じつは日本人にとって、「疲労回復」のために「最適解」といえる「大豆の発酵食品」
さわやかな季節になったが、ゴールデンウィーク以降、どうにも疲れがとれない、調子が悪いという人も少なくないだろう。部署の移動や転職、転勤などのイベントが続いた慌ただしい4月が終わり、ゴールデンウィークの旅行イベントも終わった5月は、緊張の糸が切れて疲労が表面化する。
日差しを浴びるとそれだけで人は疲れる
昔から5月病と言われ、4月に人事異動が多い上に季節の切り替わる5月は疲れが出やすい。急に日差しが強くなったと思ったら、翌日は大雨と気候も安定せず、体の不調が出やすい。
さわやかな初夏の日差しも油断できない。日光を浴びると疲労を増すことが化粧品メーカーの研究で判明した。以前から目から入る紫外線が引き金となってメラニン色素の合成が始まり、それが全身疲労につながることはわかっていたが、今回は目は濃いサングラスで守った上で、皮膚に日光を受けると疲労度が増すかどうかを調べたのだ。
日光を浴びると血中の疲労マーカーが上がる。日焼け止めで疲労度は減少、サングラスも必携だ 画像:株式会社コーセー
屋外と屋内で自転車をこぎ、疲労度と直射日光の関係を調べたところ、明らかに疲労度を示す血中物質が増加。次に日焼け止めを塗って屋外で実験を行ったところ、疲労度は大幅に軽減された。
日光を浴びると疲れるのだ。紫外線対策は必須、サングラスをかけ、日焼け止めを塗った方が無駄に疲れずに済む。
疲労の原因は脳? カカオで解決
なぜ人は疲れるのだろう? 昔から言われているのが活性酸素と乳酸だ。ストレスがかかると活性酸素が発生、それが細胞を傷つけ、熱発生の代謝サイクルを邪魔をし、熱が作れずに体の動きが鈍くなる。運動をした後は十分に代謝できずに残った乳酸が筋肉の動きを妨げ、疲れとなる。
活性酸素も乳酸も間違いではないが、疲労の本質ではないというのが最近の研究結果だ。2017年に行われた大阪市や大阪市立大学、食品・医薬品メーカーなどによる疲労に関する共同研究「疲労プロジェクト」では、疲労を感じるのは対ストレスの神経である交感神経が酷使され、リラックスの神経である副交感神経が十分に働かなくなることが原因だとされた。これはうつ病や慢性疲労症候群にも共通するもので、疲れが抜けない状態はごく軽いうつ状態だと言えなくもない。
脳の疲れをとるにはどうすればいいのか? これまで言われていた抗疲労物質はほとんどが抗酸化物質だ。活性酸素や酸化物質が大量に出る運動後の筋肉疲労には有効だが、日常のストレスからくる脳の疲労回復には役に立たない。ウナギを食べてもタコを食べても、肉体疲労はともかく脳の疲労は回復しない。
2024年1月11日、国立研究開発法人理化学研究所と製菓メーカーは高カカオチョコレートを食べると認知機能のパフォーマンスと集中力の維持ができることを発見した(※1)。
20歳以上50歳未満の日本人男女22名を対象に、高カカオチョコレート(総ポリフェノール量 635mg)、低カカオチョコレート(総ポリフェノール量 212mg)】を各25グラムを食べた後で、ストループ課題という選択肢から正解を選ぶテストを2回行った。その結果、高カカオのチョコを食べた人は2回目のテストでも集中力が途切れなかった。
高カカオを食べると認知に関する試験の正答率が1回目よりも2回目の方が上がり、集中力が落ちることはなかった。カカオをとると脳が疲労しにくいらしい 画像:株式会社明治 プレスリリース
疲労には濃厚なチョコがいいようだ。また運動後の疲労にはナッツがいいらしい(※2)。肥満気味の人に毎日丸ごとのアーモンドを57グラム食べてもらい、30分間、ジムで走ってもらった。8週間後、筋肉を調べたところ、アーモンドを食べた人は筋肉痛が少なく、運動への意欲が増していた。アーモンドが筋肉の回復を早め、筋肉痛を減らしたため、やる気が維持されたわけだ。
※1「認知的要求度の高い課題中の認知能力に対するダークチョコレートの影響」(Heliyon, 2024, 10(2))
※2「Chronic almond nut snacking alleviates perceived muscle soreness following downhill running but does not improve indices of cardiometabolic health in mildly overweight, middle-aged, adults」(Front. Nutr.08 January 2024)
