なんと、「紀元前から」探し始めて、まだ「たったの51個」…じつは「偶数しか見つかっていない」完全数の、じつに「謎だらけ」性質
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今回は、今日6月28日にちなんで、「6」と「28」にまつわるお話です。
この2つの数字に共通するのは、ともに「偶数」であることと、ともに「完全数」であること。
「完全な数」とは、また大げさな名前ですが、ピタゴラスやユークリッドに始まり、オイラーにいたるまで、名だたる数学者たちを夢中にさせ続けてきた「謎めいた数」なのです。
なにしろ、まだ「51」個しか発見されておらず、そのすべてが「偶数」だというのですが……!?
今日はなんの日?
「○○の日」という名前のついたいろいろな記念日があります。国民の祝日として定められている「成人の日」「こどもの日」などがありますし、語呂合わせで2月3日は「ふみの日」、4月6日の「城の日」など、たくさんの記念日が考えられています。
では、今日、6月28日はなんの記念日かご存じでしょうか。
この日は「パフェの日」とよばれています。プロ野球史上初めてパーフェクトゲーム(完全試合)を達成した日ですが、フランス語の「パルフェ」がパーフェクトという意味があるところから、英語読みの「パフェ」が広まり、「パフェの日」というようになったそうです。
しかし、6月28日はもうひとつ、「完全数の日」ともよばれています。こちらの呼び名はあまり知られていないかもしれません。数学的な意味合いからつけられていて、6と28がともに「完全数」とよばれる数であることに由来しています。
完全数のふしぎな性質
「完全数」とはどのような数でしょうか。
6の約数は、1, 2, 3, 6の4つです。1とその数自身はいつも約数として考えます。6の約数の中で、6自身を除いた約数を足してみると
1+2+3=6
となり、「自分自身を除いた約数を足すと、その数自身になっている」という特別な性質をもっています。このような性質をもった数を「完全数」といいます。
【図】完全数の説明 6の場合
6の次の完全数は28です。28の約数で自分自身を除いた数は1, 2, 4, 7, 14です。これらを足すと
1+2+4+7+14=28
となります。
【図】完全数の説明 28の場合
完全数のことを英語でパーフェクトナンバーといいますから、この意味でも6月28日は期せずして2つの「完全」が重なった日といえます。ここまでの詳しいことは、こちらの記事〈偶然にしては、じつに「できすぎ」ている…「パフェの日」にひそんでいた、まったく思いもよらない「衝撃の事実」〉を見てください。
ここでは、完全数についてもう少し詳しく説明してみましょう。
完全数はなぜ「完全」なのか
「完全数」という名称は、古代ギリシャの数学者・ピタゴラスが与えたといわれています。聖書のある解説者は、6と28が完全数であることの根拠を、天地創造が6日でなされ、月が地球の周りを28日で1周することにあると考えました。
しかし、聖アウグスチヌスは「神が6日で世界を創ったから6が完全数なのではなく、6が完全数だから、神は世界を6日間で創ったのだ」といっています。
1世紀頃までに、さらに2つの完全数496、8128が見つかっています。
古代ギリシャの数学者・ユークリッドは著書『原論』の中で、
2ⁿ-1が素数のとき、2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)は完全数である
という定理を書いています。実際、n=2のとき、2ⁿ-1=2²-1=3が素数だから、
2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)=2・3=6
です。また、n=3のとき、2ⁿ-1=2³-1=7が素数だから、
2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)=4・7=28
となります。
このユークリッドの定理より、2ⁿ-1の形の素数を見つければ、完全数が見つかることになります。そして面白いことに、2ⁿ-1が素数ならnが素数であることがいえるので、素数nについて、2ⁿ-1が素数である場合を考えればよいことがわかります。
3の次の素数は5で、2⁵-1=31は素数なので、3番目の完全数
2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)=16・31=496
が得られます。次の素数7について、2⁷-1=127も素数なので、4番目の完全数
