老後に「ダマされやすい人」と「ダマされにくい人」の決定的な違い
画像はイメージです。Photo:PIXTA
些細なことでイライラしたり、空気が読めずにトンデモ発言をしたり、武勇伝を何度も繰り返したり。そうした言動で周囲に迷惑を掛ける中高年層は、たとえ過去に仕事で成功していても、若者たちから「老害」だと認定されてしまいます。ですが、もちろん本人たちは悪気があって老害っぽい言動をしているわけではありません。では、なぜ「やらかす」のでしょうか。医学博士・平松類氏の著書『「老害の人」にならないコツ』(アスコム)から抜粋して、その答えをお届けします。今回のテーマは「詐欺に遭いやすい高齢者」について。
手間や努力を自分の領域から排除している「老害」
以前、若い女性患者のCさんからこんな愚痴を聞かされたことがあります。同居しているおばあさんの口ぐせは、「インターネットで調べればすぐにわかるでしょ」で、ことあるごとに孫のCさんを頼ってくるそうです。それが「かなり面倒くさい」と。
頼られるのは悪くないことですし、助けてあげたい気持ちもあるそうですが、ものには限度があります。Cさんのおばあさんの場合、最初から自分で調べることを放棄しているため、きりがないとのことでした。
聞けば、壁にかかっているカレンダーをめくればすぐにわかることや、その日の朝刊に絶対に載っていることなど、少しの手間で誰にでも得られる情報でさえ、Cさんに聞いてくるといいます。
「インターネットで調べればすぐにわかるでしょ」
そんなことを毎度毎度言われても、CさんはGoogleでもYahoo!でもないので、答えはすぐには出てきません。
おばあさんがテレビの情報番組で気になる商品を見つけると……。「インターネットですぐに買えるでしょ。いくらするの? 色違いもあるの? 注文したら何日で届くの?」
これには「本当に勘弁してほしい」と、最近は心からそう思っているそうです。
そして、いつか詐欺にあうんじゃないかということも心配されていました。Cさんのおばあさんは、調べものだけでなく、何をするにも他人任せで、Cさん以外の人に対してもベースは「おんぶにだっこ」。言われたとおりにするし、すべて鵜呑みにしてしまうそうです。
だから、家族以外の見知らぬ人と接するのが不安とおっしゃっていました。「運悪く詐欺師に出会ってしまったら、100%騙(だま)されるだろう」と。
なぜ老害化が進むのか
年をとると加速度が増す家族への依存度合い
自分でろくに下調べをせず、すぐに家族に質問するタイプは、せっかちな性格の人に多いです。
つねに他人任せで、自ら仕切ったり決めたりすることはしないにもかかわらず、まだなのかと急かしてきたりします。
例えば、旅行の行き先や、家族でレストランに入ったときに注文するメニューなどを、自分で決めずにほかの誰かに任せておきながら、「どこに行く?」「何を頼む?」とすぐに聞いてくるのが典型的なパターンです。
そういうキャラとして受け入れられている場合もあるでしょうが、度が過ぎるといつの間にか「家族の壁」が生まれることになるでしょう。
そして、高齢者になるとここに「若い人や詳しい人に聞いたほうが早い」が加わり、家族に限らず、他人への依存度合いがさらに加速していきます。
入院する前に渡したパンフレットにルールや注意事項がすべて書いてあるのに、それを読まずに「パジャマは持ってきていいの?」と聞いてくる高齢の入院患者さんにお目にかかるのは日常茶飯事です。
こういうタイプの人は、自分だけ楽をしているとか、相手に負担をかけているとか、そういった意識を持っていません。老害力がおおいに発揮されてしまっている自覚もありません。
ただたんに、いちばん間違いないと思っている方法を選択しているだけなのです。
Cさんのおばあさんは、孫が心配しているように、詐欺に引っかかってしまいやすいタイプにも該当します。
