米国を恐怖に陥れる「ジョロウグモ」、実は害虫駆除に効果的?
米国を恐怖に陥れる「ジョロウグモ」、実は害虫駆除に効果的?
現在地球上には5万種類以上のクモ類がいるが、最近米国東海岸の大部分を恐怖に陥れているのはジョロウグモだ。
日本、中国、韓国を中心に東アジアを原産とするジョロウグモ(学名:Trichonephila clavata)は、その大きさ、極悪とも言える外見、そして密航者のような移動手段を取ることで特に際立つ存在だ。彼らは厳密には「飛ぶ」ことはないが、人間の輸送システム、おそらく貨物船を使って彼らが世界各地へ「飛ぶように」広がっていると専門家たちは考えている。今年の夏、このクモたちが東海岸にも現れる可能性があることを米国のクモ恐怖症者たちが恐れているのはそれが理由だ。
しかしパニックになってはいけない。ジョロウグモに関するメディアの狂乱に惑わされる前に、考えておくべき3つの本質的事実を以下に説明する。
人体やペットに害を与える可能性は低い
あなたが痒みに非常に弱い体質だということでなければ、ジョロウグモの毒が人体に深刻な損傷を与えることは考えにくい。飼っているペットについても同様だ。起こりうる最悪の結果がアレルギー反応であり、最善のケースでは、あなた(あるいはあなたのペット)は一切このクモと対面することはないだろう。なぜならジョロウグモは極度の恥ずかしがり屋だからだ。
カラフルな警戒色とは裏腹に、ジョロウグモの毒は、典型的な昆虫より大きな生物に対してあまり効果的ではない。
地域生態系にプラスの影響も?
昨年、研究者らはジョージア州とサウスカロライナ州でジョロウグモのメス213匹をクモの巣から採集して彼らの食べた餌を分析した。このクモは、同じ種のオスとメスが、生殖器官以外にも異なる外見的特性を持つことを表す「性的二形」という特徴をもつ。
メスは、脚が最大10センチメートルにも達するほど大きいだけでなく、色彩も鮮やかだ。体は鮮やかな黄色と黒の縞模様で腹部には赤い斑点があり、容易にオスと見分けられる。一方オスは、はるかに小さくカラフルでもなく、地味な黒褐色のためメスよりも目立たない。
研究チームは、クモの内臓およびクモの巣に残った獲物の残骸の両方を調べた。クモが何を食べるかを特定することで、研究者らは地域生態系におけるクモたちの役割を推測することができた。これによって、もしジョロウグモがニューヨーク周辺の3州に到達した時何が起きるかに関する貴重な手掛かりが得られた。
ジョロウグモの餌は多様で多くの種類の昆虫が含まれており、その一部は害虫と考えられている、と研究者らが発表した論文に書かれている。以下に概要を示す。
・甲虫類とハエ:害虫になりうる
・半肢類の昆虫:たとえばアブラムシとカメムシは、樹液を吸うことで植物に害を与えることで知られている
・ワスプ(捕食性の大型のハチ)、ハチ、およびアリ:数が多いと煩わしいが、しばしば有益である
・ガ(蛾)とチョウ:幼虫が農業病害虫になる場合がある
・カ(蚊):病害をまん延させることでよく知られており、概して厄介である
一連の発見に基づくと、ジョロウグモがニューヨーク近隣3州に住みついた場合、自然による害虫駆除に大きく貢献する可能性がある。農業や人間の快適性に害を与えることの多いさまざまな昆虫を食べるその能力は、ジョロウグモが人間に対して害よりも利益をもたらす可能性を示唆している。
ジョロウグモは「飛べる」が、羽のある昆虫とは方法が異なる
他のいくつかのクモ類と同様、ジョロウグモは「バルーニング」と呼ばれる驚くべき方法を使って移動する。そこに翼が関わることはなく、代わりに幼生、時には成虫のクモ類は長い糸を何本も空中に放出し、風に乗って空を舞う糸をバラシュートのように使って遠くへ移動する。この方法による分散行動はかなり効果的であり、新しい場所へ迅速に移住することが可能だ。
有毒のクモが空中を飛ぶという概念は危険に感じるかもしれないが、ジョロウグモがバルーニングによって移動できるからといって、どこへ着地するかを自分で決められるわけでも、どこへ着地しても生き延びられるわけでもない。地域の気候、餌の有無、その他の環境因子が、彼らの新しい環境での成功を左右する重要な役割を担っている。
現在米国内でジョロウグモが生息しているのは主にジョージア州だ。バルーニングは拡散に寄与するが、このクモが3州に到達するのは、州をまたいで移動する車両を使ったヒッチハイクによるものになる可能性が高い。現在進行中の米国ツアーの一環で、ジョロウグモはサウスカロライナ州、ノースカロライナ州、およびテネシー州で観察されており、オクラホマ州、ウェストバージニア州、およびメリーランド州で発見されたという報告もある。
ジョロウグモが全米にまん延することに関する報道が過熱する中、最善の行動はといえば、同じ地球に住むものとして、このシャイで勤勉な巣を紡ぐ虫たちをそっとしておくことだ。しかも彼らは、害虫の数を制御する手助けをしてくれるに違いないのだから。
(forbes.com 原文)