7月3日に新紙幣発行、券売機の交換「間に合ってほっとした」…キャッシュレス移行の店も
7月3日の新紙幣発行まで1週間を切った。新しい「顔」となる偉人ゆかりの地は祝賀ムードに包まれ、飲食店などでは券売機の交換が急ピッチで進むが、対応の遅れや負担増への悲鳴も聞かれる。この機会に現金の取り扱いをやめ、キャッシュレス決済に移行する店も出ている。(礒村遼平)
地元の誇り
新1万円札の肖像は「日本資本主義の父」と呼ばれる実業家・渋沢栄一だ。渋沢が長年暮らした東京都北区は様々なPRを展開しており、今月は区内の飛鳥山公園でプロジェクションマッピングを使い、渋沢の軌跡を紹介するイベントを開催。発行日はセレモニーを開いてデビューを祝うという。区内のパート従業員(60)は「地元の誇りだ。発行が待ち遠しい」と顔をほころばせた。
来月3日に発行される新1万円札の見本=国立印刷局のホームページから
5千円札には津田塾大創設者の津田梅子が、千円札には細菌学者の北里柴三郎が起用される。北里の出身地、熊本県小国町も歓迎一色で、同町の「北里柴三郎記念館」では発行日が近づくにつれて来館者が増えており、ひ孫の北里英郎館長(67)は「これを機に柴三郎の業績や人柄を広く知ってほしい」と話した。
「大きな負担」
さいたま市中央区のうどん店「武蔵野うどん藤原 北与野本店」は今月中旬、新千円札に対応可能な券売機に交換し、経営する藤原幸喜さん(62)は「間に合ってほっとした」と語った。系列2店舗の導入も含め計約210万円かかったが、藤原さんは「両替していると料理の手が止まる。お客さんの利便性も考えれば、交換せざるを得ない」と話した。
うどん店「武蔵野うどん藤原 北与野本店」に導入された新紙幣対応の券売機(さいたま市中央区で)
近畿地方などでうどんやカレー店を展開する「得正」(本社・大阪市中央区)も1400万円かけて直営十数店の券売機を換えるなどした。ただ、フランチャイズ店の一部は7月3日に間に合わないという。物価高の中での対応に、同社システム担当の富永裕治さん(57)は「薄利多売な業態だけに大きな負担」とこぼす。
キャッシュレス決済
券売機を販売する「エルコム」(東京)では連日注文に応じているが、製造が間に合わず、納品が3~6か月遅れになっている。自販機メーカーなどで作る「日本自動販売システム機械工業会」(同)の担当者は「飲食店の券売機で新札に対応できるのは、発行時までに5割程度だろう」との見通しを示した。
来月3日に発行される新5千円札の見本=国立印刷局のホームページから
東京・大手町のラーメン店「銀座 篝(かがり) 」は、新紙幣発行に伴いキャッシュレス決済一本にした。店長は「売り上げの集計が短縮化できるし、外国人観光客も利用しやすいようだ」と語る。明治大の飯田泰之教授(経済政策)は「新紙幣発行を機に決済手段の基本が現金からキャッシュレスに逆転する可能性がある」と話している。
「3Dホログラム」など高度な偽造対策
来月3日に発行される新千円札の見本=国立印刷局のホームページから
新紙幣には、肖像が3次元に回転して見える「3Dホログラム」を世界で初めて採用したほか、「すかし」にも高精細な模様を入れるなど高度な偽造対策が施されている。額面の数字を大きく表示し、触れると紙幣の種類が識別できるユニバーサルデザインも導入した。
新紙幣発行に便乗し、これまでの紙幣をだまし取る詐欺行為には注意が必要だ。
警視庁は27日、東京都内の80~90歳代の男女4人が3月以降、金融機関職員を装った人物から「古い紙幣は使えなくなるので交換する必要がある」などとうその電話を受け、現金計約1500万円をだまし取られたと発表した。財務省によると、現行紙幣のほか、「聖徳太子」の1万円札など発行されていない旧紙幣18種類もこれまで同様に使用できる。警視庁幹部は「不審な電話には注意してほしい」と呼びかけている。