首相退陣唱える自民議員に冷めた声 野党幹部や首長は「正々堂々とやれ」「私ならしない」
自民党の菅義偉前首相、茂木敏充幹事長、岸田文雄首相、麻生太郎副総裁(左から・春名中撮影)
自民党内で岸田文雄首相(党総裁)に対し、退陣や次期総裁選への出馬断念を迫る動きが公然と出始めている。9月の総裁任期を見据え、党内の権力闘争が始まったという見方もあるが、首相の求心力低下を内外に印象付けるような手法には、野党や自治体の首長からも冷ややかな声があがる。
「覚悟を決めていえ」
「親分の歓心を買おうとする印象すら受けてしまう。許す親分も親分だが、あんまり良い姿ではない。本当にそう思っているなら覚悟を決めて、いえと思う」
立憲民主党の岡田克也幹事長は25日の記者会見でこう語った。念頭に置いたのが、4月に解散を決めた茂木敏充幹事長率いる茂木派(平成研究会)や、麻生太郎副総裁が会長を務める麻生派(志公会)の若手議員が首相交代論や首相批判を繰り返し唱える現状だ。
党内では若手だけでなく、菅義偉前首相も公然と首相の交代を求め始めた。23日公開のインターネット番組で、派閥のパーティー収入不記載事件に関して「首相自身が責任に触れず今日まで来ている。不信感を持っている国民は多い」と批判。総裁選で新たなリーダーが出てくるべきではないかと問われると「そう思う。党の刷新の考え方などを理解してもらえる最高の機会だ」と語った。
岡田氏は菅氏について「覚悟をもって発言していると思う」としつつ、「私なら、ああいう発言はしないだろうと思う」と距離を置いた。
「安全が確保されてから文句か」
自民若手が首相退陣を唱える状況については、国民民主党の玉木雄一郎代表も25日の記者会見で「(国会が閉会し)衆院解散がなくなり、鉄砲の弾が飛んでこない安全地帯が確保されて文句を言うのはどうか。そのこと自体が自民党に対する信頼を失うことにつながるのではないか。首を変えたら選挙を勝ち抜けるという発想が国民をバカにしている」とあきれたように語った。
党刷新を唱える菅氏に対しても「政治改革をやるならば(菅氏が最高顧問を務める党政治刷新本部の)中で、しっかりおっしゃる話だ」と指摘。その上で、「元社長が言っていることも、平社員が言うことも、どうなのか。内閣不信任決議案が出たときに賛成すればよかったのではないか」と挑発してみせた。
自民の現状に対する冷ややかな声は、自治体の首長からも漏れている。
自民出身の愛知県の大村秀章知事は25日の記者会見で、平成8年の衆院選で初当選した同期の菅氏について「盟友として気持ちも考えも分かる」とした上で、「国会が終わったとたんにそういった声が出るのは違和感を覚える」と批判した。
「正々堂々やれ」
大村氏は21年に麻生太郎内閣で厚生労働副大臣を務めていた当時を振り返り、「麻生首相を一生懸命支えたとの思いがあった一方、党内でいろいろな発言がいっぱい出て、収拾がつかなかった。『一体なんなんだ』と。その後の衆院選で自民党は大敗し、私自身も内心じくじたるものがある」と語った。
当時は麻生氏に対し与謝野馨財務相(当時)や石破茂農林水産相(同)らが公然と退陣を訴えていた。
大村氏は「総合すると、皆さんイレギュラーなことを言うのではなく、9月の総裁選に向けて正々堂々とやられたらいい。(今回は)石破氏もそういっている」と語った。首相の求心力低下を内外に印象付けるような手法に反発したとみられる。
大村氏は、岸田首相に対しては「個人的な見方だが、よくやっているのではないか。政治資金規正法についても形にした」と語った。
経団連の十倉雅和会長も25日の記者会見で、首相について「デフレからの完全脱却、成長と分配の好循環について数多くの施策を非常に熱心に着実に打たれている。外交もG7(先進7カ国首脳)などで着実に堅実に進めている。私は評価する」と述べ、「支持率は国民の声だ。謙虚に受け止めて、政治改革にスピード感をもって取り組んでほしい」と語った。(奥原慎平)