渋野日向子でも畑岡奈紗でもなく…逆転パリ五輪“最強女王”山下美夢有22歳ってどんな人?「2年連続で賞金2億超え」「コテコテ大阪弁」
全米女子プロゴルフ選手権で2位に入り、逆転でパリ五輪代表の座をつかんだ山下美夢有(22歳)
パリ五輪の女子ゴルフ日本代表争いに決着がついた。
残り1枠と見られていた切符を掴んだのは、山下美夢有(みゆう)(22歳)だった。
パリ五輪のゴルフ競技は世界ランキングに基づく「オリンピックランキング」により、男女それぞれ60人が選出される。各国上位2人に出場権が与えられ、世界ランキング15位以内なら最大4人までが出場が可能だった。
全米女子プロゴルフ選手権を控えた時点で、世界ランキング6位の笹生は日本勢最上位として“当確”と見られていたことから、残り1枠を同20位の古江彩佳、21位の畑岡奈紗、22位の山下が争う大混戦の様相を呈していた。
畑岡が予選落ち、古江との一騎打ちに
“黄金世代”の一人で、日本女子ゴルフ界のエースとも言うべき米ツアー通算6勝の畑岡が全米女子プロゴルフ選手権でまさかの予選落ちを喫し、五輪争いから早々に脱落。古江との一騎打ちとなった山下は、通算4アンダー、自己最高の2位でフィニッシュ。大会終了後の6月24日に更新された世界ランキングで10位の笹生に続き、山下が19位と浮上したことで、2人が日本代表としてパリ五輪に出場することが確定した。
19位の山下と20位の古江とのポイント差はわずか「0.38」の僅差。試合終了後に山下は報道陣に対し、「オリンピック、本当に行けるんですか?」と何度も聞き返し、「(出られるとしたら)しっかりと日本代表として頑張りたい」と語っていたという。
ここ一番で勝負強さを発揮した「山下美夢有」とは一体どんな選手なのか? 国内ツアーを主戦場として戦う彼女の強さを振り返ってみたい。
世間一般的に知られている現在の著名な女子プロゴルファーと言えば、やはり渋野日向子になるだろうか。そう言った意味で「山下美夢有」という名は、それほど多くの人に広まっていないかもしれない。
ただ、周囲の声を聞けば、近年の女子ゴルフ界では稀に見る“スゴイ”選手であることがわかる。
身長150センチながらも精度の高いショットに加え、ミスを引きずらないメンタルで抜群の安定感を誇り、山下を“小さな巨人”と呼ぶ人も少なくない。昨年、日本ツアーを引退したイ・ボミは山下をこんなふうに評していた。
「これからの女子ツアーを牽引していく選手になると思います。プレースタイルもいつも堂々としていて印象に残ります。彼女にもっとフォーカスが当たってもいい」
大阪桐蔭高出身、21歳で賞金女王に
甲子園の常連校でもある大阪桐蔭高校の出身。2019年にプロテストに合格。QT(予選会)も突破して、翌年の国内女子ツアー前半戦出場権を獲得した。
プロ1年目の2020年は新型コロナウイルスの影響でイレギュラーなシーズンを過ごしたが、前年とシーズン統合となった2021年のKKT杯バンテリンレディスでツアー初優勝すると、翌2022年に才能が一気に開花。年間5勝のうち国内メジャー制覇が2回、年間ポイントランキング(メルセデス・ランキング)1位で年間女王に輝き、さらに年間平均ストロークは69.9714で、日本選手では初の60台を達成(2019年に申ジエが69.9399)。年間獲得賞金は2億3502万967円で、過去最高額だった2015年のイ・ボミ(2億3049万7057円)を上回った。まさに記録ずくめのシーズンとなった。
2023年も年間5勝をあげ、2年連続の年間女王と賞金女王のタイトルを獲得。複数年連続女王の誕生は、2015、16年賞金女王のイ・ボミ以来。さらに平均ストロークが2年連続60台という大偉業も打ち立てた。それも「69.4322」の史上最少記録だった。
平均ストロークこそがプロゴルファーの実力を測るバロメーターと言われるが、当時の山下は「ひとつの成長だと思う。2年連続でできたのはプラスになった」と喜んでいたが、あくまでも一つの記録に過ぎないという雰囲気だった。一つの試合でどれだけ自分が思い通りのショットが打てるのか、自分らしいプレーができるのかを常に考えている山下。記録はその結果としてついてくるものだと、驕り高ぶる気配は一ミリもない。
今季は国内ツアーでまだ優勝できていないが、2位となった4試合を含むトップ10入りが9回と安定したシーズンを過ごしており、平均ストロークも60台(6月25日現在でツアー2位)を維持している。
コテコテ大阪弁、浜ちゃんのフリにも…
歴史的な“最強クイーン”でもある山下だが、近寄りがたい雰囲気があるのかと言えばそうではない。ホールアウト後に取材陣に囲まれる回数は、ツアー選手の中ではいま一番多いのではないだろうか。スコアが良くても悪くても、大会運営側からの要望があれば毎回取材に応じなければならない“女王”という立場を彼女も自覚している。
少し拍子抜けするのは、こんなに強いのにコテコテの大阪弁がとても印象的だということ。人前で見せるその表情は真剣ながらも、笑顔が見られたり、時に記者とのやり取りやツッコミで笑いが起こることも多い。
今年4月にフジテレビ系『ジャンクSPORTS』に出演したときも、優勝した数々の副賞(ベンツ4台、会員制リゾートホテル10年間利用権、ハワイ旅行、大型4Kテレビなど)が紹介され、ダウンタウンの浜田雅功から「どれが一番うれしかった?」と聞かれ、「エイジングケア化粧品1年分。ベンツ並みに嬉しかった。最近美容にはまってて」と答えて周囲を笑いに包んでいた。
あまりの強さに忘れてしまいそうになるが、素顔はファッションや美容に興味津々の22歳なのである。
それでも生活はすべてがゴルフ中心。子どもの頃から家のテレビでは常に『ゴルフネットワーク』が流れていたというエピソードもあるほど。一昨年の年間表彰式JLPGAアワードでは、「全英女子オープンへ出場して、メジャーチャンピオンになりたいと思った。ただし、今のスタイルでは通用しない。戦える体をつくりながら、ショットの精度を磨いていく。その日の状況に加え、距離を分析して打つ。やることはたくさんあります」と海外メジャーへの強い思いを口にしていた。
自身で語っていた通り、全米女子プロゴルフ選手権で結果を残し、海外メジャーでも十分に通用する実力を証明した山下。日本ツアーの2年連続年間女王として、堂々、日の丸を背負うことになった。
ちなみに、パリ五輪では日本代表として出場する笹生とは同期で同学年の間柄。いま勢いに乗る若手2人による金メダル争いも決して夢ではない。
8月7日のティーオフが待ち遠しい。