プーチン、大激怒で「ヤバい逆襲」が始まる…西側諸国がサミットで決めた「ロシア資産活用のウクライナ支援」の波紋
凍結ロシア資産の活用法の合意
岸田総理をはじめとするG7(主要7カ国)の首脳たちは、先週木曜日(6月13日)から3日間にわたって、イタリア南部プーリア州のリゾート地ボルゴ・エニャツィアでサミット(首脳会議)を開催し、ロシアに侵略されているウクライナに対する様々な形での支援を継続していく方針を確認した。
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新聞やテレビでそうしたウクライナ支援策の目玉として大きく報じられているのは、今回、米欧間で割れていた凍結ロシア資産の活用法について、G7としての合意ができた点である。凍結してきた資産を直接支援の原資に充てるのではなく、新設する基金に資産を預けて運用し、将来獲得できるはずの運用収益をウクライナへの軍事・経済支援資金の回収に充てることにしたというものだ。このスキームで年末までに行うウクライナへの資金支援額は500億ドル((約7兆8000億円)を計画している。
刹那的な反応だと思うが、すでにG7諸国の国民の間では、自国の国費の多くをウクライナ支援に投入し続けることに不満を募らせる市民が少なくなく、所謂「支援疲れ」が表面化していた。加えて、イタリアを除く6カ国では、この夏から秋にかけて国政選挙や大統領選挙が相次いでスケジュールされており、ウクライナ支援に熱心な各国の現政権の存続がそろって不安視されている。そうした時期だけに、G7諸国の財布を痛めることのないウクライナ支援の財源を確保できたことには、大きな意義があると評価されているのが現状だ。
しかし、筆者は、そうした評価は楽観に過ぎると懸念せざるを得ない。というのは、こうした措置に対し、ロシアが強く反発しており、G7諸国に対する報復に出るリスクが出ているからだ。さらに、運用収益を当て込むだけで、いつまで、ウクライナ支援を継続できるのかにも不透明な側面が残っている。そこで、今週は、G7の新たなウクライナ支援策の本当の実力、効果を考えてみたい。
G7がサミットで合意した首脳コミュニケは、「必要な状況が続く限り、ウクライナに対する揺らぐことのない支援を継続することを改めて確認する」「長期戦になればロシアが勝てるというプーチン大統領の誤解に対し、疑いようのない(明確な)メッセージを送ることにした」などと明記した。プーチン大統領率いるロシアによるウクライナ侵略を決して許さないというのである。
コミュニケは、また、世界銀行の試算を引き合いに出し、ウクライナの損害はすでに1860億ドルに達したとの見積もりを披露した。
ウクライナにとっては、防衛のための戦争遂行資金も必要だ。
ゼレンスキー大統領の要求
そこでG7は対応策として、「ウクライナのための特別収益加速型」(ERA)融資という新たな枠組みを立ち上げて、今年の年末までに500億ドル(約7兆8千億円)の追加の資金調達が可能になるようにすると表明した。その際、G7各国の市民がこれ以上不満を募らせることがないように、融資の返済には、西側が制裁措置として凍結していたロシアの金融資産などの運用収益を充てることにしたというのである。
新聞やテレビの報道によると、米政府高官が記者団に語った500億ドル融資の分担は、「EU及び欧州諸国が少なくとも総額の半分以上」を、「米国が最大500億ドル」、「カナダが50億ドル」となっている。ちなみに、「日本は最終調整している」段階のため、金額を提示していないが、貸し出す資金は軍事目的に使用されない形を検討している模様としている。
この米政府高官は、また、ロシアがウクライナへの損害賠償を支払わない限り、G7は資産の凍結を続ける方針で合意していると明かした。
また、関連して、サミット首席者の1人であるドイツのショルツ首相は、今回の枠組みは長期的なウクライナ支援に道を開くとの認識を示し、「歴史的な決断になる」と自画自賛してみせた。
一方、ウクライナに対する侵略戦争の開始後に、西側が制裁措置として凍結したロシア資産は3000億ドル規模に達している。このうちの約3分の2は、ロシアが開戦前からEU域内に預けていたものだ。証券取引等に伴う資金や有価証券のやりとりを専門とするベルギーの決済機関ユーロクリアーがかなりの部分を管理していた。