疑い深すぎる性格の人はいかがなものかと思いますが、その一方で人の言葉を鵜呑みにしすぎる人も考えもの。高齢者のほうが人を信じやすく、高額な商品であっても、店員の話を信頼して選び、買う特性があるからです(※1)。
さらに、振り込め詐欺の平均被害額は、若者より高齢者のほうが圧倒的に大きいこともわかっています(※2)。ご本人のみならず、家族など周囲の人たちも注意したほうがいいでしょう。
老害にならないためのコツ
人生の重要な場面で騙されないようにするためには
わからないことがあると、すぐに誰かに聞いてしまいがちで、何をやるにも基本的に他人任せ――自覚のある人は、まず逆の立場になったことを想像してみてください。
けっこう面倒くさいと思いますよね。
出典:医学博士・平松類氏の著書『 「老害の人」にならないコツ 』(アスコム)
若い人や詳しい人に聞いたり、任せたりするのは構いませんが、そこに至るまでに、最低限自分でやっておいたほうがいいことはないかどうかを、今一度考えてみましょう。
自分でやることを増やしていけば、他人への依存度合いも老害レベルも下がり、自然に壁は取りはらわれていくはずです。
そして何より、他人任せにしっぱなしで、なおかつ他人の言葉を鵜呑みにしていると、詐欺にあうリスクを高めてしまうという認識を持つようにしましょう。
とくに気をつけたいのは、健康にかかわるものを扱う際や、大金を支払う際など、人生における重要な場面で騙されないようにすることです。
すぐに決断するのではなく、ひと呼吸おいて自分で調べることが大切。それで納得できれば、受け入れたり、購入したりするようにしましょう。
でないと、とても体にいいという高額の水(しかし実際はただのミネラルウォーター)を買わされることになってしまいかねません。
自分の健康は自分で守る――その意識があれば、ちょっとの調べものなら面倒に感じなくなると思います。
周りの老害に配慮するコツ
「自分で調べるといいことがある」の波状攻撃が有効
医学博士・平松類氏の著書『 「老害の人」にならないコツ 』(アスコム)
なんでもすぐに聞いてくる人が家族や友人にいたら、その姿勢を真っ向から否定せずに、自分で調べることによって得られるメリットを、やさしく伝えてあげてください。
「健康やお金のことを他人任せにしていいの?」
ここから切り崩していくと、次第に「最低限の下調べは自分でする」という行動をとってくれるようになるかもしれません。
そのうえで、詐欺への警戒心を強めてもらえるように働きかけましょう。
「あなたは騙されやすい性格だから気をつけて」と、ストレートに言ってはいけません。「そんなことはない」とばかりに、新たな壁をつくることになりかねないですからね。
そうではなく、ひたすらメリットばかりを強調することが大事です。自分にある程度の知識があれば、身の周りで起こることに対応しやすくなるし、他人に対して「ノー」を言えるようになることを、知ってもらうようにしましょう。
私の経験上、詐欺師に完全に騙されてしまった高齢者に、それ(その人)は間違っていると信じさせることは相当難しいです。
詐欺師はその道のプロですから、騙しやすい“カモ”を洗脳に近い状態にもっていくことは大得意。こちらがどう説明しても、説得しても、なかなか考えを改めてくれません。
以前、目の病気のことを相談しに私のもとを訪れた患者さんが、私の話を信じてくれず、最終的には「この前100万円で買った浄水器の水を飲んだほうがいい」と言い張って聞かない、ということもありました。
ですので、身近に思い当たる人がいる場合は、早めに対策を立てておき、そうなる一歩前に手を打つことが求められます。
完全に騙されて洗脳状態になってしまったら、我々の手には負えません。その手のトラブルに対応してくれる、専門の窓口に相談しましょう。
【参考文献】
1)鎌田昌子ら:高齢者の買い物行動・態度に関する検討(1) 生活科学研究 2012; 34: 15-26
2)消費者庁 平成28年版消費者白書