トヨタ、お前もか 「不正撲滅は無理」と主張する豊田章男会長、支持率激減で試される覚悟

トヨタ、お前もか 「不正撲滅は無理」と主張する豊田章男会長、支持率激減で試される覚悟

トヨタを含む自動車業界の不正が大きな波紋を呼んでいる(出所:ゲッティイメージズ)

 自動車業界に大きな衝撃が走っています。国の型式指定に関する認証手続きを巡って、大手5社での不正が明らかになりました。国内自動車業界では、ここ10年ほどの間に次々と性能試験や検査を巡る不正が明らかになっています。今回不正が発覚した5社に、これまでグループ会社を除けば無傷であったトヨタ自動車が含まれていたことに、大きな驚きと落胆を禁じ得ないところです。

 自動車業界にとどまらず、わが国の産業界におけるリーダーであるトヨタにまで不正の波が及んでいたのはなぜなのでしょうか。そもそも、現場不正の撲滅は不可能なのでしょうか。過去の検査不正に関する調査報告を踏まえて、検証してみます。

 今回明らかになった不正は、先だって発覚したダイハツ工業などの認証検査不正を受けて、国土交通省が型式認証取得企業の85社に自主調査を求め判明したものです。自動車業界における検査不正の類は、2016年に三菱自動車で発覚して以降、同年のスズキ、2017年に日産自動車、2018年にSUBARUやマツダ、2022年の日野自動車、2023年のダイハツ工業や豊田自動織機と連鎖が続きました。

 そして今回、トヨタ・ホンダ・マツダ・スズキ・ヤマハ発動機と5社の不正が、新たに明らかになったのです。業界共通の問題といえそうな不正の連鎖によって、わが国の自動車業界は世界からの不信を招きかねない状況にあるといえます。

 今回の不正発覚を受けて会見したトヨタの豊田章男会長は「ブルータスお前もか、という感じ」とその心境を語りました。この表現からは、トヨタの認証不正もまた、日野自動車・ダイハツ工業・豊田自動織機とグループ内で相次いだ検査不正と同様、トヨタグループ、あるいは業界を覆う組織風土由来のものであると受け止めていることがうかがえます。

●オーナー独裁ではない、サラリーマン組織の暴走はなぜ起きた?

 不祥事発生の原因として組織風土が指摘される場合、その根源がオーナー系企業などにみられる「全権経営者」の暴走であることが多々あります。その代表例は、不当修理を繰り返して損害保険の代理店収入を稼いでいたと、2023年に大きな話題を呼んだビッグモーターです。

 特別調査委員会の報告書には、同族の経営陣がその強い立場を利用して社員に左遷や解雇を匂わせつつ無理な目標を強いたこと。それによって、不正せざるを得ない組織風土が醸成され企業が腐敗していったさまが生々しく書き連ねられています。全権を握る経営者の暴走は何者も止め得ないものであり、組織ぐるみの不祥事発生における最大の要因であるといえるのです。

 しかし、検査不正という組織ぐるみの不祥事が続発する自動車業界の場合は、少々事情が異なっています。各社は基本的にサラリーマン組織であり、全権経営者が暴走して悪しき組織風土を作っている、という事実は存在しません。では一体何が、組織的な不正を繰り返させているのでしょうか。その点について、日野自動車およびダイハツ工業におけるそれぞれの第三者委員会、特別調査委員会の報告書から読み取ることができます。

●組織風土が助長した、納期のプレッシャー

 日野自動車の報告書では、経営層と現場に断絶があり、経営層が不正へ直接的に関与したことや圧力がかかったことは認定できなかったとしています。そして「上位下達の気風が強すぎる」との組織特性を指摘するとともに、その組織特性の下で現場が窮屈な開発スケジュールに無言で従わざるを得ない風土が醸成され、与えられた納期目標を達成するために検査部門が不正に手を染め続けていたという事実が明らかになっているのです。

 ダイハツ工業の報告書でも、酷似した指摘がなされています。同社では2000年代半ばにトヨタ出身の会長(当時)の下で開発納期の大幅な短縮を実施。その流れはトヨタの完全子会社化となった2016年以降さらに強まり、現場を圧迫したといいます。現場には「不合格となって開発、販売のスケジュールを変更するなんてことはあり得ない」という強迫観念が根付いてしまいました。そして、結果的に不正をしなければ納期目標を達成できないという流れが定着したのです。

 報告書が指摘する日野自動車・ダイハツ工業の両社に共通する問題点は、組織ヒエラルキーの下で経営層や管理部門に対する現場の畏怖の念が、自発的な不正を生んだ状況。そして、上層部や管理部門と現場との断絶および、部門間の横の連携や相互コミュニケーションの不足という、現場の孤立状態でしょう。

 結果として、納期のプレッシャーにさらされた現場が不正に走らざるを得なかったという道を、両社ともたどったのです。ダイハツ工業の報告書では「責められるべきは、不正を行った現場の従業員ではなく、ダイハツの経営幹部である」と経営責任を重く見て、厳しく断罪しています。

