「4歳の少女が砲撃でバラバラに」...抗議活動を決行した女性のもとに15分で駆けつける、ロシア当局の「ヤバすぎる監視の真実」
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。
ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。
長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。
『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第33回
『「お前は祖国が嫌いなのか?」...神経性発作まで追い込まれた女性ジャーナリストへの止まらない「誹謗中傷」ロシア秘密警察の「残酷すぎる黙らせ方」』より続く
子どもとの幸せなひととき
娘の声がわたしの考えをさえぎった。
「夕食はオーブンでピザを焼こうよ」
「いい考えね」わたしは冷蔵庫の中を覗いた。「トマトはある。ソーセージもある。チーズもオリーブもあるわ」
ベリーが尻尾を振りながらテーブルに寄ってきてわたしの目をのぞき込んだ。わたしはソーセージを切ってベリーの口元に持っていった。ベリーはあっという間に飲み込んだ。
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わたしはトマトを切り、娘がそれを生地に載せた。わたしたちの運命に降りかかった試練のあとで、ようやくわたしたちは一緒になったのだ。
戦争で亡くなった子供たち
この時、ロシア軍はヴィンニツァ(ヴィンヌィツァ)を空爆していた。一発の砲弾が町の中心に命中した。20人以上の民間人が死亡し、その中にはお日様のような4歳の女の子リーザがいた。ベビーカーに乗ったリーザの小さな体は砲弾でバラバラになり、リーザのママは片足をもぎ取られた。
夜、わたしはこの悲劇をニュースで読み、心が砕け散った……。
孤立無援と絶望の感情に捕らわれた。誰がこの小さな女の子をお母さんに返すことができるのか。誰が両親に、死んだ子供たちを返してやれるだろうか。
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翌日、わたしは一人で抗議活動を決行することに決めた。
「行っちゃだめ。だめよ。逮捕されるわ」電話口でクリスティーナが叫んだ。
「子供が殺されてるのに、わたしは一人で抗議活動もできないの?」わたしも叫び返した。「沈黙は犯罪の共犯よ。ロシアでは一人での抗議活動は禁止されていないわ」
「わかってる。あなたを説得することは無理だってことは。わたしも一緒に行きます」
クリスティーナはこの時、モスクワに滞在していた。特別休暇を取って友達とサマラから来ていたのだ。クリスティーナが働いている物流会社は、経済制裁で倒産の瀬戸際だった。注文はほとんどなかった。
「モスクワにいるのなら、うちにくれば」わたしはそう言った。
プーチンへの抗議運動
1時間後、華奢な、中背のストレートな金髪の可愛らしい女の子が玄関にあらわれた。丸いメガネをかけていた。
わたしたちはスマホではなくリアルな空間で初めて会った。娘のアリーナは会った瞬間からクリスティーナに特別なシンパシーを感じたようだった。
翌日、クリスティーナとわたしは、監視カメラでの追跡から少しは逃れられるかもしれないと思い、タクシーを拾ってクレムリンに向かった。ソフィア河岸通りで、ウクライナで死んだ子供たちの写真が入ったパネルを広げた。何人かがパネルの文字をのぞき込んだ。
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「プーチンは殺人者だ!その兵士たちはファシストだ!352人の子供が死んだ。あなたたちが戦争をやめるには、あと何人の子供が死ねばいいのか?」
わたしの足元には「血まみれ」の人形が置かれていた。家を出る前に、スプレーで赤いペンキを吹きかけたのだ。
15分が過ぎた。ネムツォフ橋を渡って警察官がこちらに走ってきた。
「逃げましょう。危険を冒すことはないわ」クリスティーナは動揺していた。携帯のアプリでタクシーを探す間、クリスティーナの両手は震えていた。
警察からの逃亡
2、3分後、黄色いタクシーが停まった。クルマに飛び乗り、弁護士に電話をかけた。上ずった声で事情を説明した。
「すぐにうちにきてください!」ザフヴァトフ弁護士が叫んだ。
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30分後、わたしたちはザフヴァトフの小さなアパートに飛び込んだ。
「あぶないあぶない!」ザフヴァトフは感に堪えぬ表情で言った。「うまく切り抜けましたね!でもこのご時勢でこれはあまりに大胆だ」
この後、わたしたちは何時間かザフヴァトフと彼の家族と一緒に過ごした。真夜中近くなってザフヴァトフに言った。
「わたしとクリスティーナは家に帰ります。わたしに何かあれば、クリスティーナに電話してもらいます」
「わかりました。もう居住区のゲートの外には出ないでください」ザフヴァトフが警告した。
『すぐ真後ろを尾行「刺すように見つめてくる」...反体制派をつけ回す、当局による「執拗すぎる追跡」』へ続く