TBSとフジの「余裕のなさ」が原因か…『ジョンソン』『オドハラ』の相次ぐ打ち切りで、いま”芸人バラエティ”が再びさらされている「絶滅の危機」
『リンカーン』後継、佐久間Pの番組
この1週間あまり、『ジョンソン』(TBS系、月曜21時台)、『オドオド×ハラハラ』(フジテレビ系、木曜21時台)が「今秋で終了する」ことが相次いで明らかになった。
前者が、かまいたち、モグライダー、見取り図、ニューヨークの4組、後者がオードリー、ハライチの2組を前面に押し出したいわゆる“芸人バラエティ”。ここまで週替わりの企画を放送してきたが、スタートからわずか1年で幕を閉じることになってしまった。
しかも『ジョンソン』はTBSの伝説的バラエティ『リンカーン』の後継番組で、『オドオド×ハラハラ』も芸人の持ち味を引き出すことに長けた佐久間宣行プロデューサーが手がける番組。それだけにTBSとフジテレビにとってショックは小さくないはずだ。
TBS『ジョンソン』公式サイトより
フジテレビ『オドオド×ハラハラ』公式サイトより
両番組は、そのほとんどがアラフォーという脂の乗った世代の人気芸人を集めながら、なぜ事実上の失敗に終わってしまったのか。
また、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)と『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)の終了から6年あまりが過ぎた今、「やはり“芸人バラエティ”は通用しなかった」ということなのか。業界内の現実と今後を掘り下げていく。
今春の新番組MCに見えた兆し
まず脂の乗った人気芸人を集めながら、なぜ事実上の失敗に終わってしまったのか。実はその理由は今春の新番組に表れていた。
今春から民放各局のゴールデン・プライム帯(19~23時)でレギュラー放送されている新番組は、『世界頂グルメ』(日本テレビ系)、『with MUSIC』(日本テレビ系)、『世の中なんでもHOWマッチ いくらかわかる金?』(TBS系)、『何を隠そう…ソレが!』(テレビ東京系)、『ミュージックジェネレーション』(フジテレビ系)、『街グルメをマジ探索!かまいまち』(フジテレビ系)の6番組。
そのほとんどが、グルメの『世界頂グルメ』『かまいまち』『いくらかわかる金?』(メインコーナーがグルメ)と、音楽の『with MUSIC』『ミュージックジェネレーション』に集約されていた。
さらに象徴的なのは新番組のMC。『かまいまち』のMCは『ジョンソン』出演中のかまいたちであり、『世界頂グルメ』のMCは『オドオド×ハラハラ』出演中のハライチ、『いくらかわかる金?』のMCもハライチ・澤部佑を起用した上で、いずれもグルメをメインに据えている。
これは『ジョンソン』も『オドオド×ハラハラ』も、「MCの人選ではなく、“芸人バラエティ”そのものが問題視されている」ということだろう。ただ、「脂の乗ったアラフォーの人気芸人でも、グルメという切り口でなければ勝負できない」とみなされてしまったようにも見える。いずれにしても、現在ゴールデン・プライム帯で放送されるバラエティの難しさを物語っているのは間違いない。
ではなぜ『みなさん』と『めちゃイケ』が終了した2018年春から5年半が過ぎた昨秋、芸人バラエティの『ジョンソン』と『オドオド×ハラハラ』が編成されたのか。
芸人バラエティが復活した背景
『みなさん』と『めちゃイケ』が終了した2018年春を振り返ると、当時はテレビ業界全体で視聴率低迷が長期化した苦しい時期だった。両番組ともに、業界内外で「打ち切りの噂が流れては延命する」という状態の繰り返し。さらにフジテレビが両番組を同時期に終了させたことで、「いよいよテレビの芸人バラエティそのものが終わりだろう」と見られていた。
しかし、わずか2年後の2020年春に視聴率調査の大幅なリニューアルがあり、民放各局の評価基準が一変。営業の取引上、有名無実化していた世帯視聴率が評価指標から外れ、コア層(主に13~49歳)の個人視聴率獲得を目指す番組制作に舵が切られた。
とはいえ、各番組には重要なスポンサーや多くの出演者がいるほか、想定外のコロナ禍に見舞われたことで、すぐに変わったわけではない。それでも2021年の春・秋、2022年の春・秋と改編期を経るごとにその傾向は強くなっていった。
