「これが最後」「外タレの来日公演かよ!」日産 R35型GT-R、首都高でブイブイ言わせたら大黒PAに人だかりができた!
フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える
日産自動車のスーパースポーツカー「GT-R」。現行モデルの「R35型GT-R」は2007年12月に登場、実に17年も愛され続けたが、ついに2025年8月で生産を終了する。そのR35型GT-Rの最終年次型に試乗する機会をいただいた。しかも「GT-Rの進化を一番感じられるから」という理由で、R35型の中でも最高グレードの「プレミアムエディションT-spec」である。今回はその試乗記をお届けする。(コラムニスト フェルディナント・ヤマグチ)
ジムニーを愛しすぎて仕事にしてしまった人と
極上の湯豆腐を堪能してきました
みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今週も明るく楽しくヨタ話からまいりましょう。
取材を通して仲良くなり、「今度飲みに行きましょう」「ぜひぜひ」という話になるのは良くあることです。ですがこれは一種の社交辞令のようなものでありまして、実際に飲み会に発展することは稀であります。だからといって、誘った方も誘われた方もお互いに相手を「口ばかりでいいかげんなヤツ……」と思うことはありませんし(そもそもどちらが言い出したかも定かでないことが多い)、いざスケジュール調整をしたところで、お互いに忙しい身ですから、ズルズルと日延べしてしまうケースがほとんどです。
しかし、この方は違いました。「藤沢で最高の湯豆腐をごちそうしましょう」と、取材からわずか3週間後に飲み会が実現してしまったのです。
ジムニー乗りの東の聖地と呼ばれるAPIO(https://www.apio.jp/)の河野仁さん。もともとはシャープの工業デザイナーで、液晶テレビのデザインを担当されていた腕利きのデザイナー。四駆好きが高じて、今やジムニー専門店の大社長に華麗なる転身を遂げたお方であります。
ジムニー乗りの聖地、APIOの河野社長と Photo by Ferdinand Yamaguchi
「趣味を商売にするといいことはない」なんて言われますが、それも突き抜けて次元が違えば話も変わってくる。ジムニーに乗り、ジムニーを愛し、楽しみながらジムニーを生涯の仕事にしているのです。本当に素晴らしい。お話をしていると、ジムニー愛がヒシヒシと伝わってきます。あと2時間くらい一緒にいたら、自分もジムニーを買ってしまったかもしれません。それくらいの勢いがある。
九州から取り寄せた温泉水でつくる極上の湯豆腐 Photo by F.Y.
ご紹介いただいた湯豆腐は本当においしかった。九州から取り寄せた温泉水を沸騰させ、特注の豆腐を煮立てるのですが、今まで食べたことのない天国の美味でありました。ここはまた行ってみましょう。
ご覧の通り豆腐から溶け出した成分で湯葉が出来る。これがまたおいしい。藤沢の宗平( https://hmgsohei.jp/ )という居酒屋でした Photo by F.Y.
クルマ談議に花が咲き、あっという間の4時間でした。河野さん、ありがとうございました!
ということで、本編へとまいりましょう。17年間も続いたR35 GT-Rの集大成、プレミアムエディションT-spec試乗記であります。
2007年登場のNISSAN「R35型GT-R」は
17年でどこまで進化した?
