再放送で人気再燃、24年前の朝ドラ『オードリー』 今だからこそ発見できる“令和の傑作”『カムカムエヴリバディ』との共通点

 現在放送中の『虎に翼』(NHK総合)でシリーズ110作目となる「連続テレビ小説」。「朝ドラ」そのもののファン、いわゆる「箱推し」と呼ばれるファン層は、現行最新作もさることながら、再放送枠への関心も高い。

 その傾向は、2019年にNHK BS朝7時15分~の「アンコール放送枠」で再放送された『おしん』(1983年)、2022年に再放送された『芋たこなんきん』(2006年後期)あたりから段階的に顕著になってきている。そんななか、今年4月から同枠で再放送されている『オードリー』(2000年後期)への視聴熱がここ最近、高まっている。本作は、現在放送中の大河ドラマ『光る君へ』と同じ大石静氏が脚本をつとめた朝ドラの2作目である(1作目は1996年後期の『ふたりっ子』)。

再放送で人気再燃、24年前の朝ドラ『オードリー』 今だからこそ発見できる“令和の傑作”『カムカムエヴリバディ』との共通点

『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 オードリー』(NHK出版)

「業」を否定せず、生身の人間の姿を描く「大石節」

 常識や道徳を超えた「業」を、あるものとして否定せず、人間のありのままの「生」を映像に刻みつける大石氏の才筆は、『光る君へ』でも遺憾なく発揮されているが、それは24年前の朝ドラ『オードリー』にも存分に見て取れる。もっと言えば、28年前の朝ドラ『ふたりっ子』の時点からその筆致は振るわれていた。大石静氏は、朝ドラでためらいなく「業」を描いた先駆者であると、筆者は記憶している。

『オードリー』が朝ドラファンを惹きつけてやまない理由はたくさんある。まず、登場人物のなかに聖人君子がひとりもいない。しかしこれが主人公・美月(岡本綾/少女時代:岸由紀子・大橋梓)の人格形成と、「ままならない境遇で、どこに軸足を置いて、いかにして自己を確立するか」という本作の土台となっている。

 美月の父・春夫(段田安則)、母・愛子(賀来千香子)、“義母”・滝乃(大竹しのぶ)は「美月の幸せのために」という大義名分をかざしながら勝手なことばかり言っている。特に“義母”の滝乃は、美月たち家族が住む家の大家という立場と、昔春夫が自分に思いを寄せていたという弱みを利用して美月を偏愛し、拉致同然で美月を引き取り、美月に自らを「お母ちゃま」と呼ばせ、自分の思い通りの“娘”になるよう願い、“育て”た。美月は、多感な成長期を3人の“親”の価値観に揺さぶられながら過ごすことになる。

『光る君へ』にも通ずる「物語へのあこがれ」

 序盤は滝乃の「狂気」と、昼ドラ的「ドロドロ展開」から目が離せないでいたが、滝乃が経営する老舗旅館「椿屋」で従業員として働く君江(藤山直美)と美月の交流を通じて「物語へのあこがれ」が色濃く描かれた4〜6週あたりから、このドラマの本流が姿を現す。

 美月は、映画とテレビが大好きな君江と物語の楽しさを分かち合うのが何よりも楽しみで、君江に連れられて行く「大京映画撮影所」が心の拠り所となっていた。両親に先立たれ身寄りのない君江と、3人の“親”の板挟みでアイデンティティクライシスになりつつある美月。ふたりにとって「物語」こそが、誰にも邪魔されることのない自分だけの居場所だった。しかし君江は、美月を撮影所に連れて行くことを滝乃に咎められ続けた末に、滝乃から解雇を言い渡される。

 君江の熊本への里帰りに同行するかたちで、美月は家出を敢行する。熊本でのふたりの別れ際、祭の夜、君江が美月に言った「美月ちゃん、あんた、映画作りや」という言葉とともに、本作の「少女編」が終わる。そしてこの君江の言葉が美月の道標となる。

