上川陽子「うまずして何が女性か」切り取り報道の共同通信「全くひるむ必要は無い」内部文書入手
上川陽子外務大臣。2024年05月10日撮影 Photo:JIJI
共同通信が報じた上川陽子外務大臣の「うまずして何が女性でしょうか」との発言に世論は沸騰している。発言を切り取りすぎているとの批判が渦巻く中、報じた共同通信社の内部文書に記されていた、驚愕の内容とは――。(イトモス研究所所長 小倉健一)
「うまずして何が女性か」
大々的に報じた共同通信社
上川陽子外務大臣が5月18日、静岡市で行った静岡県知事選挙の自民党推薦候補の応援演説で、「この方を私たち女性がうまず(ママ)して何が女性でしょうか」との発言をしていたことを共同通信が報じ、共同通信社と提携する各地方紙が同じ文面で伝え、さらには全国紙も同発言を「問題発言」として報じている。
まずは共同通信の記事を確認しよう。Yahoo!ニュースで検索すると、<5/18(土) 18:55配信>という日時で、<「うまずして何が女性か」と上川陽子外相>と題する記事が出てくる。
記事は、<上川陽子外相は18日、静岡県知事選応援のため静岡市で演説し、自民党推薦候補の当選に向け「私たち女性がうまずして何が女性か」と述べた。新知事を誕生させる趣旨とみられるが、出産困難な人への配慮を欠くと指摘される可能性がある。>となっている。
実際の上川氏の発言は、こうだ。
「ようやく決断をしていただきました。大きな、大きな命を預かる仕事であります。今、一歩を踏み出していただいたこの方(推薦候補)を私たち女性が“うまずして何が女性でしょうか”」
「私も初陣の時に、皆さんに『“うみ”の苦しみもあるんだけど、ぜひ“うんでくださいね”』と最後の演説で申し上げたんですが。彼(推薦候補)のことを思うと、その場面が頭によぎってくるんです。“うみ”の苦しみは、男性もいらっしゃいますが、本当にすごい。うまれてくるこれから、未来の静岡県。今の静岡県を考えると、私たちはその手を緩めてはいけない」
この発言が、差別に当たるのかどうかについて、世論は二分している。これからその二つを簡単に紹介したいが、その前に、まずは共同通信の配信した記事は、切り取りであることは事実だ。共同通信の記事では、上川氏の発言を「子どもを産まなくては女性ではない」という趣旨で解釈しているが、実際はそうではない。上川氏は「自分も含めた女性たちが自民党の候補を知事にしよう」という趣旨を、「女性」「うむ(産む、生む)」という言葉で表現しているということだ。
この切り取りは、共同通信英語版(Kyodo News+、5月18日20時48分配信)で、より露骨な表現となって記述されている。
共同通信英語版の記事は
完全に「虚偽」
タイトルは、「Japan minister queries women's worth without birth in election speech」だ。直訳すると、「日本の大臣が選挙演説で出産をしない女性の価値を問う」である。記事には、上川氏の発言として「we women can call ourselves women without giving birth」と記されており、直訳すれば、「私たち女性は、出産をせずにどうやって女性と名乗ることができるのでしょうか」だ。英訳については、完全に「虚偽」だ。上川氏はそんなことは一切も言っていない。
当然ながら、世論は沸騰した。
<上川氏は静岡県知事選で自民推薦候補の当選に向けた演説中、支援する女性の力を結集する意味で「私たち女性が知事をうまずして…」と発言したとみられる。SNSでは≪発言が独り歩きしている≫≪一部分だけの切り取りだ≫などと曲解だとの意見が目立つ>
(産経新聞、5月19日)
ブロガーの藤原かずえ氏(5月20日、Xへのポスト)は、<上川陽子大臣に対して言葉狩りをした共同通信が叩かれたことは、日本社会が健全性を示すものです。理不尽な報道を行なえば行うほど信用を落として営業活動に支障を来たすような環境を作ることが重要であり、同時に公共性の高い勇気ある報道に拍手を送ることも重要と考えます>と指摘した。
発言を切り取りすぎている
という指摘も
逆に、切り取りではないという意見もあった。
<「子どもをうまずして…」なんて言ってないことは百も承知で、知事を「うみだす」ことと女性が「うめる」可能性がある性であることを結びつけたうえで「うまずして何が女性でしょう」と反語的に表現していることが、「うむ/うまない」を選ぶのは女性自身の権利であることを軽視していると解釈できるわけで、この発言はダメでしょう>
(教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏、朝日新聞デジタル記事へのコメントプラスへの投稿)
<この発言に関する報道に関しては「切り取り」「印象操作」との批判がネットで見られますが、「この方を私たち女性がうまずして何が女性でしょうか」の「女性」を「男性」に置き換えると意味が通りません>
(朝日新聞編集委員の藤田直央氏、同コメントプラスへの投稿)
こうして共同通信は、大きな議論を呼んでいるわけだが、当の共同通信は、この記事についてどう捉えているのだろうか。記事を撤回しないことで、この記事には自信を持っていることをうかがわせるが、筆者とダイヤモンド編集部は独自に、共同通信の編集会議の内容を入手することができた。
共同通信社の内部ポータルに
投稿された強気の講評
共同通信の記者が読める内部ポータルサイトに、当該記事の配信後に投稿されたものだ。
『<局会では>土日の生ニュースが薄い中、特報室が土、日と◎を担ってもらった。金土日と順調だった。
上川外相の発言は、共同が最初に報じたことは非常によかった。最初の番外で「産まずして」と「産」を使用した点については、ハンドブックをみると誕生させるという趣旨では「生」か、紛らわしければひらがなとなっている。失言を報じる際には細心の注意を払う必要があると改めて思うが、全くひるむ必要は無い。番外だけ「産」となっているが、すぐに差し替えている。引き続き、このような姿勢で問題意識を持って報じていきたい。』
内部資料なので、少し説明が必要であろう。共同通信では前日に配信された記事についての講評を編集部の会議で行い、その内容を共同通信の記者に知らせるべく、ポータルサイトに投稿することになっている。
<土日の生ニュースが薄い中、特報室が土、日と◎を担ってもらった。金土日と順調だった>とは、大きなニュースがあまりない中で、特報室(調査報道を担うセクション)が一面トップ級の記事(◎)を出しましたといった意味だ。<全くひるむ必要は無い>という強い言葉に、共同通信の当該記事への態度が強く出ているということだ。
なお、この共同通信社の会議資料について、共同通信社にコメントを求めたところ、<お答えは差し控えさせていただきます>との回答だった。