店を開業するように手助けをします。
朝早く起きて真面目にドウを練り、勤勉にドーナツを揚げていく仕事は、家族経営としては大変な仕事ですが、新天地にわたってきた移民にとっては自力で生計を立てやすい良い仕事だったのです。
ノイさんの人生については『ドーナツキング』というドキュメンタリー映画にもなっているので、ご興味のある方は動画配信などでご覧になるといいかもしれません。
本筋の話に戻ると、ドーナツという製品はレシピさえ完成すれば、あとは勤勉さで作ることができる食品なのです。
丸亀製麺のプレスリリースによれば「うどーなつ」については構想3年、うどんを材料に配合量や生地を寝かせる時間について試行錯誤を重ね、独特のもっちもち食感を生み出したといいます。
こだわりが強いこの商品ですが、苦労が必要なのはこの開発段階までで、一度レシピが確立すれば、どのお店でも丁寧に作れば同じ味が再現できる。つまりドーナツは丸亀製麺のチェーンオペレーションにとても向いていたのです。
理由3:市場としてはブルーオーシャン
既存のドーナツ店は、競合にならない
なぜ、日本ではドーナツのブームが来てもあまり定着しない状況が繰り返されているのでしょうか?要因が2つあります。
まず、そもそもアメリカのように文化としてドーナツが定着していないこと。
それに加えて、ドーナツは美味しさがあまり日持ちしないという欠点があります。作り立ては美味しいのですが、冷蔵庫に入れて1日たつと食感が変わってしまいます。スーパーでもドーナツは売られていますが同じ課題を抱えています。
このような事情から日本の市場ではドーナツ店が生まれてはまた減っていくサイクルを繰り返してきました。
長期安定的に残っているのはミスタードーナツの店舗ですが、それでも全国に約1300店程度。マクドナルドの約3000店やコンビニの約5万店と比べれば国内需要はその程度しかないのです。
では丸亀製麺はどうなのか?
ここが私は「うどーなつ」のビジネスとしてのポイントだと考えるのですが、「うどーなつ」は既存のドーナツ店とは競合しないのです。
ミスタードーナツや生ドーナツとは需要が違うと言ったほうがわかりやすいかもしれません。
というのもミスタードーナツとは違い、「うどーなつ」を食べる人はそもそもうどんを食べに来店するのです。「今日のデザートはポンデリングにしようか、それともうどーなつにしようか?」と悩んで来店する人は圧倒的に少数派なのです。
普通に昼ご飯を食べるために丸亀製麺に来店した消費者が、うどんを注文し、レジで5つ入りのうどーなつ1袋を300円で購入して、食後に1個つまんで食べます。2個でもいいのですが、結局食べきれずに家に持ち帰ります。
それで家族もそれを食べて「これいいね」ということになり「今度行ったらまた買ってきてよ」となる商品が「うどーなつ」です。
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これは考えてみると日本ではあまり類似例のない消費です。
昭和の時代で言えば不二家のレストランにでかけて帰りに不二家のお菓子を買って帰る感覚でしょうか。マクドナルドでもガストでも牛角でもワタミでも、こういった消費行動を前提にしたヒット商品というのはあまり見当たりません。あえて言えば宅配ピザのデザートぐらいでしょうか。
そう考えると「うどーなつ」はドーナツ市場とは競合しないブルーオーシャンの商品だということがわかります。
ブルーオーシャンであるがゆえにヒットしなければ消えていく運命も考えうるのですが、競合がいない分、そうならずに売上を伸ばす可能性にも結構期待ができる。なにしろ丸亀製麺の顧客全員が潜在的顧客なので、普通のスイーツよりも売りやすいのです。
ニュービジネスの未来予測というのは本来は予測が難しいもので、筋がよくても消えていく新商品はたくさんある世界なのです。
それでも、少なくとも今言えることは、丸亀製麺の「うどーなつ」はニュービジネスの定石から考えると、結構筋がいいということなのです。