そして、このことは、今年2月27日付の本コラムでも書いたが、ウクライナのゼレンスキー大統領は早くから、この凍結した資産のウクライナへの引き渡しを求めていた。
ゼレンスキー大統領の要求を呑むことは国際法違反に問われる恐れが強く応じられないものの、その意向は最大限に組む形で、ドイツ、フランスなどのEU諸国は凍結した資産そのものを引き渡すのではなく、凍結した資産の運用収益をウクライナ支援に充てるための法整備を進めてきた経緯がある。
だが、当時、米国は、凍結した資産を完全に没収することとし、丸ごと支援に充てるべきだと主張していた。この米国の姿勢に、英国、日本、カナダの3カ国は理解を示しており、G7として一枚岩になっていなかったのだ。国際法上、米国案の方がより大きな問題になりかねない一方で、より多くの資金を短期的にウクライナ支援に充当できるとの見方も存在した。
事態が大きく動き始めたのは、ロシアのウクライナ侵攻からちょうど2年が経過した今年2月24日、G7首脳が参加して開催したオンライン会議だった。今回同様、この時も閉幕後に、ウクライナへの揺るぎない支援を約す共同声明を発表した中で、今回合意したスキーム作りを進めることで合意したことが明かされていたのだ。
具体的には、「EUが制裁で凍結したロシア政府の資産からユーロクリアーなど証券集中保管機関で得られる特別収入に関するEUの法的措置の導入を歓迎し、適用可能な契約義務に従い、適用可能な法律に準拠して、それらの使用を促進するさらなる措置を奨励する」ほか、「担当大臣たちに、(今回の)アプリリア・サミットまでに、国内法と国際法に照らして、凍結しているロシアの政府資産をウクライナ支援のために活用するのに可能なすべての手段を詰めさせる」との文言が明記されていた。
約7兆8千億円の資金支給を公約
とはいえ、今回の措置は、必ずしも、ウクライナが侵略戦争に対峙していくために必要な資金を円滑に調達できると保障したものと断言するのは難しい。
実際のところ、ロシアのプーチン大統領は、G7サミット開催中の6月14日、ロシア外務省高官との会議の席で、凍結したロシア資産の運用収益をウクライナ支援に充てる計画に対して、「西側の窃盗に他ならず、処罰は免れない」と、強い調子でG7諸国への報復を示唆してみせた。
G7諸国は、こうしたプーチン氏の恫喝や報復にひるむことなく、ウクライナ支援を毅然としてウクライナ支援を続ける覚悟を求められている。
このほか、金額的に十分と言えるかにも疑問が残る。というのは、ドイツのキール世界経済研究所の集計によると、各国が一昨年初めからの2年間に表明したウクライナに対する軍事や人道のための支援は、トップのEUが円換算で約13兆7500億円、2位の米国が約10兆9600億円に達したからだ。逆に言えば、上位2カ国だけで、平均して年に12兆3600億円弱を負担してきた計算になるのである。
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これに対し、冒頭で記したように、G7が今回のサミットでウクライナへの支給を公約した資金は約7兆8千億円だから、単純計算上で、ウクライナは早ければ来年後半に再び、現在と同じようにロシアによる侵略戦争と対峙する資金に窮する事態に陥りかねない。
ところが、米国では11月に大統領と連邦議会の上下両院議員の選挙があり、仮に現職のバイデン氏が勝利したとしても、議会ではウクライナ支援に慎重な共和党が勢力を伸ばす可能性が決して小さくない。
また、この夏に行われる英国やフランスの総選挙でも、現政権のウクライナ支援を批判している極右政党が議席を大幅に増やす勢いだ。
仮に、米国で、トランプ前大統領が復権する事態になれば論外だろうが、そうならなくても、来年は今以上に、ウクライナ支援を巡る西側の結束の維持が難しい政治情勢に陥っている懸念が大きいのである。
結局のところ、制裁の名目で凍結してきたロシアの在外資産の運用収益での回収を当て込んだ、今回の鳴り物入りのG7のウクライナ支援策は、1年程度しか賞味期限のない備忘策に終わるリスクを抱えている。