 主人公が、何人たりとも不可侵である「自分の心のありか」を物語に求め、物語によって救われる。ソウルメイトの言葉が道標となる。やがて主人公は、物語を作る人になる。この3大要素は、『光る君へ』にも通じている気がしてならない。

ブレイク前の佐々木蔵之介と堺雅人、個性的な俳優陣

「少女編」が終わり、美月が本役の岡本綾にバトンタッチされてから、物語は「時代劇編」へと移る。昭和47年、美月は大京映画の大部屋女優となるが、折しも時代は映画の斜陽期。主要メディアがテレビに移行しようというとき、時代劇に人生を賭ける者たち――大京映画社長・黒田(國村隼)、スター俳優・幹幸太郎(佐々木蔵之介)、若手監督・杉本(堺雅人)ら、それぞれの矜持が描かれる。ブレイク前の佐々木蔵之介と堺雅人の、この頃から既に「仕上がっていた」演技と唯一無二の存在感を堪能できるのも一興だ。

 また、美月が初めて恋をする相手で、大部屋出身の切られ役・錠島、通称ジョー(長嶋一茂)の、なんとも言えない、「ぬっ」とした存在感。彼の、“体幹が真っ直ぐすぎてしなやかさに欠ける”演技と台詞回しにも触れないわけにはいかない。本来なら「キュン」となるはずの美月とのシーンで、ジョーが無骨にオウム返しをするくだりなどは、新たな笑いの境地へといざなってくれる。

 なかでも、女性に不誠実なジョーが、彼に色仕掛けを試みて失敗した大部屋女優の樹里(井元由香)の怒りを買って頭にうどんを被り、その後なぜかうどん2本を頭の上に乗せて川を泳ぐシーンは、朝ドラ史に残る名(?)場面と言えるだろう。

 しかし、戦後の混乱のなか親に捨てられ、保護施設と少年院を渡り歩き、追手から逃げるために「肥溜めの中を泳いで渡ったこともある」というジョーの壮絶な来し方は、このドラマのなかに「重し」のように戦争の影を落としている。

たくさん見つかる『カムカムエヴリバディ』との共通点

 そしてなんと言っても、このたびの『オードリー』再放送の「今だからこそ」のお楽しみ要素としては、『カムカムエヴリバディ』(2021年後期)との共通点探しが挙げられる。ヒロインが時代劇にあこがれる(『カムカム』では「時代劇」が三代のヒロインをつなぐ経糸にもなっている)。京都太秦撮影所が舞台。ヒロインが映画に携わる仕事をする。この時点で細かな共通点が生じるのは当然のことなのだが、脚本家・藤本有紀氏は『オードリー』に並々ならぬ思い入れがあり、深いリスペクトをこめて『カムカムエヴリバディ』の脚本に様々な「共通項」を仕込んだのではないか、と想像できるのだ。

 まず、『オードリー』の美月にとってあこがれの桃山剣之助(林与一)と、『カムカムエヴリバディ』の三代目ヒロイン・ひなた(川栄李奈)がファンである桃山剣之介(尾上菊之助)は、共に大御所時代劇スター。双方の名前は一字違いで読みは同じ、「モモケン」の愛称で親しまれている設定まで同じだ。

 美月の初恋の相手・ジョーこと錠島は赤子のうちから施設に預けられ、「名前のない人間」として育った。やがて大京映画に入り、芸名を錠島尚也と名乗る。

 一方、『カムカムエヴリバディ』でひなたの父であり、二代目ヒロイン・るい(深津絵里)の夫・錠一郎(オダギリジョー/少年時代:柊木陽太)は戦災孤児。自らの名前を「じょういちろう」という読みでしか覚えていなかったところ、ジャズ喫茶のマスター・定一(世良公則)と出会い、彼の名から「定」を「つくり」に取った「錠一郎」という名前を授けられる。ここでも両作品には、「ヒロインの相手役が天涯孤独の身の上」で、名前に「錠」の字がつく、あだ名が「ジョー」という共通点がある。