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 このようにトヨタ傘下のグループ企業2社における不正発生の実態を見るに、恐らく今回問題が発覚したトヨタ本体においても、同様の組織風土が不正の原因にかかわっていたであろうことは、容易に想像できるところです。筆者は、この悪しき組織風土を生み出す根底には、2つの要因があると見ています。

 1つは、国内自動車業界全体にも大きな影響力を持つ、リーダー企業であるトヨタの業務管理における思いもよらぬ落とし穴です。そしてもう1つは、その管理下における日本的組織文化の付加作用ではないでしょうか。

 それぞれを詳細に見ていきます。1つ目の要因として挙げたのは、カンバン方式やジャストインタイムに代表され、トヨタ生産方式とも呼ばれて世界に誇る、生産現場における効率経営です。詳細な説明は省きますが、一言で申し上げれば究極的に無駄を排した生産戦略であり、国内各社がこれに追随し効率化を競い合うことで、わが国の自動車産業を世界一に持ち上げた原動力ともなりました。

 しかし、究極の生産効率化として向かうところ敵なしであったトヨタ方式が、いつしか行き過ぎの領域にまで及んでしまい、現場に対して無理強いにも近いプレッシャーをかけたのではないかと思うのです。そしてついには、利益優先を念頭に置いた効率化至上主義の下で、それに背くような弱音や拒否はタブー視されてしまった。現場は効率化目標を達成すべく、不正に手を染めていく――そんな構図が浮かび上がるのです。

●日本企業は「階層」と「コンセンサス」を重視する

 もう1つの要因として、無理をも飲み込んでしまう組織風土醸成に輪をかけたものが、高度経済成長を支えた「昭和企業」に共通する日本的組織文化ではないでしょうか。世界各国でMBAグローバルスクールを運営する「INSEAD」のエリン・メイヤー教授は、自著『The Culture Map』で、各国の組織活動における文化特性を分析しています。それに従い「トップダウンか合意思考(コンセンサス重視)か」「階層主義か平等主義か」の2軸で、各国の組織文化特性をマトリクスに落とし込んだものが以下の図です。

 日本は極端に「階層重視かつコンセンサス重視」という位置にプロットされています。メイヤー氏はこの状態で表される日本の組織文化特性について「含みのあるコミュニケーションを好み、意思決定はコンセンサスを重要視するにもかかわらず組織のヒエラルキーが強い」と指摘しているのです。言い換えれば、組織内のムードが、階層社会の力学を背景として、無言のうちに人の行動を支配する傾向が強い、とも表現できます。

●取締役の中で信任率は最低 豊田会長の覚悟が問われている

 高度経済成長を支えてきたわが国の大企業は、戦後復興期に旧日本軍や官僚制にならった組織を構築し「上位下達」「本社>現場」という、至って「日本的」な序列維持を暗黙のルールとしてきました。メイヤー教授は日本の組織文化特性を「無言のうちに人の行動を支配する傾向」と表現しており、まさしく、こうした歴史に見てとれるのです。

 この流れこそが、ワンマン経営者不在のサラリーマン企業においても、無言のヒエラルキーを構成し、不祥事を生む悪しき組織風土を育んでしまったといえるでしょう。自動車業界だけでなく、昭和を支えた大手製造業で検査不正などの不祥事が絶えないのは、平成を経て令和になった今も、その悪しき組織風土から脱却できない企業がいかに多いかを表しています。

 無言の不正を生む悪しき組織風土の改革には、ガバナンス強化という「守り」の対策だけでなく、誰もが言いたいことを言える組織風土づくりにつながる、心理的安全性の向上という「攻め」の対策も必要になるでしょう。

 豊田会長は会見で「不正の撲滅は無理だと思う」と、改革に向けて弱気とも受け取れる発言をしました。ガバナンス強化など守りの強化はできるが、根本の組織風土改革という攻めの対策はトヨタの企業文化ではできない――筆者の耳にはそう聞こえました。

 日本経済を支える世界に冠たるトヨタが、不正を生み出す悪しき組織風土を放置して良いはずがありません。二酸化炭素排出量の削減対策で自動車業界が100年に一度の大変革期を迎えている中、とても組織風土改革にまで手が回らないというのなら、トヨタをはじめわが国の自動車産業は一気に「負け組」に転落しかねないでしょう。6月の株主総会における、豊田会長の再任信任率は71.93%。前年比で10ポイント以上もマイナスかつ取締役中で最低となっており、株主も会長の一連の対応を厳しい目で見ていることが分かります。

 自動車産業は、わが国経済の屋台骨を支えてきた基幹産業です。その信頼が大きく揺らいでいる今、トヨタはその中核かつ日本の産業界をリードする存在であるという自覚を持って、攻めの組織風土改革にまい進して欲しいと切に願う次第です。

(大関暁夫)

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