日本の半導体注目株「ディスコ」 AIフィーバーに乗る
人工知能(AI)は半導体チップのさらなる高速化を求めるが、それを実現し続けるためのコストは上昇の一途をたどる。そこで、半導体業界で最新の焦点となっているのが先端パッケージングだ。日本の半導体製造装置メーカー、ディスコなど、多くの企業がその恩恵に浴している。
半導体封止材でチップを保護し、電源やその他の部品と接続する「パッケージング」は、かつて重要度では二の次とされ、チップそのものを高速化・小型化することに多くの労力が割かれてきた。半導体製造工程の最終段階であるパッケージングでは、コストが重大な関心事となり、その大半は組み立てと検査を専門に行う企業に委託される。
従って、特にうまみの大きいビジネスではない。例えば、半導体パッケージング・検査の世界最大手、台湾の日月光投資控股(ASE)の場合、昨年の売上総利益率は16%で、半導体受託製造の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の54%に遠く及ばない。
だがチップの大きさが原子レベルに近づく中、これ以上の小型化を進めるとコストが一段と高くなる。そのため最近のAIブームを機に、先端パッケージング技術が脚光を浴びるようになった。異なるチップを小さなスペースに緊密に詰め込めば、データ転送時間やエネルギー消費量を減らせるという、シンプルな考え方だ。
特に重要な用途は、AIによる爆発的な需要の高まりで注目されるメモリーチップだ。いわゆるHBM(高帯域幅メモリー)はメモリーチップを何層にも重ねて中央プロセッサーの近くに配置し、データ転送をスピード化する。
例えば、米半導体大手エヌビディアのAI向けの画像処理半導体(GPU)「H200」には6個のHBMが搭載されている。メモリーチップを製造する韓国SKハイニックスの株価は、2022年末から3倍近くに上昇している。SKハイニックスは早くからHBMで主導権を握り、同業の韓国サムスン電子や米マイクロン・テクノロジーに先行している。
モルガン・スタンレーによると、2023年の世界半導体売上高に先端パッケージングが占める割合は9%だった。同行はこれが2027年には13%(1160億ドル=約18兆3000億円)に拡大する可能性があるとみている。
パッケージングは異なる種類のチップを束ねるプロセスであるため、半導体製造工程の中心的な位置づけとなりつつある。半導体受託製造(ファウンドリー)企業は、他の半導体メーカーと協力してパッケージングを設計する必要がある。
TSMCが「CoWoS(チップ・オン・ウエハー・オン・サブストレート)」と呼ばれる独自技術で業界をリードしてきた理由の一つがここにある。この先端パッケージング技術の限られた生産能力が、AI半導体を増産する上での障害となっている。
サムスンと米半導体大手インテルはよく似た技術を持っている。SKハイニックスはTSMCと組み、次世代HBMと先端パッケージング技術の開発を進めている。
この「宴(うたげ)」を黒子として盛り上げているのが、日本の半導体製造装置メーカー、ディスコだ。同社は半導体の基板となるシリコンウエハーを研削して薄くしたり、個々のチップに切り分けたりするのに用いる精密加工装置を製造している。
チップを積み重ねる際には、より薄いウエハーが重要になる。
モルガン・スタンレーは、ディスコの売上高の約40%は先端パッケージングに関係するものだと試算する。ディスコの株価は2022年末から5倍以上に上昇している。
チップの小型化を続けることは難しいかもしれないが、より革新的な方法でパッケージングすることで、まだ多くのチャンスが開かれる可能性がある。