「室温約35℃」冷蔵庫は過酷な環境でも冷却し続けられるのか…?パナソニック「南草津工場」のスゴい実験
さらなるシェア数の向上のために
パナソニックで家電事業を行うくらしアプライアンス社は、2024年5月28日に草津工場(滋賀県)で冷蔵庫事業の報道関係者向け発表会を実施した。パナソニック くらしアプライアンス社 常務でキッチン空間事業部 事業部長を務める太田晃雄氏は、「2030年に今の1.5倍の販売を目指して世の中に貢献していきたい」と語った。
パナソニック くらしアプライアンス社の太田晃雄常務
2030年に2023年比で1.5倍の売り上げを目指すと発表した
太田常務は「具体的な数字は申し上げられない」としつつ、「国内ではシェアナンバーワンだが、さらにシェアを伸ばして断トツナンバーワンを目指したい」と続けた。
同社はインドやインドネシア、ブラジル、中国などに製造拠点を持っており、冷蔵庫事業の売上高の3分の2を海外で稼いでいる。今後国内も海外も同じく1.5倍に伸ばしていきたいとのことだ。
パナソニックの冷蔵庫事業の製造・研究開発拠点
「国内に関してはIoT家電やリファービッシュ(中古再生家電の販売)も含めて新しい業態やチャンネルでの販売、もしくはビルトインのようなキッチン空間に即した商品などでシェアと販売を上げていこうと考えている。海外はインドやインドネシア、ブラジルなど市場が大きく伸びるところに工場を持ってビジネスをしているので、そこの需要の伸びも含めてシェアも伸ばしていけば、1.5倍は達成可能な数値と考えている」(太田常務)
2023年にはIoTを活用した延長保証サービスや遠隔診断サービスも開始。2024年4月には検査済み再生品を販売する「Panasonic Factory Refresh」も開始した
パナソニックは返品を可能にすることを前提に、家電量販店やECサイトなどに指定した価格で製品を販売してもらう「指定価格制度」を2020年から開始している。メーカーは値崩れを防ぐことができ、販売店は在庫リスクを抱えずに済み、消費者はどの店でも安心して同じ価格で購入できるということで同社は“三方良し”としている。2023年10月には日立グローバルライフソリューションズも導入した指定価格制度だが、こちらも順調に推移しているとのことだ。
「新販売スキーム(指定価格制度)は当初導入に抵抗感もあったが、ようやく流通やお客様も含めてご理解いただけた。商品の力もあるが、昨年よりもシェアを伸ばしている状況だ」(太田常務)
パナソニック コンシューマーマーケティング ジャパン本部 商品マーケティングセンター 冷蔵庫・食洗機マーケティング部 部長の福島伊公男氏は「昨年度は冷蔵庫の新販売スキームの販売構成費は約35%で、2024年度は4割を目指していきたい」と語った。
「我々は400L超とそれ以下で大きくカテゴライズしており、400L超は今15品番ある中で新販売スキームを10品番、つまり約75%が新販売スキームで展開する形になる。新販売スキームは商品に魅力がないとお客様に受け入れてもらえないので、商品作りとセットで今後の展開を検討していきたいと考えている」(福島氏)
パナソニック コンシューマーマーケティング ジャパン本部 商品マーケティングセンター 冷蔵庫・食洗機マーケティング部 部長の福島伊公男氏
少量多品種を効率よく作れるミックス生産方式を今後も追求
利益率を上げていく上で工場の改革も必要になるが、それに対して太田常務は次のように語った。
「冷蔵庫は非常に物が大きいので、倉庫代や物流費などのコストが大きい。従来は大量生産型でラインに流していたが、我々は(バラバラの品種を同じラインで生産する)ミックス生産をずっとやってきた。これをさらに進化させていきたい。店頭で1台売れたらすぐに1台補充するために1日に全機種を作るのが究極の理想だとすれば、それに近い形を新工法を含めて追求していきたい。多品種少量でも低コストかつ在庫を抑えられる生産方式を今後も続けていきたい」(太田常務)