ちなみに2020年春以降の変化で象徴的だったのがドラマのジャンル。世帯視聴率や個人視聴率全体で苦境に陥っていた2010年代は中高年層が好む刑事と医療が半数近くを占めていたが、2020年代に入って視聴率調査がリニューアルされると恋愛が増え、長編ミステリー、学園、ファンタジーなどの若年層が好むジャンルが増えていった。
ドラマがコア層の個人視聴率に加えて配信再生数やXのトレンド入りなどでも一定の成果を得られたことで、「次はバラエティ」という話になるのは自然な流れ。
特にフジテレビは2022年に『みなさん』などを手がけた港浩一社長が就任してからバラエティへの回帰を進める上で目玉番組の1つが『オドオド×ハラハラ』だった。一方、『ジョンソン』のTBSも『水曜日のダウンタウン』が「TVerアワード バラエティ大賞」を3年連続受賞するなどの成功もあってバラエティの見直しが議論されているという。
『新しいカギ』との差は紙一重
『ジョンソン』と『オドオド×ハラハラ』のような芸人バラエティの基本的な構成は、芸人たちの持ち味を引き出す週替わり企画。そのため番組開始から「さまざまな企画を仕掛けながら人気コーナーを探っていく」という形で放送されていたが、「それを見つけられないまま終了」という悲しい結末が近づいている。
一方、同じように苦境にあえぎながらさまざまな企画を仕掛け、人気コーナーを見つけられたのが『新しいカギ』(フジテレビ系)。コア層の個人視聴率を獲得できる「学校かくれんぼ」という企画を見つけ出し、さらに「高校バスケ全国制覇の道」「先生と漫才グランプリ」「学校きもだめし」「校内一周!障害物駅伝」などの派生企画を次々に手がけて生き残りに成功した。
同様にバナナマンとサンドウィッチマンの『バナナサンド』(TBS系)も「ハモリ我慢ゲーム」というヒット企画を見つけて一時期の苦境を脱出。また、博多華丸・大吉、千鳥、かまいたちの『火曜は全力!華大さんと千鳥くん』(カンテレ・フジテレビ系)は、体を張ってさまざまな企画に挑む姿勢が受けはじめてコア層の個人視聴率をジワジワと上げている。
『ジョンソン』と『オドオド×ハラハラ』は、これらのように「ヒット企画が見つかったり、ジワジワと数字が上がったりするまで待ってもらえなかった」ということだろう。これは視聴者ではなく、主に局内の問題であり、特に制作サイドの力量というより、1年しか我慢できなかった上層部や編成の余裕のなさを感じさせられる。
いずれにしても現在のゴールデン・プライム帯は、人気芸人を起用するだけでは難しく、起用したとしても「『彼らでなければ成立しない』というコンセプトの番組にはなりづらい」ということ。制作費の安いロケやゲームなどが主流の企画・構成になるため、高い視聴率や配信再生数は難しく、「飽きられたら終了」という状態を繰り返してしまう。
「カリスマ芸人」が不在の時代に
そもそも現在の視聴者は、ヒット企画を見つけるまでの「ハズレ企画」を多分に含む新番組をわざわざ選んで見ようとしないだろう。また、「ハズレ企画」が多ければTVerで見てもらうことも難しい。芸人バラエティを成功させたいのであれば、番組スタートの段階から「ヒットするかもしれない企画を多めに準備して、可能性の高いものから仕掛けていく」くらいでなければ厳しいのではないか。
芸人バラエティのシンボル的な存在だったダウンタウンやとんねるずが台頭した時代は、芸人どころかタレントの数自体が今より少なく、エンタメ自体の幅も狭かった。一方、タレントに限らずインフルエンサーなども含めた有名人が量産され、ネットの普及でエンタメが多様化・細分化された今、彼らのようなカリスマ芸人が誕生する可能性は低くなっている。
さらにテレビ番組にしろ、YouTubeなどのネット動画にしろ、ある程度の人気者がコラボするのは普通のことになり、かつてのような鮮度や特別感は消えてしまった。だからこそせめて「この番組だけは別のキャラクターや芸風を見せる」などのプレミア感がなければ芸人バラエティは難しいのかもしれない。
それでも「芸人バラエティが絶望的な状況か」と言えば、そうとは言い切れないだろう。少なくとも業界には「芸人バラエティをやりたくてテレビ局に入った」というテレビマンたちがたくさんいるだけに、『ジョンソン』と『オドオド×ハラハラ』の経緯を踏まえつつ、新たな番組を画策していくのではないか。
願わくばそのときは「できるだけ表現の幅や自由を与えられる22時台に編成し、長い目で見守る」という局の姿勢を求めたいところだ。
・・・・・
【つづきに読む】『いま民放各局で「ものまね特番」が増えている理由とは…「ものまね四天王」時代との「決定的な違い」』