2007年12月の登場から既に17年。まるで外タレの「最後の来日公演」のごとく、このところ何年も「これが最後」と噂されていたR35型GT-Rが、いよいよフィナーレを迎える。
R35型のNISSAN GT-R、最終年次版。2025年8月で生産終了予定(広報写真)
現行型R35型GT-Rは、来年の8月をもって生産を終了する。年次改良が繰り返し施されてきてはいるものの、ここまで長く同一モデルが造り続けられた(しかもキチンと売れ続けた)クルマも珍しい。
17年前。“世界最速”を高らかにうたったGT-Rは、わずか777万円の激安価格で発売された。最高出力は480馬力。それが翌年には5馬力アップの485馬力に、2010年には燃費を向上させつつも、530馬力まで向上させている。今から14年も前に、既にスーパーカーの一つの基準となる“オーバー500hp”を達成しているのだ。
翌2011年には550馬力に、最新の2025年モデルでは、実に570馬力を達成している。最廉価版であるピュアエディションの価格は、1444万3000円。1000万円を楽勝で上回る価格設定だが、何しろ製造コストのかかるクルマである。諸所物価高騰の折、これはやむを得ないだろう。
17年の時を経て、GT-Rはどこまで進化したのか。
今回の「走りながら考える」は、日本の至宝であるR35型GT-R、最終年次版のインプレッションをお届けする。
今回、プレミアムエディション
T-specに試乗した理由
ちなみにGT-Rの販売受付は既に終了している。「もう買うことのできないクルマの感想を記事にしてどないすんねん!」とお叱りを受けそうだが、これにはもちろん背景がある。
生産終了が正式にアナウンスされたGT-Rの17年間を総括していただき、さらにはこれからどうなるのか。次期型の構想はどうか。つまり「GT-Rのこれまでとこれから」をうかがおうと、ブランドアンバサダーの田村宏志氏にインタビューの申し込みをしたところ、「話はクルマに乗ってからだ」とあえなく却下されてしまったのだ。「最新のGT-Rに乗っていないやつにGT-Rの話をしたって、チンプンカンプンだろ?」とにべもない。複数グレードのあるGT-Rの中から、田村氏に指定されたクルマはプレミアムエディションT-spec。通称“Tスペ”と呼ばれるモデルだ。「T-specが一番GT-Rの進化を実感できるから」とのことだった。
T-specは高額だがエンジンの基本性能は「数字的」には廉価版と同じである。ただしバランスが違う。ピストンリングやコンロッド、クランクシャフトなどに、3000万円超えのNISMOスペシャルエディションだけに採用されていた「高精度重量バランス部品」が新たに採用されたのだ。当然スムーズに回る。振動も騒音も少なくなる。
T-specだけの専用部品が
たくさん使われている
試乗の前に、まずはクルマの周囲をぐるっと一回り。
GT-RプレミアムエディションT-spec。辰巳PAにて Photo by F.Y.
ボディカラーはT-specだけに設定された「ミレニアムジェイド」である。ブロンズに塗装された超軽量のアルミ鍛造ホイールはレイズ製。その内側をのぞくと、鈍く光を放つ大口径のディスクが見える。NCCB(Nissan Carbon Ceramic Brake)である。軽量で耐熱性に優れたカーボンセラミック製のブレーキローター。このブレーキセットだけで安いクルマが1台買える超高額のパーツである。高い制動力はもちろん、微妙なコントロールが可能になる。
カーボンセラミック製のブレーキローター、NCCB(広報写真)
GT-RプレミアムエディションT-specのエンジン(広報写真)
車両の後部に回る。後端ギリギリに設置されたリアスポイラー。長く広くなり、翼断面形状も見直され、さらに取り付け位置もより後部に変更されている。これにより従来型と比べて1割以上もダウンフォース(クルマを下に押し付ける力)が増加している。
リアスポイラーの下にはGT-Rのエンブレムが光る。併せて黄金色のT-spec専用バッジが配されている。遠目に見ると、これが特別なGT-Rであることには気付かない。色も地味だ。「控えめな特別車」。それがT-specである。
リアスポイラー下部。GT-RプレミアムエディションT-specだけの専用バッジ(広報写真)
GT-RプレミアムエディションT-specを
首都高で走らせてみた
それではクルマに乗り込んでみよう。
シートに座り、シートベルトを締め、ドアを閉める。ボスンと重厚な音が響く。スタートボタンを押し、エンジンをかける。「ブボー」と乾いた大きな音が響く……と思いきや、排気音は意外なほどに静かに抑え込まれている。
T-specの運転席周り Photo by F.Y.
まったく当たり前の話なのだが、GT-Rのような特別なクルマも、厳しい車外騒音規制には対応しなければならない。だが騒音を抑え込もうと、太いタイコや長い管のマフラーを付けると、排気抵抗が大きくなり馬力は落ちてしまう。さらに音がショボくなるとドライバーの高揚感もダダ下がりしてしまう。スーパースポーツカーには、それにふさわしいサウンドが必要なのだ。騒音の発生を抑えつつ、高いパワーは維持しておきたい。さらにドライバーの高揚感を煽る“適切な音づくり”もしなければならない。それぞれに相反する要素のバランスを取りながら、高い次元で融合させなければならない。エンジニアは大変だ。
シフトノブ前にはT-specのバッジが Photo by F.Y.
