“ほぼ全裸ポスター”掲出の白塗り候補がXで主張していた意外な公約 支持を集める選挙ポスターとは?臨床心理士が分析
問題となったポスターを貼る、桜井MIU(SNSより)
6月20日の告示日からしばらく、7月7日が投開票日の東京都知事選挙はポスターの話題ばかりが人々の関心を集めているように見えた。立候補者の顔も名前も印象に残らないポスターはいったい、何を狙ったものなのか。臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが考える、これまでになかったポスターが続出する都知事選で見たかったポスターについて。
【写真】ほぼ全裸ポスター撤去後に貼られたポスターでは女性に囲まれる姿が
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「フォン・レストフル効果」を狙ったつもりだったのだろうか。東京都知事選挙のポスター掲示板に、ほぼ全裸の女性のポスターが貼られたというニュースを聞いて、そう思った。
選挙の度に道端に設置される候補者の掲示板。公約もキャッチフレーズぐらいではインパクトに欠けるし、有名人でなければどれも似たり寄ったりに見えてしまう。そこから抜け出して、候補者として顔と名前を認識し投票してもらうためには、人と違ったことをしないと目立たない。孤立効果とも呼ばれる「フォン・レストルフ効果」は、似たようものが並んでいる中で、ひとつだけ異なる変わったものがあると、それが一番記憶に残りやすいという現象のことだ。
だが、その狙いはまったく違っていた。ポスターを貼ったのは白塗りメイクで“ジョーカー議員”を自称する河合悠祐候補(43才)。ポスターのモデルはレースクイーンなどで活動する桜井MIU。ほぼ全裸になっていたのは候補者本人ではなかった。桜井はスーツ姿で河合候補と一緒にポスターを掲示板に貼る姿を自身のSNSにアップ。ポスターには「表現の自由への規制はやめろ。モザイク解禁」と記されていたという。
掲示板を見た人々から「子供に見せられるか」と批判が殺到。警視庁にも苦情が寄せられ、候補者は警視庁に呼び出され警告を受けたという。当然だろう。桜井ともども東京都の迷惑防止条例違反(ひわいな言動)に違反する可能性があるらしい。それについてはNEWSポストセブン『《都知事選「ほぼ裸ポスター」問題》自らの”みだら写真”を貼った女性は迷惑防止情勢違反にあたるのか 弁護士の見解は』に詳しく書かれている。河合候補自身は、「前例に倣い、合法の範囲内という認識でこのポスターを作製した趣旨」と公式Xで説明しているが、ポスターは剥がしていくという。
さて今さらだが、河合候補のXで公表されている公約の中には“動物殺処分をゼロにします!”といったものもある。コロナ禍ではペットブームが起こり、タレントたちの保護活動を写し出した番組はテレビでも人気のコンテンツだ。もし候補者がこの公約を前面に押し出し、保護犬や保護猫と写っているポスターを作製し掲示していたら、与えるインパクトも印象もかなり違ったのではないだろうか。しかし今回のようなほぼ全裸のポスターの掲出では、名前を売るどころか、人騒がせな目立ちたがり屋でしかない。
白塗りのコスプレは目立つ。しかし、それが選挙結果につながるとは思えない。不気味さは選挙にはマイナス要素でしかない。選挙にとって変に目立つより顔の美醜の方が重要、魅力的な顔が選挙結果を左右するからだ。容姿が優れる候補者ほど選挙でより多くの票を得る傾向があることは、これまでの研究結果でも知られている。
日本人にもこれが当てはまる。RIETI(独立行政法人経済産業研究所)の研究プロジェクト「人々の政治行動に関する実証研究―経済産業面での政策的課題に対するエビデンスベースの処方箋の掲示を目指して」では、候補者の外見によって選挙結果が左右されることが確認されている。この研究では、美顔度が同程度の候補者らより、美顔度の高い候補者のことを知りたいという傾向がみられ、顔の美貌が有権者の関心をひきつけ、選挙の勝敗の見通しにも影響を与えると報告している。
今回の都知事選では他にも、NHKから国民を守る党が、党への寄付者にポスターを掲示枠を提供した結果、候補者と無関係なポスターが掲出され問題になるなど、当たり前だった社会のルールが通用しなくなってきた。おかしなポスターや利己的な掲示板の利用より、選挙の掲示板廃止を公約に掲げる候補者のポスターが見たかった。