「立ち止まってはいけない場所」「フィリピンパブ嬢が次々と…」名古屋の“ナゾの歓楽街”「池田公園エリア」でガチ外国料理を食べてきた
愛知の人には申し訳ないのですが、「名古屋飛ばし」という言葉があるほどに、名古屋は何かと飛ばされがちです。名古屋に行くチャンスがあったらあったで、正直、どこに行ったらいいか当初はよくわかりませんでした。
ところが、本格的な外国料理を食べられる「異国飯屋」に目覚めてからというもの、名古屋や愛知、ひいては東海地方は、ものすごく面白い場所だと感じるようになりました。東海地方はモノづくりが活発で、外国人労働者を雇用している会社が多いため、自然と異国飯屋が集まるのです。
なにかと飛ばされがちな名古屋だが、実は異国飯屋が充実している ©アフロ
「栄」「新栄町」「矢場町」は名古屋の異国飯屋エリア
名古屋の異国飯屋というと、大須の商店街が代表的です。食材店やブラジル料理店、台湾や韓国系の店もあるのですが、それらは日本人客向けを意識しているお店です。僕が推したい異国飯屋は、大須よりもう少し北東の「池田公園」エリアにあります。
池田公園を中心にその周辺を歩けば、数多くの異国飯屋があります。地図でいうと池田公園の右側(東側)に高速道路(名古屋高速)と二層になっている幹線道路(空港線)があり、その道路沿いや、そこを渡った先も異国飯屋が密集しています。
異国飯屋があるエリアは広域で、最寄り駅は地下鉄の「栄」「新栄町」「矢場町」になります。ただ、どの駅からも徒歩10分程度と微妙に遠いところに位置しています。
地下鉄「新栄町」駅に近い幹線道路とそこから一本東側に入った道には、ガチ中華系の中国料理店を筆頭に、韓国、ベトナム、ネパール、フィリピン、ペルーの店が集まっています。
そのあたりは昔から異国飯屋があり、今は日本語学校が何校もあるため、外国人が食事を楽しむ場所として盛り上がっているのです。蘭州拉麺屋や火鍋屋、はては中国本場の雀荘まで揃っています。
中国で定番の朝食を楽しめるお店とは?
数あるお店の中でも、早朝から多くの客で賑わう「柏味食堂」が大好きです。中国の朝食として定番の長い油パン「油条」と豆乳を頼み、油条を豆乳にひたひたになるくらいつけて食べる。中国に根ざした食生活を楽しめて、たまりません。
名古屋では、まだまだガチ中華ファンが少ないのか、お店で食べている中国人客には「日本人もこのお店で食べるのか……!」と驚かれることもあります。中国人の店員さんもやさしいので、初めての方でもハードルが低くて入りやすいと思います。
本格的なウイグル料理屋ネパール料理も堪能できる
幹線道路沿いにある本格的なウイグル料理屋「烏魯木斉ウイグル料理」もおすすめです。食事もお店の雰囲気も素晴らしい。新疆ウイグル自治区出身のオーナー家族が手間暇かけて作ってくれるナンや、米料理のポロ、麺料理のラグマンなどを楽しめます。料理の提供に時間がかかるので、時間に余裕を持って行きましょう。
中華料理以外の異国飯もおすすめしたいものばかりですが、あえて1つ挙げるなら、ネパール料理店の「NN Asian spice&cafe」が素晴らしい。ネパール人学生向けにバーの居抜きを改装したお店で、ネパールで親しまれているチャイやモモ、ジャンクフード、お酒のククリラムなどを味わえます。
しかも、フレンドリーなオーナーが、カウンターの対面で売られている商品を使ってネパール軽食をさっと作ってくれるんです。味覚だけでなく、視覚でも外国を感じられる素敵な店です。
名古屋随一の異国街「池田公園」を歩いていたら…
南北を貫く幹線道路の西側にある池田公園は、名古屋で一番クセのある場で、フィリピン人が多い街として「東の錦糸町・西の池田公園」と言われています。夜はフィリピンパブの客引きがたくさんいて、歩けば次々と声をかけられます。
「最初はもうびっくりしましたよ! 外国の女性が、飯が詰められた『かご』を運んでいて、それをフィリピン人の客引きが買っていたんです」
