米国がウクライナに装甲兵員輸送車の供与加速 「戦場のタクシー」M113、2カ月で300両
米国がウクライナに装甲兵員輸送車の供与加速 「戦場のタクシー」M113、2カ月で300両
米国防総省は今月7日、2億2500万ドル(約350億円)相当の新たなウクライナ向け軍事援助パッケージを発表した。このパッケージにはM113装甲兵員輸送車(APC)200両も含まれていた。M113は先月の援助パッケージにも100両が含まれており、米国からの累計供与数は600両あまりに増えた。
米国製のM2ブラッドレー歩兵戦闘車やM1エイブラムス戦車、ドイツ製のレオパルト2戦車など、より新しく先進的な装甲車両が高く評価されている戦争で、冷戦時代の古い車両であるM113をウクライナが必要としているのは意外に思えるかもしれない。しかし、現在の戦場の動向を踏まえると、M113はウクライナの軍事ニーズをよく満たすものだと言える。
M113は、1950年代後半に米国で開発された装甲兵員輸送車である。この「戦場のタクシー」はベトナム戦争で広く使われ、その汎用性、耐久性、機動性に定評がある。生存性よりも機動性を優先して軽量なアルミ装甲が採用され、さまざまな地形を最高時速約68kmで走破でき、浮航能力まで備える。
その後、より厚い装甲が必要とされるようになったことから、M113は直接戦闘任務からは徐々に外れ、ブラッドレーに置き換えられていった。一方で、戦闘支援車両としては引き続き米軍で使用された。米軍のM113は1990年代に改修され、パワートレーン(駆動系)やドライバー制御機構が改良されている。だが、2007年に米政府の調達は終了し、段階的に退役していくことになった。
ウクライナがM113を追加で必要としている背景には、この戦争のダイナミクスの変化がある。2022年2月に始まった全面戦争の初期には、両軍の装甲車両同士の機甲戦が繰り広げられた。しかしウクライナ軍は現在、ドネツク、ルハンシク、ハルキウ各州の村や都市を守るため下車戦闘を数多く行っている。
ウクライナ軍はこれらの州の重要な拠点に対するロシア側の攻撃を撃退するため、塹壕や障害帯、要塞陣地のネットワークを構築している。そして、前線への兵士の送り迎えや物資の補給など、下車戦闘作戦の支援に用いられている車両のひとつがM113なのだ。
一方のロシア軍は、ウクライナ側の防衛陣地や装備を破壊するのに相変わらず野砲に大きく頼っている。そうしたなかで、機動力が高いM113は間接照準射撃では狙いづらく、薄い装甲も砲弾の破片からは乗員を守ることができる。
さらに重要なのは、M113は汎用性が高い車両であるため、戦場の変化に対応しやすいという点だ。ウクライナの戦場では、双方とも新たな技術や戦術を駆使して敵側の防御線の突破を図っている。M113は兵員の輸送だけでなく、指揮所、救護、兵站などさまざまな目的に使うことができる。
M113はまた、TOW対戦車ミサイルや大口径の機関銃・機関砲といった重量級の武装をすることも可能だ。ソーシャルメディアでは、旧ソ連製の23mm口径ZU-23-2対空機関砲を搭載したウクライナ軍のM113の画像も共有されている。さらに、電子戦システムや対ドローン(無人機)といった、新たな技術を迅速に統合できるような設計にもなっている。
M113は、ロシア軍の現在の装備構成に対して好都合な車両でもある。どういうことか。ロシア軍は、旧式の車両や兵器プラットフォームを、電子戦システムをはじめとする先進的な技術と組み合わせて配備している。M113は冷戦時代にソ連の装備への対抗を念頭に設計された車両だが、その装備が現在、ロシア軍によって再び使われているのだ。また、M113はかなり古く、使われている技術の多くはアナログだ。そのおかげで、ロシア軍が先進的な最新の電子戦システムを投入しても、M113のアナログシステムは影響を受けない。
M113は運用面でもいくつか利点がある。まず、M113はより新しい世代の装甲車両と比べると相対的に安価なので、米国はたとえばブラッドレー1両に対してM113なら数両供与できる。また、比較的軽量なため燃料はブラッドレーの半分で済むなど、運用コストも低い。
さらに、ウクライナ軍はこれまでも米国やその他の国からM113を受け取っているので、この車両に習熟しており、運用や整備にあたる要員の訓練にかかる時間も短縮できる。このほか、これまでに損傷したM113も多いため、そこから取り出すことでスペアパーツ在庫も大量に確保できるだろう。
ウクライナへの最近の軍事援助にM113も含まれていることは、この戦争が技術の活用という点で複雑な様相を呈していることの表れである。双方とも、より高度なドローンや電子戦システムの開発を急ぐ一方で、M113のような旧式の装備が戦場で役に立つ場合もある。米国から新たに供与される200両のM113は、ウクライナの戦場に届きしだい、すぐに直接の影響を与えることになるだろう。
(forbes.com 原文)