フォーティーン『NEW PC-3』はコンセプト通り「HS40m/s以下のゴルファーが“やさしいと思うアイアン”」なのか？ アマチュア3名に打って検証してもらった

とあるゴルフ量販店のアイアンコーナーで物色していると、「オススメ！」というポップが目についた。2024年5月17日にフォーティーンから発売された『NEW PC-3』だ。コンセプトは「HS40m/s以下のゴルファーが“やさしいと思うアイアン”」とのこと。はたして、メーカーの言う通りのアイアンなのか？ 「みんゴル」では急きょ、ヘッドスピード40m/s以下のアマチュアゴルファー3人に声をかけ、練馬にあるインドア練習場『GOLFPLACE』で試打を敢行した。

評判の高い「TB-5 FORGED」アイアンと比較試打

まず、なぜ試打者をアマチュアゴルファーにお願いしたのかを説明しよう。それは、アマチュアとプロでは“やさしさ”が異なるからで、プロの“やさしさ”は自身の思い描いた球が打ちやすいことに対し、アマチュアはミスに強いことを指すことが多いだろう。また、プロゴルファーはヘッドスピードやインパクト打点を自在に操れるが、ヘッドスピードを合わせにいったときとノーマルスピードで打ったときのインプレッション(感覚)が異なるのではないか、という疑問を担当編集が持っているためだ。

そして、今回は『NEW PC-3』だけの試打では、テスターがアマチュアなので単品では評価しづらく、またそもそも感覚論の“やさしさ”はわかりにくいと思い、同じくフォーティーンのアイアンで爆発的な人気を誇る『TB-5 FORGED』と比較した。

さらに、最近のアイアンは番手ごとで素材や構造が異なることが多く、ロングアイアン、ミドルアイアン、ショートアイアンを試打した総合的な判断が重要と考え、今回は5番、7番、9番の3本の打ち比べにした。※『NEW PC-3』の場合、全番手でボディは軟鉄鍛造だが、フェースは5～7番が超高強度エリート・D・スチール、8番～PWが高強度ニッケルクロムモリブデン鋼と異なる

試打スペック

できるだけ公平を期すために、シャフトは両方ともフォーティーン純正の『FS-90i スチールシャフト』のフレックスSで統一している。また、長さやバランスなどは市販品と同じにしてある。

『NEW PC-3』×FS-90i スチールシャフト(S)

■ヘッド素材

フェース/ 5I～7I:超高強度エリート・D・スチール、8I～PW:高強度ニッケルクロムモリブデン鋼

ボディ/ S20C(鍛造)

■仕上げ

ニッケルクロムメッキ仕上げ

5番●ロフト角／24度、ライ角／61.5度、長さ／38.5インチ、重量／390g、バランス／C8.0

7番●ロフト角／30度、ライ角／62.5度、長さ／37.5インチ、重量／402g、バランス／C8.0

9番●ロフト角／39度、ライ角／63.5度、長さ／36.5インチ、重量／416g、バランス／C8.0

『TB-5 FORGED』×FS-90i スチールシャフト(S)

■ヘッド素材

軟鉄S20C(鍛造)

■仕上げ

ニッケルクロムメッキ・サテン仕上げ

5番●ロフト角／23度、ライ角／61.0度、長さ／38.5インチ、重量／395g、バランス／D0.0

7番●ロフト角／30度、ライ角／62.0度、長さ／37.5インチ、重量／407g、バランス／D0.0

9番●ロフト角／38度、ライ角／63.0度、長さ／36.5インチ、重量／421g、バランス／D0.5

左から宮坂克さん、吉井敏明さん、高橋健二さん(撮影/三木崇徳)

今回、テスターをお願いしたのは以下の3人で、名前の後は①年齢、②平均スコア、③現在愛用のアイアンになる。

吉井敏明さん　①64歳、②95、③本間ゴルフ『TR20-V』×『NSプロ モーダス3 105』

宮坂克さん　　①57歳、②85、③ヤマハ『RMX ツアーモデル』×『NSプロ 950NEO』

高橋健二さん　①76歳、②83、③テーラーメイド『スピードブレード』×『NEXGEN』

山崎康寛クラフトマン。自身はスクラッチプレーヤーの腕前(撮影/三木崇徳)

最初に『GOLFPLACE』内の工房『スタジオCGA』を主宰する山崎康寛クラフトマンに、アイアンのやさしさとは何かを確認すると、「アイアンのやさしさって人によって違うけど、アマチュアゴルファーなら、球のつかまりのよさ、球の上りやすさ、芯を外してもそこそこ飛んで曲がらないクラブと考えればいいでしょうね」と回答をもらった。

試打開始！ 見た目や振り感では『TB-5 FORGED』というが、データを見ると……

試打はこの2シリーズを打ち比べ！(撮影/野村知也)

