浅田真央の“挑戦”と“原点回帰” アイスショーを舞台芸術として確立「everlasting33」の魅力
ステージ上のシャンデリアがゆっくりと上昇すると、プレミアムな浅田真央のアイスショー「everlasting33」が開幕した。
「everlasting33」(6月2~16日、立川ステージガーデン)は、「浅田真央サンクスツアー」「BEYOND」に続く、浅田プロデュースによる3作目のアイスショーだ。
「浅田真央サンクスツアー」「BEYOND」は選手時代のプログラム使用曲を中心に構成されていたが、「everlasting33」のセットリストにアマチュア時代のプログラム曲は一つもない。浅田が選び抜いた31曲がシアターオーケストラトウキョウによって奏でられ、約120分間のショーを豪華絢爛に彩る。
また、「everlasting33」の最大の特徴は“劇場型アイスショー”であることだ。浅田とカンパニーメンバーは、ステージから張り出したリンク上で滑る。
ショーはTVアニメ「天空のエスカフローネ」の曲である荘厳な『Dance Of Curse』で幕を開け、クラシックやポップス、ミュージカル、映画と多分野から選ばれた名曲が怒涛のように続く。
幼い頃に習っていたバレエに対する浅田の深い造詣が感じられる前半を締めくくるのは、『タイスの瞑想曲』に乗り、柴田嶺と共に披露するエアリアルだ。浅田は公式プログラムのインタビューで、エアリアルの練習初日に気分が悪くなり、以降は梅干しを食べて練習に臨んだというエピソードを明かしている。本番ではそんな苦労を感じさせず優雅に宙を舞う浅田に対し、観客から漏れた心配の声は、曲が終わるころには感嘆のため息へと変わっていった。
さらに浅田は、約5年続けているというタップダンスを、師であるHideboHと共に披露する。フレッド・アステアへのオマージュを込めた『トップ・ハット』と『ロック・アラウンド・ザ・クロック』に合わせ、軽やかに音を響かせた。
また浅田は、振付師・ダンサーのSeishiroと共に、『地球儀』(米津玄師)に乗せた陸上でのダンスもみせた。素足で踊る浅田の姿は新鮮で、競技から離れた後、世界を広げてきた今までの道程が感じられた。
タップダンスはもちろん、この公演のために取り組んだエアリアルや陸ダンスでも、浅田から伝わってくるのは「やるからには徹底してやる」姿勢だ。アマチュア時代から変わらないストイックさは、プロとなった今は自ら選択して挑んでいるからこそ、より強い意志を伴っているように感じる。
そしてショーの終盤、浅田は『ボレロ』を滑った。SNSでのファン投票で「滑ってほしい曲」の1位だったという名曲を、自らと姉・舞の共同振付で演じる。スポットライトに照らされて浅田が浮かび上がる冒頭から、この演目では瞬きできないと感じさせた。
浅田がアマチュア時代に滑ったエキシビションナンバーの傑作『チェロスイート』は、フィギュアスケートの基本であるコンパルソリーの動きを芸術的に昇華させていた。この『ボレロ』の冒頭でも、浅田はコンパルソリーの動きをみせている。可憐だった『チェロスイート』に対し、この『ボレロ』では33歳ならではの成熟した深い滑りを披露すると共に、再びフィギュアスケーターとしての原点に立ち返った感がある。『ボレロ』での浅田は、フィギュアスケートの真髄を体現していた。
ゴージャスなショーの最後を飾る曲『ローズ』が流れると、会場には薔薇の花びらが降り注いだ。
新たな挑戦を恐れず、同時に生粋のフィギュアスケーターとして存在し続ける浅田真央は、精魂込めて創り上げた「everlasting33」により、アイスショーを舞台芸術の一分野として確立させた。(文・沢田聡子)
沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。フィギュアスケート、アーティスティックスイミング、アイスホッケー等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。2022年北京五輪を現地取材。Yahoo!ニュース エキスパート「競技場の片隅から」