昭和歌謡に通ずる韓流音楽「トロット」、その人気の理由 オーディション番組で才能を発掘、他ジャンルから進出も増加
2019年から始まった『明日はミスター・トロット』は、シーズン2まで制作された。※写真は番組公式ホームページより
韓国の40代以上を中心に幅広い世代がハマり、一大ブームを巻き起こしているのが“トロット”。どこか懐かしく、日本の演歌や昭和歌謡に通ずるメロディーで、「一度聴いたらやみつきになる」という人も多いという。さらに最近はドラマの挿入歌にも使われることが多いという。街の食堂でもトロットの音楽が有線から流れ、トロットを扱う番組の数は10を超えるとも。なぜ、これほどブームとなったのか?【全3回の第2回。第1回を読む】
【写真】トロットの女神と呼ばれるホン・ジニョンは黒のタイトミニスカート姿
いま韓国で人気のトロット歌手は、オーディション番組やのど自慢番組で才能を見出されデビューした人が多い。日本人トロット歌手・MARIKOも、2008年から韓国ののど自慢に出演し、トロット歌手として2016年にデビューを果たしたひとりだ。
「私がトロット歌手を目指すようになった頃にも韓国ではトロット歌手を発掘するような番組がありました。代表的なのが、韓国のテレビ局KBS『全国のど自慢』です。日本でいえば、『NHKのど自慢』のような番組で、プロアマ問わず参加できる番組です。私は2005年に初めてその番組を見てトロットのワクワクする明るいメロディーにハマったのですが、当時も中高年を中心によく歌われていました」(MARIKO・以下同)
近年、韓国ではENHYPENを輩出した『I-LAND』(2020年)など、数々のオーディション番組が人気を博しているが、トロット歌手を発掘するオーディション番組は、とりわけ人気が高いという。
「2019年に始まった女性トロット歌手を発掘する番組『明日はミス・トロット』は、視聴率1桁台が当たり前のケーブルテレビの放送ながら視聴率18%を超える人気番組となっていました。その後、男性版の『明日はミスター・トロット』が始まり、その最高視聴率は驚異の35%超! 一躍トロットブームになりました」
なぜ、トロットに特化したオーディション番組が誕生したのか。番組を手掛けた韓国の音楽事務所「n.CHエンターテインメント」代表プロデューサーのチョン・チャンファンさんは、次のように説明する。
「韓国では、2010年頃から若い人向けのK-POPの人気が高く、熱狂的なファンも多いのですが、40〜50代が熱狂できる音楽がなかなかなかったんです。そこで大人がもっと聴ける音楽を世に出そうと考えたときに、韓国に昔からあるトロットに着目し、多くのトロット歌手を輩出しようと考えたのです」(チョンさん・以下同)
これが功を奏し、トロットは中高年層を中心に爆発的な人気を獲得する。
「50〜70代には昔懐かしい曲調で、なじみがあるからコンサートに行っても楽しい。そこからファンクラブに入って、みんなで応援したいという気持ちになり、中高年層を中心にトロットがブームとなりました。いまでは若い人も興味を持ってくれているのがうれしいですね」
オーディション番組をきっかけに、イム・ヨンウン(32才)がブレーク。中高年の間ではBTS以上といわれ、チケットを取ることが困難になったため、「イム・ヨンウンのチケットが取れたら、最高の親孝行」と言われるまでになっている。
アイドルのようなビジュアルの歌手がいる
「現在のトロット歌手は、アイドルのような美しく整った顔立ちの歌手が人気を集めている」と言うのは、韓国音楽事情に詳しい音楽ライターのまつもとたくおさん。
「特に2006年に人気を博した女性歌手、チャン・ユンジョン(44才)の存在は大きいですね。彼女はキュートなビジュアルに加え、トロットに華やかな衣装やダンスを取り入れ、2004年に『オモナ』という日本語に訳すと『あらま!』という楽曲をリリースしました。
