蘇州日本人学校バス襲撃事件の背景に、中国でまかり通る「日本蔑視策」
拡散された「日本人叩き」の動画
6月23日午前10時、中国を代表する経済紙「観察者ネット」のSNS「微博」(Weibo)で、日本人に関するVTRがアップされた。そのトップ画面には、中国語で「日本人が中国人に成りすまして、バキスタンでただ食い」と書かれていた。
そのVTRを制作したのは、「風聞社区」というハンドルネームのチームだった。河南省の政府系メディア「大象新聞」がその映像を流し、「観察者ネット」に転載されたのだ。映像には、2人のバキスタン人らしき男性が、ある建物の庭で、制作者らしい中国人と中国語で話している。
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「自分は中国人で、中国とバキスタンの友好関係を考え、カネ(食事代)を払わないと言っている。しかしその後、その客は中国人ではなく、日本人だとわかった」(映像からの要約)
最後に、「中国人なら必ず(食事代を)支払うと、(日本人の)彼に言っておいて」と、撮影者が述べて映像を締めくくった。
以上だが、この日本人を貶(おとし)める映像には、いくつかの疑問点があった。日本人が無銭飲食したという店の名前もなければ、現地のウルドゥ語を話した場面も少なかった。主に、映像を撮る中国人と、中国語を話すバキスタン人(とされた人)の対話だった。加えて、日本人が中国人と名乗り、店に偽った根拠もなかったのだ。
その映像は、中国人が中国人のために作ったものであることが一目瞭然だ。それにもかかわらず大新聞のネット媒体に載ってしまうのだから、作り手も中国政府系の人物である可能性が否定できないのではないか。
だが、このような虚偽報道を政府系マスコミが行うと、一般の中国人は信じてしまい、その影響は大きい。多くの中国人は、いまだ外国に行ったこともないのだ。
実際、映像が「微博」でアップされたその日にすぐ、PVランキングで2位になった。18時間20分を過ぎた時点で、PVは2.3億、書き込みは2.3万件に達した。これは日本として要注意である。
誇張される中国の報道
そもそも歴史問題に関して、中国人の日本に対する感情は複雑だ。しかし、かつて毛沢東主席や周恩来首相は、「日本の軍国主義は悪いが、日本人民には罪がない」と述べた。こうしたリーダーたちの発言もあってか、中国の人々は、戦争で同様にひどい被害を受けた日本人に対して、同情的だった。しかし、いまはそんな雰囲気はない。
いまの中国では、中国共産党中央宣伝部の指示で、外国の悪辣さや、災害あるいは社会事件、犯罪などを、誇張して報じる傾向が強い。中国がいかに素晴らしい国かを際立たせるのが目的だ。
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特に、米国を敵とみなし、その同盟国もけなすようになった。日本も「戦略的互恵関係」の国ではなくなり、批判や揶揄、侮蔑の対象となっている。
5月下旬から中国では、「日本の人食いバクテリア」(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)のニュースが増えている。それで中国人は、大騒ぎしているのだ。
「48時間で死亡に至る、日本の人食いバクテリアの感染者が史上最多。わが国まで感染が広まるのか? 日本への旅行を自粛すべきだ」(「半島都市報」6月20日)
「人食いバクテリアが日本で蔓延、感染すると48時間で死に至る」(中央テレビ(CCTV)ネット 6月17日)
「日本の人食いバクテリアの感染例が増加」(新華社、4月3日)
ニュースとして報道する意味は分かるが、気になるのは表現の仕方である。中国語では「食人菌」と表現されるだけではなく、「日本食人菌」と書かれたりしている。
日本を貶める風潮
周知のように、新型コロナウイルスが蔓延した頃、世界が「武漢肺炎」「中国ウイルス」などと呼ぶことに、中国は国を挙げて猛烈に抗議した。しかしいまや、「日本食人菌」と、政府系メディアが平気で報道している。特に、国営新華社通信がこの言葉を使うということは、中国政府の「了解」があったとしか思えない。福島第一原子力発電所が放出する「ALPS処理水」を、中国だけ故意に「核汚染水」と呼び続けているのと同じだ。
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そこには、日本及び日本人を貶めるという意図を感じる。中国を代表するSNS「抖音」(ドウイン 中国版TikTok)」では、中国人が日本人に扮して、中国人を「支那猪」(シナ豚野郎)と呼ぶVTRが数多くある。福島のALPS処理水を批判する映像にも、大量の魚の死骸などを加えて、被害を粉飾している。
中国人は、そうしたニュースや映像に接していると、日本に対してなら、何をしても構わないと勘違いするだろう。こうした風潮を放置しておくと、日本人に被害が及ぶのは時間の問題だ――。
そんなことを思っていたら、6月24日、中国の蘇州で日本人学校のバスが襲撃される事件が起こった。
日本は、中国に対して言うべきことを言って、間違いを正すべきだ。これこそが日本政府の当面の急務ではないだろうか。