S&P500のトップ10企業だけに集中投資! 新投信「Tracers S&P500トップ10インデックス(米国株式)」をレビュー
- 日興アセットマネジメントは5月16日、新しい投資信託「Tracers S&P500トップ10インデックス(米国株式)」を発表した。
- この商品は、S&P500におけるトップ10銘柄と連動する独自の「S&P500トップ10指数」との連動を目指す商品だ。
- 10社に絞り込んでいるためリスクも大きくなるが、期待できるリターンも大きい1本となっている。
日興アセットマネジメントは5月16日、新しい投資信託「Tracers S&P500トップ10インデックス(米国株式)」を発表した。S&P500におけるトップ10銘柄との連動を目指す商品で、6月28日現在はマイクロソフトとアップル、そしてエヌビディアがそれぞれ構成比率の約2割を占めている。
この商品は、10社に絞り込んでいるためリスクも大きくなるが、リターンも大きい。公式サイトで日興はその魅力を「分かりやすさ」と表現しているが、具体的にどのような商品であり、どの程度のリターンが期待できるのか、解説していこう。
なお、この商品は新NISAの成長投資枠で購入できる。
独自の「S&P500トップ10指数」に連動
「Tracers S&P500トップ10インデックス(米国株式)」は、独自の「S&P500トップ10指数」との連動を目指す商品だ。この指数は、日経平均株価のように一般的ではないが、公表されているドルベースのトップ10指数をもとに日興アセットマネジメントが円換算したものが元となる。
なお、S&P500銘柄のうち、時価総額の大きい上位10銘柄が算出対象だ。現在の上位構成銘柄は次の通り。
上位はいずれもIT関連銘柄だが、バークシャー・ハサウェイ(金融)、イーライリリー(ヘルスケア)、JPモルガン(金融)なども含む。なお、1社で複数の銘柄が上場している場合や、スピンオフ(分離・独立)などの理由から、構成銘柄数が10を超えることがある。
これらの銘柄は、毎年6月に見直しが実施される。また、年4回、構成比率の調整もなされるようだ。ちなみに 現在の構成銘柄は、去る6月21日に見直しが実施されたばかりのものだ。
この投信はベビーファンドであり、マザーファンド「インデックス マザーファンド 米国株式トップ10」を通じて運用される。マザーファンドとは複数の投資信託から資金を集めて運用するファンドを意味し、親子関係でいえばベビーファンドは子にあたるものだ。通常、個人投資家はベビーファンドを売買している。
メリット&デメリット
さっそくメリット&デメリットから見ていこう。私見ではあるが一覧にすると、以下のようになる。
メリット | デメリット |
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メリット:「Tracers S&P500トップ10インデックス(米国株式)」のメリットは日興が訴求する通り、集中投資できる分かりやすさにある。500社のうち著名な10社に絞り込むため、変動要因も把握しやすい。いずれも業績推移が特に注目されるため、動向が頻繁に報道される。つまり、細かく分析する必要がないのだ。
そして、10社とはいえS&P500の時価総額における3分の1を占める大型株である。いずれも先端分野の企業であり、日本国内の大物銘柄のように旧産業の銘柄ではない。比率や構成銘柄も随時変更されるため市場の変化には追従できそうだ。
さらに、年1回ではあるが、毎年6月に銘柄の見直しも実施。まだ、運用開始から2カ月も経過していないが、6月21日に入れ替えが行われた。今回は、テスラ、ユナイテッドヘルス・グループ、ジョンソン・エンド・ジョンソンが外され、イーライリリー、ブロードコム、JPモルガンが新しく加わえられている。
さらにこの商品は、新NISAの成長投資枠で購入可能だ。どんなに収益が発生しても、非課税で利用することができる。
デメリット:「Tracers S&P500トップ10インデックス(米国株式)」のデメリットはやはり、リスクが大きくなる点だ。
コロナ禍以降はトップ10と500社全体の乖離が大きく、変動幅も大きくなっている。2010年代からの株高局面で市場全体は伸びているが、今後、短期では500社全体よりパフォーマンスが落ちる可能性も否めない。両者の乖離は過剰なIT関連投資の結果という意見もあり、仮にそれを修正するような動きがあれば、この商品のパフォーマンスも著しく下がるだろう。
