17年ぶりのマイナス金利解除後、身近な生活への影響はどうなる?
日本銀行は3月、17年ぶりにマイナス金利を解除しました。解除になって「金利のある世界」に戻ったことで、私たちの生活にどんな影響があるのでしょうか。今回は、特に個人に関係の深い影響について解説します。
マイナス金利政策は長らく続いてきましたが、そもそもなぜ、日銀は解除したのでしょうか。
これまで日銀は、2%の物価上昇率を目指していましたが、それは、毎年2%程度の物価上昇率が続けば、景気も順調で、企業業績も良く、働く人の給料も上がり、安定した経済状況が見込めると考えていたためです。
最近は、物価上昇率は継続的に2%を超え、今年の春闘では、賃上げ率が33年ぶりの高水準となりました。
こうした状況から、個人も企業もお金を使う、良い経済の流れができつつあり、今後もこの流れが継続するだろうと判断して、マイナス金利の解除に踏み切ったというわけです。
解除後に、政策金利は0~0.1%程度に引き上げられました。
マイナス金利解除によって、私たちの生活にはどのような影響が及ぶのでしょうか。金利が上がることでプラスの影響とマイナスの影響があります。まずは、プラスの影響から見ていきましょう。
●預金・定期預金の金利が上がる
好影響の代表格といえば、預金の金利が上がることでしょう。実際、マイナス金利の解除を受けて、大手都市銀行では、普通預金の金利を0.001%から20倍の0.02%に引き上げています。また、定期預金の金利も上昇傾向にあり、三菱UFJ銀行や三井住友銀行は、1か月~2年定期で0.002%から0.025%に引き上げたほか、3年以上の定期でも金利を引き上げています。他にも、東京スター銀行は、1年定期預金の金利が0.45%となっています(インターネットの預け入れかつ新規口座開設者限定で、50万円から預け入れ可能)。
例えば、100万円を1年間、0.025%の定期預金に預けると、税金を考慮しなければ、1年後の利息は250円ですが、0.45%の定期預金に預けると、1年後の利息は4500円になります。どこにお金を預けるかで、1年間にもらえる利息が4000円以上も違ってくるのです。
今後、金利の上昇に伴い、普通預金や定期預金の金利はさらに上がる可能性があります。情報収集を心がけ、どこにお金を預けると有利になるのか、敏感になった方が良さそうですね。
●個人向け国債の金利が上がる
個人向け国債の金利も上昇傾向にあります。個人向け国債とは、国が発行する債券を個人でも買いやすくした国債です。
個人向け国債には、金利が固定されるタイプと金利が変動するタイプがありますが、どちらの金利も上昇傾向にあります。2024年5月15日現在、「固定3年」の金利は0.29%(税引き前)、「固定5年」の金利は0.45%(税引き前)、「変動10年」の金利は、0.57%(税引き前) となっています。
注目は、金利が半年ごとに見直される「変動10年」です。今後も市場金利が上昇すれば、変動10年の金利も市場金利に伴って上昇するからです。通常、インフレになると、インフレ抑制のために金利が上昇します。つまり、変動10年は、インフレにも比較的強い資産なので、個人向け国債を購入するのであれば、変動10年をおすすめします。
次にマイナスの影響を見てみましょう。
●住宅ローン金利が上がる
現在、住宅ローンの利用者の約7割が変動金利を選択しています。変動金利は、金融機関が企業向けに貸し出す際の基準金利「短期プライムレート」を参考に決められていますが、短期プライムレートは、政策金利(短期金利)の影響を受けます。ですから、マイナス金利が解除されたことにより、変動金利が上がるのではないかと予想されています。
住信SBIネット銀行は、5月1日から短期プライムレートを0.1%引き上げ、変動金利の金利が上昇すると話題になりました。他の銀行にも波及するのではとの懸念が広がりましたが、他の銀行の状況をみると、今のところ、これまでと同様の金利に据え置いているところがほとんどです。
もちろん、今後は金利が上昇していく局面にあるので、油断はできませんが、現在は、政策金利がゼロから0.1%になった程度ですので、変動金利が上がるとしても当面は今よりも0.1~0.2%上昇する程度の可能性が高いでしょう。
仮に住宅ローン4000万円・35年・変動金利0.4%で借りている場合、金利が0.1% 増加すると、毎月約1800円の負担額が上乗せとなります。年間では、約2万1000円増えますが、驚くほど増えるわけではありません。
現在の日本の状況を考えると、金利が急激に上昇することは考えにくいと思いますので、焦って固定金利に変更したりせずに、しばらくは情報収集を怠らないようにしましょう。
マイナス金利が解除になったからといって、過度に振り回される必要はありませんが、「金利がない世界」から「金利がある世界」へと経済の状況が変わっていくことは確かです。状況が変われば、これまでの常識も変わりますので、日頃から情報のアンテナを高く持ち、柔軟に対応できるようにしましょう。(ファイナンシャルプランナー 高山一恵)