試打の手順は以下のとおり。『NEW PC-3』と『TB-5 FORGED』の各7番アイアン、9番アイアン、5番アイアンを吉井さん、宮坂さん、高橋さんの順に、それぞれ5球ずつ打ち比べてもらって感想を聞いた。計測器はディテクト社の「Golf Swing Better Prizm Pro」、ボールはキャロウェイ「CHROME SOFT トリプル・トラック」だ。計測データは5球打ったうちの最高と最低を除いた3球の平均を表記した。

「どの番手も『NEW PC-3』のほうがつかまって球が高いですね」（吉井さん）

「アイアンは4番から入っていて好きです」と吉井さん(撮影/三木崇徳)

〈見た目の印象〉

顔は『TB-5 FORGED』のほうが好みで、シャープに感じる。『NEW PC-3』はトップブレードが厚く、鈍重な印象です。

「構えた感じは右の『TB-5 FORGED』が好きなんですが、『NEW PC-3』のように厚みがあると当たり負けしない気はします」(吉井さん・撮影/三木崇徳)

〈打ちやすさ〉

7Iを最初に打ち比べて感じたのは、断然、『NEW PC-3』のほうが打ちやすい。ラクに振れるし、ヘッドが勝手に返る感じで球のつかまりがよく、芯を食う確率も高い。ヘッドの重みを感じながら振れて、コントロール性も『NEW PC-3』のほうが高かった。『TB-5 FORGED』はシャフトが硬く感じ、棒を振っているように思えた。

シャフトが硬く感じられるのは9Iでも同じでした。やはり『NEW PC-3』のほうが打ちやすい。振りやすいし、球がよくつかまり、高い弾道のボールが出る。『TB-5 FORGED』は持った瞬間に重さを感じる。それで振りにくいと感じたのではないかと思います。

5Iについても『NEW PC-3』が振りやすく、無理せずに打てる感じがする。『TB-5 FORGED』は７I以上に棒を振っている感じで、ふつうに振るとヘッドが返らず、右にプッシュアウトしてしまった。

「5Iは『NEW PC-3』、7I＆9Iは『TB-5 FORGED』のほうが打ちやすい」（宮坂さん）

「5番アイアンは数年前に抜いたから打てるかな」と不安気だったが宮坂さんだが、「『NEW PC-3』なら打てそう」という(撮影/三木崇徳)

〈見た目の印象〉

『NEW PC-3』はトップブレードの厚みが気になる。『TB-5 FORGED』は顔がシャープで「持ちたい」という気持ちになりますね。

「ヘッド長は『NEW PC-3』のほうが大きい。好きなのは小ぶりな『TB-5 FORGED』ですが、5Iは『NEW PC-3』じゃないと打てません」(宮坂さん・撮影/三木崇徳)

〈打ちやすさ〉

まず7Iを打ってみて、『TB-5 FORGED』は構えたときにターゲット方向にフェース面を合わせやすく、打ちやすい。自分はスコアラインの下から2番目当たりで球を捉えたいと思って打っているのですが、そこで捉えたときの打感や手応えがいい。

対して『NEW PC-3』は、インパクト時の手応えがぼやけている。多分、スイートエリアが広く、どこに当たっても打ち損じが少ないからだと思いますが、逆に「芯を食ったな」という感激が少ない気がします。

9Iは、『NEW PC-3』も『TB-5 FORGED』もライ角がアップライトで、つかまりやすさにそんなに違いは感じませんでした。ただ『NEW PC-3』はややグースネックになっていて、ふつうに打つとヒッカケが出た。真っ直ぐ打とうと思えば、意図的に左に抜く操作をしないといけない。『TB-5 FORGED』は7I同様、気持ちのいいボールが出る。

5Iは、これまでの7Iや9Iと違い、『NEW PC-3』のほうが打ちやすく感じました。球のつかまりがよく、よく上がります。逆に『TB-5 FORGED』は、顔が見るからにシャープで、打ちたい、所有していたいという欲はあるのですが、つかまり具合や高さが少し足りないです。長いクラブになると『TB-5 FORGED』は急に難しくなりました。

「打ちやすいのは『TB-5 FORGED』ですが、データは『NEW PC-3』のほうがいい」(高橋さん)

「正直、コンボで欲しい」と高橋さん(撮影/三木崇徳)

〈見た目の印象〉

顔は『TB-5 FORGED』のほうが好きですね。自分の向上心を満たしてくれる感じで。『NEW PC-3』は吉井さんや宮坂さんがいうように、顔がごついし、他者に「やさしそうなクラブ使ってるな」と思われそうで、ちょっと持つのに躊躇します。

「宮坂さんと同じで5Iは『NEW PC-3』しか打てない。またデータでみると全部が『NEW PC-3』が高いし、つかまる。やさしいクラブのほうが楽だし、これ購入しようかな」(高橋さん・撮影/三木崇徳)