ギアを入れて走り出す。GT-Rの初期モデルは、ここでガチャガチャと盛大な機械音がした。歯車が床を突き破って飛び出してくるのではないかと肝を冷やしたものだが、最新のGT-Rは違う。怖い音がしない。2速、3速、4速と実に小気味よくシフトアップしていく。強力かつスムーズな加速。荒々しいイメージで、実際に荒々しかったGT-Rが、適切に調教され、しつけられている。荒馬が名調教師の手にかかり、上質な競走馬にしつけられたようなイメージだ。
首都高速湾岸線を横浜方面に向かう。ステレオから音楽が静かに流れている。走行音はしっかりと抑え込まれている。サスペンションを「Comfort」に設定しておくと、継ぎ目の段差もまったく気にならない。タイヤの音だけが軽く「トトン」と響く。「ドスン」という感覚は一切感じない。静かに穏やかに、しかし、ひとたび鞭を入れれば、鬼のように速く走る。「GT」という言葉は、このT-specのためにあるのではないか。
玉にキズがあるとすれば、あまりに快適がゆえに速度感がないことだ。気がつくとヤバい速度領域に達している。そんな感じだ。
深夜の大黒PAに向かった Photo by F.Y.
流れに乗って快適に飛ばしていると、後ろから今どき珍しい煽り車がグイグイと距離を詰めてきた。真後ろに付き、尻を突いてくる。面倒な野郎だ。前が詰まっているのだから仕方がないだろう。大切な試乗車で揉めるわけにはいかない。道を譲る。安っぽいマフラーに換えた旧型のシビックTYPE Rが安っぽい音を立てて加速していく。そして前のクルマの尻にピッタリ張り付いて蛇行している。ドラレコが普及し、四方八方から録画されているこの時代に、まだこんな運転をする輩(やから)がいるのか。パトカーに捕まってしまえ、と思う。
さすがGT-R、大黒PAに止めた途端に
人だかりができた
橋を何本か越えて、大黒パーキングエリアに入る。木曜日の夜は大変なにぎわいだ。大勢の外国人観光客がカメラを片手に場内を探索している。もちろん日本人も多い。
さすがはGT-R。クルマを止めるとあっという間に人だかりができた。海外のYouTuberだろうか、マイクを片手に「GT-R! GT-R!」と連呼している。海外での人気がうかがい知れる。GT-Rは、日本よりも海外での人気が高いのだ。
深夜なのに大変な人出である
熟成に熟成を重ね、もはや完成の領域に達したGT-R。このクルマはどこに向かうのか。「R36」はあるのか、ないのか。次期型はポルシェ同様、電動化されるのか。興味は尽きない。
考えても分からないので、次号ではブランドアンバサダーにお話を伺おう。
日産GT-RプレミアムエディションT-spec、
ここがイイ!&ここがちょっと……
それでは最後にT-Specの○と×を。
■日産 GT-R プレミアムエディションT-specのここが( ・∀・)イイ!!
1.メチャ利くブレーキ:カーボンセラミックはダテじゃない。本当にバシッと止まる。
2.上質なしつけ:17年も経つと、オトナになるものです。擬声語で表すと「ガチャガチャドカドカ」から「スッ」「サッ」という感じ。
3.絶対的安心感:高い接地感。適切に配分されるパワー。何でもできる全能感を手にできる。
■日産 GT-RプレミアムエディションT-specのここはちょっとどうもなぁ……(´・ω・`)
1.買えないのに公式サイトで掲載:もう注文することはできないのに、日産の公式Webページ上では今でも「カーラインアップ」の項目にGT-Rが掲載されている。「セルフ見積もり」では、内装を選び、オプションを選んで、見積もりの保存までできる。ご丁寧なことに、ローンを組むシミュレーションまでできるのだ。単なる不手際なのか、あるいは日産側に何らかの考えがあるのか。
2.販売店の塩対応:実は、抽選締め切り期限前に某ディーラーにNISMOの注文に行ったんですよ。そうしたら……。
「あ、もう終わりましたんで」「まだ締め切り期限前ですよね?」「前ですけど、ウチではもう終わりましたんで。神奈川に行けばまだ受けていると思いますよ」「神奈川に行けば確実に受けてくれるのですか?」「それはちょっと分かりませんけど……。たぶん大丈夫だと思います」ファイナルモデルのあまりの人気に、販売店のお鼻がいささか高くなっているご様子でした。
ということで、次週は「GT-Rのこれまでとこれから」のインタビューをお届けします。お楽しみに!