構成銘柄の変更も年1回しかない。そのため、1〜2社の業績悪化が足を引っ張るか可能性も出てくる。トップ10の下落局面では米国株全体も下落するはずだが、上位株は特に影響が大きい。
その他の懸念材料の残る銘柄も存在する。たとえば、将来性に疑問が残るメタバース事業に依然として注力しているメタ社だ。アップル社もスマホ依存、中国依存体質から抜け出せていない。つまりこの2社は、近い将来、パフォーマンスが悪化するかもしれないのだ。
運用コストは相場どおり
さらに細かい要素も確認していこう。気になる商品スペックは、以下のとおりだ。
- 購入時手数料:ゼロ
- 実質信託報酬:0.10725%
- 決算:年1回
- 運用期限:無期限
S&P500連動型のインデックスファンドは信託報酬が概ね0.09%であり、このファンドもそこまで変わらない。現時点の純資産総額は178億円と、新生なのでメジャーどころよりは規模が小さい。
なお本投信は、NISA成長投資枠の適格対象だ。当初の基準価額1万円で、ちょうど1カ月経った現在はS&P500が上昇していることもあり、1万1000円台を推移する。
過去実績では高いパフォーマンスを発揮
近年、潮流ともいえる「分散投資」に対し、同投信は10社に「集中投資」できる点を訴求している。とはいえ10社でも十分に分散されているといえるだろう。
もちろん期待できるリターンも大きいが、リスクも大きくなる。公式サイトでは円換算したトップ10指数のパフォーマンスも公表されている。
2014年1月における「S&P500」及び「S&P500トップ10」の指数を100とすると、今年2月時点で前者は450、後者は700超である。特にコロナ禍以降は両者の乖離が大きくなっているため、その結果が数字として現れた形だ。
積み立てシミュレーションではS&P500に優る
公式サイト上では積立額のシミュレーションも可能だ。あくまでも過去10年1カ月の実績をベースとしているが、「S&P500」と「S&P500トップ10」、それぞれに毎月1万円ずつ計121万円積み立てた場合の評価額は次の通りである。
積立シミュレーションの結果
- S&P500 :316万円
- S&P500トップ10 :455万円
※過去10年1カ月の実績をベースにそれぞれへ毎月1万円ずつ計121万円積み立てた場合の評価額。
過去の推移をもとに将来を予想することはできないため、あくまでも参考程度にしておきたい。とはいえ、S&P500に対してS&P500トップ10は、約1.5倍近く高い結果を残している。その点は、着目したい点だ。
まとめ
長期投資の原則は分散投資、そしてなるべく損失を出さない点にある。利益を狙うのではなく、貯蓄より優れたパフォーマンスを発揮できれば正解としておきたい。
その点でいえば、今回の「Tracers S&P500トップ10インデックス(米国株式)」は集中投資であり、ややリスクも追うことになる。購入するなら、オルカン型やS&P500連動型に主軸をおきつつ、サブ的な扱いにしておくべきと筆者は考えている。
想定リスクを比較すれば、オルカン型 < S&P500 < USテック・トップ20 < 今回のトップ10 < マグニフィセント・セブン、という順序になるだろう。
USテック・トップ20は今回のトップ10と同様、テック関連の上位株に投資するファンドであり、上位10社が構成比率の7割を占める。そのため、Top10とあまり変わらない。M7はTop10から、金融やヘルスケア関連株を除いたものであり、よりテック株に特化したファンドだ。
「Tracers S&P500トップ10インデックス(米国株式)」は、短期において1〜2社の業績が足を引っ張るかもしれない。そのため、少なくとも数年単位での中期投資で考えたい商品であると筆者は捉えている。
※本記事は取材対象者の知識と経験に基づいて投資の選定ポイントをまとめたものですが、事例として取り上げたいかなる金融商品の売買をも勧めるものではありません。本記事に記載した情報や意見によって読者に発生した損害や損失については、筆者、発行媒体は一切責任を負いません。投資における最終決定はご自身の判断で行ってください。