名古屋の北の乗換駅「大曾根駅」からすぐのフィリピンレストラン「Philippine Cafe&Bar Republic」のマスター・ウェイウェイさんは、名古屋随一の異国街「池田公園」を歩いたときの衝撃をこう語ります。
「夜になると、タホ(杏仁豆腐のようなスイーツ)売りが池田公園周辺を歩いていて。当時はタホを知らなかったし、『なんだこの世界は』と思いました」
「夏場にはアイスキャンディーの売り子も出てきたんですよ!」
車から降りてお店に出勤するフィリピン人女性に遭遇
このエリアを長く見続けているAさん(仮名)は「昔はもっと客引きが多くて、客引きに通せんぼされて腕を掴まれました。以前は立ち止まってはいけない場所でしたが、今は客引きも優しくなって安全ですよ」と教えてくれました。ウェイウェイさんも「(フィリピンパブの客引きは)10年前くらいがピークだったんじゃないかなあ。これでもだいぶ減りましたよ」と言います。
2017年に刊行、映画化もされた『フィリピンパブ嬢の社会学』(新潮新書)でも、池田公園のフィリピンパブが描かれています。池田公園周辺を時間をかけて歩いていると、車から降りてお店に出勤するフィリピン人女性達や、巨大プレートに乗った見たこともない食事を運ぶフィリピン人女性に遭遇することもあります。私も現地で目撃して「おおっ! 映画と同じだ!」と驚きました。
さらには、早朝に仕事を終え、道端で談笑するフィリピン人の男女や、露店のテーブルを囲んでトランプで盛り上がるフィリピン人集団もいて、想像以上の“リトルマニラ”に唸ること間違いなし。
名古屋のカオス成分を凝縮したクセのある場所
このエリアの異国飯屋はブラジル、フィリピン、中国、韓国、タイ、ベトナム、ミャンマー、ネパール、トルコとバリエーションが豊富です。
加えて、「夜の街」というのも大きな特徴です。フィリピンパブだけでなく、タイパブに中国式マッサージの店が目立ち、名古屋名物の看板上のパトランプがギラギラ回転して街を照らしています。
名古屋のカオス成分を凝縮したようなクセのある場所で、かのマツコデラックスもバラエティ番組『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)で「夏に大きい駐車場で50人ぐらいのブラジル人とフィリピン人たちが大音量で踊ってた」と熱く語っていました。
そんな池田公園の周辺には、夜の外国人労働者を支える食堂や弁当屋がものすごくあるんですよね。弁当を売ってる店もあれば、大鍋に1食だけ仕込んでいる店もあります。毎日異なる定食が大鍋で用意され、ほかでは食べられない、美味しい庶民飯が食べられるんですよ。
例えば「MEKENI」という、月曜以外はフィリピン料理が食べ放題のお店では、テイクアウトやデリバリーが1日100食は売れるんだとか。
外国人が出店するイベントで異国の雰囲気を体験できる
また、「ARISTOCRAT ASIAN FOOD AND RESTAURANT」という店では、好きなおかずを2~3品選んで食べる大衆食堂スタイル「carinderia(カリンデリア)」を楽しめます。異国飯ならではの「食べたことがなくておいしいけれど、最後まで何を食べているのかわからなかった」という魅力的な体験ができます。
ただ夜からオープンするお店が多いので、昼に異国飯を食べたい場合は前述の幹線道路西側に行きましょう。
池田公園ではしばしば、フィリピン系イベントや外国人が出店するイベントも行われています。「イナサル」と呼ばれるバーベキュー屋などが出店していて、異国の雰囲気を体験できます。
こうしたイベントには日本人も来場していて、フィリピン料理を楽しんでいるんです。ほかの地域ではあまり見かけないほど、フィリピン人と日本人が共生している感じがしました。
昔からこの地域にフィリピン人をサポートするNPOがあり、町内会も共生を目指して活動してきたとのこと。池田公園を中心とした地域の話ではあるけれど、日本人と在住外国人が共にピリピリせず暮らしている場所もあるんですね。外国の方とフレンドリーに話しながら食べる異国飯は、また格別です。
写真=山谷剛史
(山谷 剛史)