〈打ちやすさ〉

7Iは、『TB-5 FORGED』は振りやすく、打ちやすい。アウトインに振ってグリーン上で止まる球が打ちたいと思っているが、そういう球が意図して打てる。ヘッドの抜けもよく、さすが人気モデル。『NEW PC-3』は振りやすいが、フェードボールは打ちにくい印象です。アウトサイドインの軌道で振ると、そのまま左に行く気がしました。

9Iは、『TB-5 FORGED』は7I同様に打ちやすく、インパクトの抜けもいい。『NEW PC-3』は球の打ち出しが高く、ふつうに打って止まる球が打てる気がします。あえて両者の違いをいうと、『TB-5 FORGED』はスピンで止める、『NEW PC-3』は球の高さで止める、という印象です。

5Iになったら、『TB-5 FORGED』は芯でとらえるのが難しく、球の上りもよくないですね。5球打って、満足な球はやっと1球出た程度。使いこなすには相当練習が必要と感じました。逆に『NEW PC-3』はアイアン型ユーティリティを使っているような感じで、やさしく打て、球のつかまり、弾道の高さとも申し分ない。5～6番アイアンは『NEW PC-3』を、7番アイアン～PWは『TB-5 FORGED』を使いたいですね。

「球が低い、つかまらない、ミスが多いなら『NEW PC-3』の一択」(山崎クラフトマン)

以上の試打データとコメントをもとに、山崎クラフトマンに講評してもらった。

「ショートアイアンについていえば、『TB-5 FORGED』も『NEW PC-3』も大差ないように思います。つかまりやすさの指標になるライ角は、9Iは『NEW PC-3』が63.5度で、『TB-5 FORGED』は63度だからわずか0.5度しか違わない。それでも吉井さんが、『NEW PC-3』のほうがつかまりやすいと感じたのはヘッドの大きさに起因しています。

球の上がりやすさに関しては、ソール形状や、ポケットキャビティ形状から断然『NEW PC-3』のほうが上がりやすいはず。『TB-5 FORGED』もソールを広くして低重心にすることで球の上がりやすさを追求していますが、『NEW PC-3』にはかないません。

写真右/同じ7Iを比べてもNEW PC-3のほうが大きい、写真左/『TB-5 FORGED』もソール幅は狭くないが『NEW PC-3』にはかなわない(撮影/三木崇徳)

ただ、両クラブのヘッド形状やソールの削り方を見ると、単にヘッドスピードだけで決めるのではなく、スウィングのタイプによっても適不適が決まるのではないか。つまり、『TB-5 FORGED』はバウンスがしっかりあるのでヘッドの抜けが良く、「打ち込む」タイプ向き。逆に『NEW PC-3』はトレーディングエッジをしっかり削ってあるので「払い打ち」するタイプに合う印象です。宮坂さんはヘッドを上から入れてアウトインに振り抜くタイプなので『TB-5 FORGED』が気持ちよく打てる。一方の吉井さんはヒールヒッターなので、スウィートエリアが広く、操作性の高くない『NEW PC-3』が圧倒的に合うといえます」

「『NEW PC-3』のほうがトレーディングエッジが落ちているぶん、払い打ちゴルファーに向いている」と山崎さん(撮影/三木崇徳)

ちなみに『NEW PC-3』をよく見ると、ポケットキャビティの内側に重りのようなものが見え、それが5番アイアンはトウ寄りに、逆に9番アイアンはヒール寄りに付けてある。高橋が『NEW PC-3』の5番アイアンを試打した際に「アイアン型ユーティリティを打っているようなやさしさを感じる」と評した原因はここにあったのかもしれない。

ポケットキャビティ部を覗くと各番手でウェイトの位置が異なっていることがわかる

さらに山崎さんは「各々のデータを見比べてみると面白いですね。コメントでは打ちづらさを感じたかもしれませんが、データ上はほぼすべてで『NEW PC-3』のほうが打ち出し角は高いですし、球の最高到達点も高いです。また、5球中真ん中3球の平均を出していますが、5番はもちろん、7番でも『TB-5 FORGED』は飛距離や方向性がバラツキがありました。その点、『NEW PC-3』の7番はほぼ同じ球筋で各々の平均近辺にボールが集まっていました。最初に話しましたが、①球が上がる②球がつかまる③ミスに強いという点でいえば、『NEW PC-3』のほうが圧倒的にやさしいと思うはずです」と話す。

ヘッドスピードだけでは決められないが、少なくともHS40m/s以下のゴルファーであれば、『NEW PC-3』を試す価値があることが、多いにわかる結果となったといえよう。ターゲットゴルファーは是非試してみてほしい。

PHOTO／Takanori Miki(人物)、Tomoy Nomura(物)