新型フリード「ただの正統派」ではない形の狙い 派手さはなくても感じるホンダのメッセージ
8年ぶりのモデルチェンジとなった新型フリードのデザインを詳しく見ていく(写真:三木宏章)
本田技研工業(ホンダ)のコンパクトミニバンである「フリード」の新型が、ついに発売を迎えた。デザインについては大型連休明けに公開されており、テストコースでのプロトタイプの試乗記もメディアにアップされていたから、ようやくの発売といえる。
【写真】シンプルだけど「ただの正統派」ではない新型フリードのデザイン
モデルチェンジによって旧型になる2代目がデビューしたのは、2016年。つまり今年で8年目だ。にもかかわらず、モデル末期になっても売れ続けており、2023年の登録車の年間台数ではベスト10に入っていた。
だからだろう。プラットフォームは新規開発ではなく熟成を図る形とし、ボディサイズの拡大も最小限に抑え、従来のパッケージングを継承する。
一方、パワートレインとデザインを大きく変えることで、新しさをアピールしてきた。ただ、この2点の刷新は、個人的にはどちらもある程度予想できたことだった。
ハイブリッドがe:HEVになった必然
フリードでは今までなかったe:HEVと4WDの組み合わせも登場した(写真:三木宏章)
パワートレインは、ハイブリッドが1.5リッター直列4気筒エンジンに発電用と走行用の2つのモーターを結合させ、低速ではモーター、高速ではエンジン主体で走るe:HEVに切り替わったが、これは「フィット」や「ヴェゼル」でおなじみの方式だ。
ちなみに「ZR-V」や「ステップワゴン」などには、同じe:HEVの2.0リッター版が積まれている。つまり、国内向けのホンダのハイブリッド車では、フリードだけが7速デュアルクラッチトランスミッション(DCT)を用いた、ひと世代前の方式だった。だから、今回のe:HEV採用は、当然だと感じたのである。
【写真】シンプルだけど「ただの正統派」ではない。新型「フリード」の内外装を見る
なお、1.5リッター直列4気筒のガソリン車は、こちらもフィットやヴェゼルと同様、直噴方式からポート噴射方式になった。技術的には時代に逆行しているようにも思えるが、フリードのキャラクターを考えれば、高性能である必要はない。そのため、直噴独特の音を抑え、コストダウンにも寄与するポート噴射方式をあえて選んだという。
AIRとCROSSTAR
デザインは「シンプル&スマート」という、最近のホンダのトレンドに合わせたものだ。とりわけエクステリアは、ひとまわり大きなステップワゴンや、軽自動車の「N-BOX」との近さを感じる。
ひとめでフリードだとわかるプロポーションながら、まったく新しいデザインとなった(写真:三木宏章)
ただし、その2台は、先代から激変したわけではなかった。それに比べるとフリードは、ドアの前の三角窓がなくなったり、サイドウィンドー上端のラインがほぼ直線になって、リアクォーターウィンドーはスクエアになったりと、大きく変わった。
最初にも書いたように、先代はモデル末期まで人気車種だったから、ここまで変えるには勇気が必要だったはずだが、「パワートレインの一新を見た目でもアピールしたい」という思いから思い切ったとのことだった。
ステップワゴン同様、「AIR(エアー)」というサブネームを与えたことからも、心機一転という思いが伝わってくる。
ディテールは異なるが、ステップワゴンやN-BOXに通じる雰囲気が感じられる(写真:三木宏章)
SNSの書き込みなどを見ると、日本のカーユーザーはこうしたシンプルでクリーンなデザインを「物足りない」「安っぽい」と感じる人が多いようだ。現行型の途中で加わった「CROSSTAR(クロスター)」は、それに対する回答に思えた。すっきりしたエアーに対して、こちらはクロスオーバーテイストの演出が先代よりも明確になっていたからだ。
新型クロスターでは、バンパーの一部をブラックアウトしたうえに、シルバーのアクセントを効果的に取り込む。
フェンダーアーチを追加したことも先代クロスターとの違いで、全幅は25mm広がって、フリード初の3ナンバーになった。ちなみに全長は、パワーユニット一新のために45mm伸びて4310mmになった。全高は1755mmで、2740mmのホイールベースはそのままだ。