2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)=64・127=8128
が得られます。
しかし、ある数が素数であるかどうかを判定するのは非常に難しく、5つ目の完全数が見つかったのは1400年ほど後のことです。7の次の素数11に対し2¹¹-1=2047=23・89で素数ではないので、完全数は得られません。次の素数13に対して2¹³-1=8191は素数なので、5番目の完全数
2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)=4096・8191=33550336
が得られます。
立ちはだかる難題
2ⁿ-1の形の数は「メルセンヌ数」とよばれ、これが素数のとき「メルセンヌ素数」とよばれています。メルセンヌは16世紀の神学者で、この形の素数を研究したことにより彼の名がついています。
【写真】マラン・メルセンヌの肖像
2ⁿ-1の形の素数が見つかれば完全数が得られるのですが、では、この式ですべての完全数が得られるのでしょうか。
18世紀の数学者・オイラーは
偶数の完全数は2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)(2ⁿ-1は素数)である
ことを示しています。つまり、2ⁿ-1の形の素数を見つければ、偶数の完全数はすべて得られることが、このオイラーの定理によって保証されるのです。
また、完全数の1の位を見ると、すべて6か8になっていますが、これは2ⁿ⁻¹(2ⁿ-1)の形から簡単に示すことができます。偶数の完全数の形はわかっていますが、偶数の完全数が無数に存在しているか、いいかえるとメルセンヌ素数が無数に存在しているかどうかはわかっていません。
では、奇数の完全数はあるのでしょうか。
じつは、奇数の完全数が存在するかどうかはわかっていません。奇数の完全数は1つも見つかっていませんし、その存在についての証明もありません。
ただし、10¹⁵⁰⁰以下の範囲にはないことがわかっています。そして、もし奇数の完全数が存在すれば、同じ素因数を重複して数えたときに素因数の個数が101個以上であることや、最大素因数は10⁸より大きくなることなどがわかっています。
52個目の完全数を探せ!
完全数を探索する努力は、ずっと継続して続けられてきました。
2ⁿ-1の形の素数を見つければ完全数が見つかるので、この形の素数の判定法なども研究され、新しい完全数が見出されていきました。1950年代以降は、コンピュータによって探索が続けられています。
高校生が発見した完全数もあります。25番目の完全数2²¹⁷⁰⁰(2²¹⁷⁰¹-1)は、1978年にアメリカの高校生、ノル君とニッケルさんによって発見されました。ノル君は翌1979年にも、次の完全数を見つけています。
偶数の完全数を見つけることはメルセンヌ素数を見つけることに尽きるわけですが、 現在では、新しいメルセンヌ素数を見つける意義は完全数を見つけることそれ自体にあるというより、大きな素数を見つけることにシフトしています。
現代社会の情報のセキュリティは暗号によって守られていますが、この暗号は大きな素数によって守られています。大きな数を素因数分解する困難さが暗号の解読を困難にしており、大きな素数を見つけることは現代社会の重要なニーズでもあるわけです。
メルセンヌ数は素数の判定がしやすいことがあって、大きな素数が発見されたときは、メルセンヌ素数であることが多いのです。現在、51個のメルセンヌ素数が発見されていますが、最大のメルセンヌ素数は、2018年12月に発見された2⁸²⁵⁸⁹⁹³³-1で、なんと24862048桁の大きな数です。
したがって、現在発見されている最大の完全数は2⁸²⁵⁸⁹⁹³²(2⁸²⁵⁸⁹⁹³³-1)となり、この数の自分自身を除いたすべての約数の和が、この数自身になっているはずです。気の遠くなるような話ですが、実際に計算をして確かめなくてもわかるところが数学の威力です。
はたして52個目のメルセンヌ素数、そして完全数を発見するのは誰なのでしょう。
6月28日はパフェでも食べながら、古代から多くの数学者が探求し続けてきた完全数に思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。
*この記事は、2021年6月28日に配信したものを再編集したものです。
*好評の西来路さん、清水さんによる数学記事、次回は7月7日公開予定です。お楽しみに。
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