GT-Rは「ハコスカ」「ケンメリ」
から始まった
こんにちは、AD高橋です。
日産から「GT-R」の名を冠したモデルが初めて登場したのは、1969年のことです。初代プリンス・スカイラインから数えて3世代目になるC10型(ハコスカですね)に2L直6のS20型エンジンを搭載したスカイラインGT-Rがデビュー。最初のGT-Rはセダンボディでした。1970年には、ホイールベースを70mm短縮した2ドアのスカイラインGT-Rが登場しました。
PGC10型スカイラインGT-R(1969年)。以下すべて広報写真
1973 Nissan SKYLINE 2000 GT-R。いわゆるケンメリGT-R
1972年にスカイラインが4代目となるC110型(ケンメリ)にフルモデルチェンジし、1973年にGT-Rが設定されました。ケンメリGT-RはS20型エンジンが排ガス規制に適合できず、わずか3カ月で生産終了。生産台数は197台と“幻のGT-R”となりました。
ハコスカとケンメリという第一世代のGT-Rは流通台数が少ないこともあり、憧れを持っていても一般の人が簡単に手に入れられるものではありません。
16年間、スカイラインに
GT-Rが設定されなかった理由
R30型スカイラインRS-X(1984年)
ケンメリGT-Rが生産終了になってから1989年にR32型スカイラインGT-Rが登場するまで、スカイラインには16年間“GT-R”が設定されませんでした。「GT-Rは特別な称号。それに見合うモデルじゃないとGT-Rと名乗ることは許されない」という考えが日産にあったからだといわれています。
とくにGT-Rにとって直6エンジンを搭載することは絶対条件でした。しかし、ケンメリの次の世代となるジャパン(C210型)は、排ガス規制の問題がありハイパワーエンジンを搭載できませんでした。R30型にはターボRSというスーパーモデルが設定されるも、4気筒エンジンだったためにGT-Rという名称が与えられませんでした。R31型にはHICASをはじめとする最先端のシステムが搭載されたものの、GT-Rは設定されていません。
R32型スカイラインGT-R(1989年)
それだけにR32型で第2世代としてGT-Rを復活させることが決まった際は、開発陣に並々ならぬ想いがあったはずです。最高出力280ps(本当は300psの予定だったが、自動車馬力自主規制によりパワーダウンを余儀なくされた)を発揮するRB26エンジン、電子制御トルクスプリット4輪駆動のアテーサE-TS、電子制御4輪操舵システムであるSuper HICASなど、当時の日産が持つ技術が惜しみなく投入されました。
R32 GT-Rの放つオーラ
中古車になっても値段が下がらない
R32 GT-Rの開発目的は、レースに勝つこと。当時の全日本ツーリングカー選手権(グループA)に参戦して怒涛の29連勝を達成。GT-R以外のライバルを周回遅れにしてしまうほどの圧倒的な速さを誇ったR32型の雄姿を見にサーキットに足を運ぶのは、本当に楽しかったです。そして高速道路を自分のクルマで走っているときにルームミラーにR32が映ると、無条件に道を譲るしかない。GT-Rが放つオーラはものすごいものがありました。
R32型GT-Rの中古車は200万円以下で買える時期もありましたが、現在は相場が高騰。理由は、第2世代GT-Rが基本的に日本専売モデルだったこと(一部海外でも販売されました)が大きく影響しています。
海外の人たちはGT-Rに乗りたくても手に入らない。しかしアメリカには、製造から25年が経過するとクラシックカー扱いになり輸入規制が緩くなる制度(いわゆる25年ルール)があるため、日本から中古車が大量に輸出されたのです。R34型GT-Rに至っては25年ルールを見越して5年ほど前から中古車の流通量が激減。状態のいい中古車を海外に輸出するために隠し持っていたのでしょうね。そのため、2000万円を超える価格が付けられるという異常事態が発生しました。ちなみにR34型GT-Rは、2024年からアメリカに輸出できるようになりました。
R35 GT-Rの中古車も、デビュー時のものが当時の新車価格とあまり変わらない価格で取引されています。生産終了がアナウンスされたこともあり、今後はR35 GT-Rの中古車相場もさらに上昇していくことでしょう。
(AD高橋)
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