先代ではスライドドアの関係で実現できなかったフェンダーアーチが、CROSSTARらしさを強調する(写真:三木宏章)
興味深いのは、タイヤサイズが先代と同じで、クロスターも特別なサイズを選んではいないこと。エンジニアによれば、スタッドレスタイヤ用のホイールをそのまま使えるようにして、ユーザーの負担を軽くすることを考えた結果だという。
それでもクロスターの足元が貧弱に見えないのは、アウトドアツールのゴツゴツ感をうまく取り入れたアルミホイールのおかげだろう。クリーンなデザインが好みの筆者も、このホイールには感心してしまった。
CROSSTARのテイストとユーザーメリットをうまく両立したデザインのホイール(写真:三木宏章)
ボディカラーは、エアーではステップワゴンとも共通の「フィヨルドミスト・パール」が、クロスターでは新色の「デザートベージュ・パール」が、それぞれ専用色として用意される。
良い意味で生活感あるインテリア
インテリアデザインも、水平基調でノイズレスという、最近のホンダのトレンドに合わせたものだ。
先代は、メーターをステアリングの上から見るタイプにして奥に置いたり、センターディスプレイの周囲を盛り上げたりしており、やや煩雑な印象があったので、新型のデザインには多くの人が好感を抱くのではないだろうか。
CROSSTARのインストルメントパネル。各機能がスッキリとまとめられている(写真:三木宏章)
メーターやセンターディスプレイの表示はフィットやヴェゼルに似ていて、ブランドとしての統一性を感じるし、インパネ奥のラインが水平で出っ張りもなく、そのラインがドアトリム上端に連続しているから、車両感覚も掴みやすい。
シンプルながら無味乾燥になっていないところはN-BOXに似ていて、インパネのパッドを布張りとしたり、その下のトレイともどもアースカラーで彩ったりして、 リビングルームなどを思わせる良い意味で生活感のある雰囲気が生まれている。
加えてクロスターでは、黒基調のファブリックシートに配されたオレンジのステッチが、遊び心を絶妙に盛り上げていることも印象的だった。
AIRのインテリアは写真のグレージュのほかにブラックも用意(写真:三木宏章)
オレンジのステッチとカーキのパネルが特徴的なCROSSTARのインテリア(写真:三木宏章)
乗車定員はエアーが3列シートの6人乗りと7人乗り、クロスターは2列シートの5人乗りと3列シートの6人乗りが用意される。このことからも、クロスターはファミリーユースだけでなく、レジャーユースの受け皿としても位置付けられることがわかる。
プラットフォームを変えていないのでパッケージングに変化はないが、3列目シートは現行型より小さく軽く仕上げており、楽に格納できるようになった。
車いす仕様車と助手席リフトアップシート仕様車は、福祉車両のハードルを下げたいという気持ちからクロスターがベースになり、前者はレジャー用途にも使ってもらおうという気持ちから、「スロープ」というグレード名になったという。
「優れたカーデザイン」を考える
全体的に見て言えるのは、フリードそのものより、ホンダ・デザインとしてのメッセージが明確だということだ。しかも、小細工に頼らずに美しさと使いやすさの両立を目指す方向性は、デザインとしては正統派であり、直球勝負と言える。
奇をてらわずシンプルに機能を追求したようなスタイリング(写真:三木宏章)
ホンダは4輪車メーカーとしての礎を築いた「N360」や初代「シビック」も、機能美を感じさせるデザインだったわけで、ブランドイメージにも合っている。
前にも書いたように、日本のユーザーの中には、あっさりした造形を好まない人も少なからずいる。でも、それは好き嫌いの範疇であり、新型フリードは評価されるべきデザインのひとつだろう。
新型フリードも過去2世代と同様、多くの人に親しまれることが予想される。オーナーとなった人たちが日々の生活を通して、優れたカーデザインとは何かを考えるきっかけになれば幸いだ。
【写真】改めて新型フリードのデザインを詳しく見る