パナソニック くらしアプライアンス社 キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機BU 冷蔵庫モノづくり統括 冷蔵庫工場 工場長の浜端孝行氏は次のように補足した。
「ミックス生産は非常に多数の機種を毎日作れるので、市場にこまめに供給できる利点はあるが、ものづくりが非常に難しい点もある。作業者が部品を取る際に間違えないように、冷蔵庫のバーコードを読むと部品のランプが光り、そこから部品を取るなど、作業者が迷わないようなシステムにしている。このような取り組みを中心に進めている」(浜端工場長)
パナソニック くらしアプライアンス社 キッチン空間事業部 冷蔵庫・食洗機BU 冷蔵庫モノづくり統括 冷蔵庫工場 工場長の浜端孝行氏
記者会見の前後には冷蔵庫工場の見学会も実施されたので、その様子も紹介しよう。
南草津工場の冷蔵庫組み立てラインの全景
多品種の製品が一緒に流れる「ミックス生産方式」を採用している
冷蔵庫の心臓部であるコンプレッサーと配管をロウ付けし、ガス漏れがないかを検査する工程
社内認定試験に合格した有資格者のみがロウ付け作業を行っている
ドアを取り付ける工程
ドアや引き出しが正しく取り付けられているか確認している
“パナソニッククオリティ”を実現するための検査工程
太田常務は、同社の“ものづくりのこだわり”として「設計品質」、「製造品質」、「製品審査」の3つを挙げた。
「設計品質としては日本を含め非常にさまざまな気温や湿度があるので、しっかりとそれに合わせた冷却試験を実施している。製造品質としてはここの工場の特徴である『ミックス生産』がお客様の多種多様なニーズにタイムリーに対応する。それから全台で性能検査もしくは品質検査をすることで品質を確保している。製品審査は創業者である松下幸之助が掲げた『お客様大事』の精神を受け継ぐ部門で、事業部長の私の直下で設計部門や製造部門に対してお客様視点で担当している」(太田常務)
パナソニックの“ものづくりのこだわり”
設計品質を担保する冷却試験や、製造品質を担保する性能検査や品質検査の様子も紹介しよう。
設定した室温と湿度に保つ恒温室では、冷蔵庫が過酷な環境でも冷却し続けられるかをテストしていた。
室温約35℃、湿度約80%に保たれた恒温室での冷却試験の様子
実際には冷蔵庫内に数多くのセンサーを設置し、開閉時の温度変化を計測して風路の見直しなどを図るという。
ドアの開閉試験や、ガラスドアの強度試験などの様子も公開された。
冷蔵室ドアの開閉試験の様子
野菜室引き出しの開閉試験の様子
ドアの開閉試験では、機械を使って家庭で使う20年分(回数は非公開)の開閉試験を行う。24時間稼働し続けて、約2カ月かかるとのことだ。ドアのパッキンなどが硬くなって変形しやすくなる約5℃の室温下で実施している。
ガラスドアの強度試験では、ビール瓶を一定の角度まで上げた後、振り子のように振り下ろされることでガラスドアの強度を確認していた。
ガラスドアの強度試験の様子
ガラスドアの強度試験の様子
キッチンにあるさまざまな「硬いもの」の中で、金属のフライパンなども検討したのだが、実際には金属は衝撃を受けると変形してしまう。キッチンにあるものの中で最も硬くて変形しにくいのがビール瓶だったとのことで、ビール瓶を用いて検査が行われている。ちなみに毎秒220cmのスピードが出るように角度を設定しているとのことだった。
太田常務は記者会見の最後に次のように語っていた。
「草津で作る以上、『パナソニッククオリティ』をより磨き上げて日本の皆様の暮らしに寄り添い、愛していただける高品質と高品位な商品を届け続けたい。それによって2030年に今の1.5倍の販売を目指し、社会や地球全体の食文化を支えていきたい。今の段階で改革を進めているところで、2年以内には世界トップクラスの生産効率を出せる工場になると思っている」(太田常務)