この曲は日本で言えば演歌っぽい雰囲気がありながら、ポップな曲調で、これまでトロットを聴かなかった若者層にも響き、大ヒット。その年の音楽賞の賞レースを総なめにしました。彼女の出現によって若い世代もトロットを聴くようになったんです」(まつもとさん・以下同)
チャン・ユンジョンの出現以降、ビジュアル系のトロット歌手が続々と登場。
「女性アイドルグループ出身のホン・ジニョン(38才)は、当時の若者の最先端のファッショナブルな衣装やメイクでポップにトロットを歌って、若い層から大きな支持を集めました。イム・ヨンウンは、身長182cmとスタイルが抜群、甘いルックスで女性たちからの人気は絶大です」
K-POPアイドルや俳優が続々と進出
既存のトロット歌手だけでなく、他ジャンルからトロットに進出するスターも多いと、まつもとさんは説明する。
「近年はBTSやSEVENTEENのメンバーたちがトロット好きを公言したり、TWICEなどのK-POPアイドルがテレビ番組でトロット楽曲を歌ったりして人気です。BIGBANGのD-LITEもトロット好きを公言しており、以前から『テバギヤ』や『僕を見て、グィスン』という曲をリリースし、トロット歌手としても活動。最近はトロットオーディション番組の審査員も務めています。
俳優では、ドラマ『私の夫と結婚して』などで人気のイ・イギョン(35才)が『定時退勤』という曲でトロット歌手デビューし、話題を呼んでいます」
彼らの活躍が、また若い世代へトロットを広めているのだ。
YouTubeで積極的に展開
トロットがあらゆる世代に広まったのは、SNSの影響もあるのではないかと、トロットファンで京都府在住の主婦・Kさんは言う。
「トロット歌手の中には日本でCDデビューしている人もいますが、ほとんどの楽曲が韓国でリリースされて、歌も韓国語で歌われています。
iTunesやAmazonプライムのような音楽配信サービスでも聴くことができますが、何と言ってもハマるのが、YouTubeです。歌手個人や所属レコード会社の公式チャンネルからも見られ、個性的なものが多い! 私の推しであるイム・ヨンウンさんが公開した楽曲『砂粒』のミュージックビデオは20億4000万回以上再生されています」(Kさん)
特にコロナ禍は巣ごもり需要もあり、爆発的にYouTubeの再生回数が伸び、最近はシニアでもYouTubeから情報を得ている人が多い。
「コロナ禍の韓国は、日本以上に外出制限が厳しかったので、若い人だけでなく中高年も動画サイトを見て、おうち時間を過ごしていたので、トロットにハマる人が続出したように思います」(MARIKO)
一方、「若者はTikTokを通じて韓国の昔のトロットを知る機会が多い」とチョンさんは言う。
「若い人が昔の曲をいま風にアレンジしたものをBGMにしてダンスをしている動画がTikTokでバズったことも大きかったですね。これをきっかけにして、さらにトロットに興味を持つ人が増えたように思います」(チョンさん)
韓国国内だけでなく、ワールドワイドに人気が広がりつつあるトロットだ。
日本でもトロット番組がある?
トロットの波は日本にも確実に来ている。2023年末に、日本でもトロットを歌う女性歌手のオーディション番組『トロット・ガールズ・ジャパン』が日韓共同制作でスタート。12〜50才までの54組57名が激しいバトルを繰り広げ、決勝には9名が進出。
そのなかから日本人のアイドル歌手の福田未来(29才)が2月23日に『私の歌』などを歌い、初代歌姫に選ばれた。オーディションの様子はYouTubeでも公開され、最高122万回以上の再生回数を記録している。
『トロット・ガールズ・ジャパン』を勝ち抜いたnatsuco、MAKOTO.、住田愛子、福田未来、かのうみゆ、歌心りえの7人は、韓国の音楽番組『日韓歌王戦』に日本代表として出場。4月から放送が始まったが、初回は11.9%と高視聴率を記録。日本でもWOWOWとABEMAで放送中だ。
(第3回へ続く。第1回から読む)
取材・文/廉屋友美乃
※女性セブン2024年5月30日号