納豆で疲労を回復する
疲労回復物質として最近注目されているのが、アダプトゲンやポリアミンがある。
アダプトゲンは自律神経のバランスを整え、ストレスに疲労を軽減する。ストレスが原因の不眠や不安、倦怠感も改善するため、インフルエンサーで有名モデルのBella Hadid(ベラ・ハディッド)がアダプトゲン入りドリンクを販売したり、検索語彙のトレンド入りしたりとアメリカでちょっとしたブームになっている。
脳の疲労に最適だが、含まれているのがヤマブシタケや冬虫夏草、クコ、霊芝、朝鮮人参、マカ、エゾコウギ、ホーリーバジルといった薬草がほとんど。逆に言えば、昔の人は疲労回復に効く薬草を良く知っていたことになる。
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食品で摂るには抹茶、シソ、銀杏が知られている。より効率よくとろうと思うとサプリメントを使うしかない。
ポリアミンはネバネバに含まれている物質の総称で、細胞の成長因子として働き、アンチエイジングからも注目されている。納豆のような豆類やカキのような貝類、小麦胚芽やブルーチーズ、レバーなどに含まれる。また腸内細菌が合成するので、腸に良い食事をすると合成力が高まる。アルギニンを摂るとさらに合成力が高まるという(※1)。アルギニンは男性ホルモンの原料で、大豆やマグロ、鶏卵などに多い。
併せて考えると、大豆の発酵食品である納豆食べるのが日本人の疲労回復には最適解ということになる。ポリアミンとアルギニンが多い納豆には、さらにビフィズス菌のエサになるオリゴ糖が含まれているからだ。納豆の粉末でビフィズス菌が増えたという研究もある(※2)。
※1「個々の腸内細菌の生き残り戦略が組み合わさることで、機能性物質ポリアミンが産生されていることを発見」(京都大学プレスリリース 2018年6月27日)
※2「佐賀県江北町sonomono納豆菌による納豆粉末の摂取による腸内細菌叢の変動調査」(佐賀県江北町ソノモノラボ プレスリリース)
軽い運動と呼吸で改善
軽い運動が疲労回復に良いことは、直観的にわかるだろう。血流が増えれば、それだけ疲労物質の代謝も早まる。筑波大学の研究でストレスに関係する脳の青斑核という部位が、運動によって活性化し、脳が覚醒することがわかった(※1)。
ヨガやストレッチ、散歩といった超低強度の運動でも、青斑核が活性化するとストレス反応が消え、脳は覚醒し、疲労感は減るという。青斑核は自信や好奇心にも関係しているので、疲れた時ほど散歩で少し歩くとか柔軟をすると脳の疲労が消え、自信が戻ってくる。感情も抑えられるので、ストレスからくるイライラもなくなるそうだ。
最新の研究では、呼吸と疲労の関係に注目したものが増えている。長時間のデスクワークで座った状態が6~10時間も続くと深部の体幹の筋肉が疲労する。脊椎が歪曲し、姿勢はどんどん悪くなり、全身の血流が停滞する。それが脳を疲労させるが、呼吸によって姿勢が改善、疲労も減少する。
スロバキアのコメニウス大学体育・スポーツ学部大学で、少なくとも2時間座っている25~44歳の職員20人を対象に横隔膜呼吸訓練という呼吸法を行った(※2)。いわゆる腹式呼吸で、腹部が膨らむのが見えるように、鼻から深く息を吸い込むように指導され、5秒間保持してから、口から息を吐く。これを10回行ってから、体幹筋の疲労度を電気刺激で測定、背中の疲労度は柔軟度でチェックした。その結果、体幹筋の疲労度は軽減、背中の柔軟性も回復した。
日々のデスクワークで疲れた人は、休憩時間に壁を背に立つか床に仰向けに寝た状態で腹式呼吸を10回行うと疲労は軽減される。
疲労は脳が原因で、自律神経が正常に動かずにリラックスできない状態だ。体を動かし、腹式呼吸をして副交感神経を無理にでも動かし、脳をリラックスさせてあげよう。
※1「軽運動による脳の覚醒効果に脳幹の青斑核が関与する」(筑波ジャーナル2023.06.28)
※2「Diaphragmatic breathing exercises in recovery from fatigue-induced changes in spinal mobility and postural stability: a study protocol」(Autonomic Neuroscience 29 June 2023 Sec. )