『オードリー』の劇中ドラマ『惨殺浪人・夢死郎』は、無名の大部屋俳優・錠島を主役に、それまで助監督だった杉本を監督に抜擢し、斬新な殺陣を売りにした時代劇だ。そのなかで随所に、黒澤明監督による名作『椿三十郎』(1962)へのオマージュが垣間見られる。『カムカムエヴリバディ』で、るいが岡山から大阪に出てきて間もない頃、クリーニング店の客・片桐(風間俊介)との初デートで観に行った映画は『椿三十郎』だ。

両作の「名シーン」が脳内で交差

『惨殺浪人・夢死郎』で初主演をつとめる錠島と、大京映画を卒業していったスターで、ゲスト俳優の幹幸太郎による「新旧対決」は、『オードリー』のなかでも屈指の名シーンだ。『ゴッドファーザー』のテーマが流れるなか、估券も恩讐も超えてふたりの刀がぶつかる。これを観ながら『カムカムエヴリバディ』における、斬られ役・伴虚無蔵(松重豊)と桃山剣之介の殺陣が、ジョーとトミー(早乙女太一)の「トランペット対決」にカットバックするあの名シーンを思い出した視聴者も少なくないはずだ。

『カムカムエヴリバディ』の劇中にはさまざまな朝ドラが登場するが、もちろん『オードリー』も例外ではなく、102話と104話に登場した。それぞれに、

「(ハリウッド映画『サムライ・ベースボール』の)オーディションの直前に放送されていた『連続テレビ小説』は、『オードリー』でした。京都・太秦が舞台で、時代劇に魅せられたヒロインのお話です。自分と共通点の多いヒロインの物語を、ひなたも熱心に観ていました」「『オードリー』のヒロイン・美月は『連続テレビ小説』には珍しく、結婚も出産もしないまま最終回を迎えました」

 というナレーションが入る。美月とひなたについて、メタ的に「共通点が多い」と言及しているうえに、『カムカム』に登場した数々の朝ドラのなかでも、『オードリー』についての解説が最も手厚かった。

朝ドラという“文化遺産”のなかで、志は伝承されていく

 ……と、挙げればきりがないのだが、このように、『カムカムエヴリバディ』には『オードリー』への熱いリスペクトが感じられてならない。藤本氏の1作目の朝ドラで落語を題材にした『ちりとてちん』(2007年後期)で多用された「本歌取」の手法が、『カムカム』でも発揮されたと言えるのかもしれない。もちろん、『カムカム』の制作陣が公式に「『オードリー』へのオマージュを込めた」と発言した事実はないので、これは筆者の想像に過ぎない。

 ともあれ、裏方や大部屋俳優など「名もなき人たち」にスポットを当て、どの人物も愛情を持って造形し、全員がそれぞれの人生の主人公であると見せる作劇。「映画」「時代劇」「物語」への愛。これは間違いなく『オードリー』と『カムカムエヴリバディ』の共通点と言っていいのではないだろうか。『オードリー』の当時の番宣ポスターやポストカードに添えられたキャッチコピーには「夢を見るなら映画スター、ワキ役なんてどこにもいない」とある。

 シリーズ110作、63年と続く「朝ドラ」。その長い歴史のなかで、名作を「種」として新たな名作が生まれ、それがまた未来の名作の「種」となる。「血縁の有無によらず『志』は受け継がれていく」というテーマは、『カムカムエヴリバディ』の主幹でもあった。『オードリー』の君江と美月が語り合った「物語への思慕」、そして『カムカムエヴリバディ』にて「A long time ago」ではじまる「物語の伝承」。いにしえより人類が連綿と続けてきたこの営みが、「朝ドラ」という“文化遺産”のなかでも続いていくのかもしれない。

(佐野 華英)

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