米EV市場でテスラ一人勝ちの構図に変調、6年の圧倒支配に終止符か
(ブルームバーグ): 米電気自動車(EV)メーカー、テスラは過去6年間にわたり、米国のEV販売で競合勢の合計台数を上回ってきた。だが、ここにきて一人勝ちを自慢する権利を失いかけている。
自動車業界の月次販売データを提供するマークラインズの最新データによると、5月までの1年間の米国EV販売台数はテスラが約61万8000台であるのに対し、他メーカーの合計が約59万7000台だった。メーカー各社は来週、4-6月(第2四半期)の販売台数を発表する予定で、ゼネラル・モーターズ(GM)や韓国の現代自動車、傘下の起亜自動車などによる人気の新型車も含まれる。
Tesla Poised to Lose US Market Majority | Trailing 12-month EV sales for Tesla vs competition
テスラは2015年、高級セダン「モデルS」で日産の「リーフ」を追い抜き、米国の売れ筋EVで首位に立った。その後「モデル3」の販売が軌道に乗った18年以降、EV販売で他社の合計台数を上回っている。だが、当初は出遅れが目立った従来の自動車メーカーも、着実にテスラとの差を縮めている。1-3月(第1四半期)には、テスラの販売台数が前年同期比で13%減少し、衝撃が走った。一方、主要EVメーカー10社のうち6社は破竹の勢いで販売が伸びており、現代・起亜自動車は56%増、フォードは88%増となった。4-5月もこの傾向は続いている。
6月の推計で逆転か
今月の販売台数が集計されるまでには、テスラが米国市場でこうした独壇場の地位を失う恐れがある。だが、いつその逆転が起こるのかを正確に判断するのは難しい。テスラは他メーカーとは異なり、四半期ごとにしか販売台数を公表しておらず、世界販売の国・地域別の詳細も明らかにしていない。アナリストは米国におけるテスラの月次EV販売台数について、各州の新規登録データと世界販売台数の報告を総合して推計している。
もっとも、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の物議を醸すような発言がテスラの優位性をそいでいるのは明白だろう。また販売の95%をわずか2車種に依存するという製品サイクルの大きな溝も要因だと、コックス・オートモーティブの産業インサイト責任者、ステファニー・バルデスストリーティー氏は指摘する。競合勢はテスラが製品を提供できていないセグメントでEVを相次ぎ投入しているという。
同氏は「テスラは単に競争相手が増えただけだ」と指摘。「イーロンは電動化で業界を大きく前進させた。だが、テスラは新型モデルがない状況で、新型モデルを投入する他ブランドと競争しようとしている」と述べた。
EV Sales Surge Ahead for Most Automakers in US | Excluding Tesla, sales rose 13% compared with last year
ただの自動車メーカーにあらず
とはいえ、テスラは依然として断トツで米最大のEVメーカーだ。過去1年に米国で販売したEV台数は、最も近いライバルの現代・起亜自動車の5倍以上に上る。
テスラと同じように米国市場の大部分を掌握した一握りの企業は、それぞれの分野で無類の強さを誇る。スマートフォンではアップル、インターネット検索ではグーグル、人工知能(AI)チップではエヌビディアといった具合だ。このような他の追随を許さない優位性により、同ハイテク3社の時価総額はそれぞれ2兆ドル(約320兆円)を超える。テスラもまた、これらの企業に劣らず、多岐にわたる野望を抱いている。マスク氏はテスラの消費者向け自動車事業はいずれ、クリーンエネルギー、自動運転タクシー「サイバーキャブ」、人型ロボットに事業規模で抜かれるとの見方を示している。
モルガン・スタンレーのアナリスト、アダム・ジョナス氏は先週、投資家がテスラについて競争が激化する市場から抜け出せない自動車メーカーとみる限り、テスラ株は売られやすい地合いが続くと述べた。一方で、テスラは長期的には、最初に支配的な地位を築いた分野に安住することなく前進した他のハイテク企業のように評価されるだろうと同氏は予想。「テスラにとっての自動車は、エヌビディアにとってのゲームチップ、アマゾンにとっての書籍販売のようなものだ」と続けた。
今のところ、自動車事業はテスラの総売上高の9割をたたき出している。また、ジョナス氏の挙げた例で、エヌビディアとアマゾンのいずれもゲームチップと書籍という中核市場の優位性を維持できている点には注目に値する。テスラはEVで同じことはできないかもしれない。
原題:Tesla Poised to Lose Its Six-Year EV Market Majority in the US(抜粋)
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