うつや不安も軽減…猫を飼っている人ほど「幸せになれる」理由
小さくて、可愛くて、柔らかい…とにかく魅力だらけの猫。猫が私たちの生活にどんなメリットをもたらしてくれるのか? 1冊まるごと猫について書いた、にゃんこ本の決定版『 にゃんこパワー:科学が教えてくれる猫の癒しの秘密 』(新潮社)より一部抜粋してお届けします。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
なぜ猫を飼うと幸せになれるのか? 写真はイメージ ©getty
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猫を飼うと幸せになれる
猫を飼うと幸福感が高まると言われます。オーストラリアの研究によれば、猫を飼うと自信がつき、神経質でなくなり、よく眠れて集中力も高まり、人生の苦難にも立ち向かえるそうです。
猫はポジティブな感情を引き出してくれます。なでたり、のどをゴロゴロ鳴らすのを聞いたりするまでもなく幸せな気分になれますよね。近くにいるだけでネガティブな感情が和らぎ、うつや恐怖心、内向的な性質、不安が軽減されるのです。なお、男性よりも女性のほうが影響が大きいようです。これは2003年に動物行動学者ゲルルフ・リーガーがスイス・チューリッヒ大学動物学研究所のデニス・C・ターナーと行った大規模な研究で判明し、世界中で反響を呼びました。
人間の気分を良くしてくれる猫の研究
2月の寒い日、私たちはビデオ通話でスイスのチューリッヒとつなぎ、世界でもっとも有名な猫研究者デニス・C・ターナー博士と待望の対面を果たしました。横に伸びた個性的な口ひげ、そして眼鏡の奥で青い目が生き生きと輝いています。
後ろの壁には写真やディプロマが飾られ、研究者としての長いキャリアを物語っています。キャビネットには、長年の間に蒐集したペットに関する研究文献が5000本以上保管されているとのこと。猫について話し始めると、顔が喜びに輝きました。
ターナー博士は30年以上、修士課程の学生や助手も参加した大規模なチームで猫と人間のインタラクション(やりとり)を研究してきました。プライベートでは研究の前から猫を飼っていて、田舎に住んでいた頃はいつも2匹は外飼いの猫がいました。
しかし7年前にチューリッヒでも交通量の多い地区の年金生活者用アパートの4階に引っ越し、そのすぐ後に猫のジョイが亡くなってからは、もう猫を飼わないことに決めたそうです。「あの子たちがとても恋しいよ。仕事から帰ってくると、しっぽを振って出迎えてくれるのは最高の瞬間だったね」
ターナー博士の研究の結果はどれも「猫は私たち人間の気分を良くしてくれる」というもの。猫がそばにいるだけでネガティブな感情が軽減されるといいます。
過ごす時間が長いほうが、猫との関係は良くなります。だから毎日遊んだりなでてあげたりしましょう。その子が好きなこと、興味のあることをよく観察すれば、お互いにもっと楽しめるはず。もし家族の中で猫がなつかない人がいたら、その人に2週間エサをあげさせてみましょう。「人間でも時間をかけて丁寧に食事をつくってくれる人に対しては愛情が深まるものでしょう」とターナー博士は言います。
「エサをあげると、猫は相手と関わろうとします。女性がエサをやることが多いので、インタラクションの相手としてまず女性を選ぶのです」
しかし他の研究では、女性や子供だけでなく男性とも関わろうとすることがわかっています。研究では、色々な人に座って本を読んでもらい、猫が誰の元に行くかを観察しました。女性の場合は子供でも、猫に近づく時には同じ高さになるように床にしゃがむ傾向が見られましたが、男性はソファやアームチェアに座ったまま猫の相手をするか、自分の膝へと持ち上げました。
「猫はそれを嫌がる場合もあります。あとは子供――特に男の子は駆け寄ることがありますが、猫はそれが苦手です。アニマルセラピーの講義では必ず、『子供も走って近づいてはいけない、静かに座って本を読みながら待つように』と教えています。そうすれば猫のほうから近づいて来ますよ」
幸運をもたらす世界の猫
猫の魅力は、スピリチュアルな面でも多くの文化に見られます。すでに飼い猫がいた古代エジプトでは、猫は神聖で、幸福と幸運をもたらす存在。家族が死んだら一緒にお墓に入ったのです。
中東や東アジアでも敬意を集める存在でした。イスラム教では特別な地位を与えられ、清い動物として崇められています。猫のそばにいるのは信者の証。預言者ムハンマドにもムエザという名の白黒のアビシニアンがいました。ムハンマドは猫が必ず4本肢で着地するところが気に入っていたそうです。
日本の招き猫は江戸時代に登場したと考えられ、各地に伝説があります。ここで2つ紹介しましょう。
あるお金持ちが急に暴風雨に見舞われ、お寺の木の下に避難したところ、手招きしているように見える猫がいました。その猫を追ってお堂の中に入ると、さっきまで立っていた木を雷が直撃。命を救ってくれた猫に感謝して、男はお寺に寄付をしました。
もう1つの伝説は残酷です。ある芸者がこよなく愛していた飼い猫が着物を嚙み始めたので、店の主人は邪悪なものに取り憑かれていると思いこみ、首を切り落としてしまいます。すると飛んでいった猫の頭が、芸者に襲いかかろうとしていた蛇の上に落ちました。芸者は命を救われたものの、最愛の猫を失って嘆き悲しみました。客の1人が彼女を慰めるために猫の像を建てさせたということです。
〈 骨折を治し、痛みを和らげる…「猫のゴロゴロ」と鳴く行為に秘められた「驚きのパワー」 〉へ続く
(カリーナ・ヌンシュテッド,ウルリカ・ノールベリ,久山 葉子/Webオリジナル(外部転載))