じつは「日本の若者」と「フランスの若者」は似ている…「読書」に関する調査の意外な結果
フランス国立出版センター(CNL)が7歳から19歳のフランス人男女1500人を対象にした「フランスの若者と読書」(2024)を発表した。「文化大国」のイメージがあり、かつ、アニメやマンガといった日本のポップカルチャーの人気が高いことでも知られるフランスの子ども・若者の読書はどうなっているのか。日本と比べて何か違いはあるのか。
フランスでも日本でも、高校生になると読書率が下がる
CNL調査では「学校、勉強、仕事のための読書」と「レジャー、余暇のための読書」を区別している。このような区別は日本の読書調査ではあまり見られず、興味深いところだ(日本には「学校も含めた読書率」と「学校外に絞った読書率」の調査はあるが)。
フランスで「勉強のための読書」をする若者は7歳~19歳全体では84%だが、16~19歳では女子68%、男子59%。「余暇のための読書」は全体81%、16~19歳の女子74%、男子50%。
日本の全国学校図書館協議会「学校読書調査」では書籍の読書率は小学生で9割以上、中学生8割以上、高校生は5~6割(直近2023年調査では不読率43.5%=読書率56.5%)。
つまり日仏で「高校以上になると不読が増える」という傾向は近い。
読書量に関してCNLは「過去3か月で何冊読んだか」を尋ねている。7~12歳で勉強用2.3冊、娯楽用6.6冊、13~15歳で勉強用2.0冊、娯楽用3.6冊、16~19歳で勉強用2.3冊、娯楽用4.3冊。
日本との比較用に合算して月間換算すると、小学生3.0冊。中学生1.9冊、高校生2.2冊。
日本では書籍の月の平均読書冊数は小学生12.6冊、中学生5.5冊、高校生1.9冊。冊数ベースで見ると日本の小中学生の多さが目立つ。しかし、しばしばいわれるように日本の児童書・YA(ティーン向けの本)は欧米のものと比べて内容が平易で、分量も少ないことを考えると、冊数ベースでの比較はあまり意味がないかもしれない。
読書時間は十数分、スクリーンタイムは3時間台
では時間ベースで比べてみるとどうか?
フランスでは若者の余暇の読書時間は1日19分(16~19歳では女子17分、男子7分)。一方、スマホ、タブレット、TVのようなスクリーンタイムは3時間11分(191分)。
日本ではベネッセ教育総合研究所と東京大学社会科学研究所による「子どもの生活と学びに関する親子調査」2015-2022年で小中高生を対象に各メディアの使用時間を調べているが、これを見ると2022年には本は1日15分、マンガ・雑誌11分、新聞2分と読書時間は合計28分なのに対して、スマホ・携帯83分、テレビ・DVD63分、テレビゲーム・携帯ゲーム48分、パソコン・タブレット32分とスクリーンタイム合計は226分。
日本の方がスクリーンタイムが35分長いが、読書時間も10分弱長い(マンガ・雑誌の分を除くべきではと思うかもしれないが、フランスの読書調査では「本」に関してコミックも含んでいるため、合算した方が正確な比較だと思われる)。しかし傾向としてはやはり似ている。
デジタルブックの利用率は半数弱(一方、日本は少なすぎ)
フランスでは、デジタルブックの読書率は7~12歳で33%、13~15歳で38%、16~19歳で67%。電子で読む際には76%がスマホで読んでいる。
一方、日本は内閣府「令和5年度青少年のインターネット利用環境実態調査」によれば小学生4.0%、中学生12.4%、高校生21.1%と圧倒的に低い。
参考までに韓国の文化体育観光部「国民読書実態調査」2023年版を引くと、小50.2%、中53.1%、高52.4%である。
フランスでは、コミックに関しては全体の49%がデジタルで読んでいる。日本では前述のベネッセ&東大調査によると電子コミックの読書率は小15%、中35%、高49%であり、フランスと日本で電子コミックの読書率はほとんど変わらない。
驚くべきはオーディオブック利用率の高さだ。フランスでは7~9歳62%、10-12歳36%、13-15歳29%、16~19歳42%も利用している。日本では公的機関による調査がないが、絶対にこんなに使っていない。韓国でも小21.9%、中12.2%、高10.6%だ。
10歳未満の利用率の高さは、本を読み慣れていないうちは音声の方が入ってきやすいためだろう(本を読み慣れてくると黙読した方が朗読を聴くより早くなる)。
日本でも子どもが使える端末で(たとえば学校で配布するものでも)気軽に、無料または安価に使え、充実したライブラリを持つサービスがあれば普及の余地はきわめて大きいだろうことが、フランスの音声コンテンツ利用率の高さから予想される。
娯楽として読むときのジャンル1位はバンドデシネ、2位は日本マンガ
レジャー読書をする人を対象に「どのような本をよく読みますか?」と尋ねた項目では、バンド・デシネ(BD。フランスやベルギーで一般的なコミック)55%、マンガ(Mangas.おそらく日本のマンガ)47%、小説43%、絵本・児童書27%、ドキュメンタリー・百科事典21%、Comics(おそらく北米のいわゆるアメコミ)18%、塗り絵やシール・工作本などのアクティビティ本17%、伝記・自伝16%、詩11%、戯曲7%と続く。
余暇に読む本のうち半分はマンガである(別の項目でわざわざBDとMangas、Comicsを分けており、ここはMangasと言っているので「日本のマンガ」だと思われる)。とくに13~15歳の少年に人気があり、彼らの個人的な読書の4分の3以上を占めている。
楽しみのために読む小説ジャンルは冒険小説43%、SF・ファンタジー41%、ロマンス34%、探偵小説・エスピオナージュ(スパイ小説)・サスペンス31%、ユーモア小説29%、家族・生活小説27%、神話・歴史小説26%、古典24%、ダークロマンス17%、動物の物語15%。
神話・歴史小説や古典が「勉強」目的ではなく「余暇」に読む人の4分の1に読まれているというのがさすがフランスというか、日本ではなかなか考えにくいところだ。
日本ではなじみが薄いジャンルに「ダークロマンス」があるが、これはフランスで2010年代以降流行している、復讐やトラウマなど重い題材を扱ったり、道徳的・法的に危うい行為や関係の描写を含んだりするロマンスである。しばしばTikTok売れしている。
だれからのオススメで本を選んでいるのか?
ではソーシャルメディアからの影響はどれほどのものなのか。「余暇に読む本はだれに薦められることが多いですか」という質問に対しては、母親38%、友人34%、自分で本を選ぶ26%、父親23%、教師21%、兄弟・姉妹16%、YouTubeやソーシャルネットワーク上のインフルエンサー(Facebook、Instagram、TikTok、Twitch)13%、司書・ドキュメンタリスト12%、祖父母9%、書店員8%となっている。
家族や友人、自分で選ぶよりもインフルエンサーの影響は小さいが、しかし司書と同程度、書店員よりやや強いと考えると無視できないパワーがある。
では保護者は推薦できるほど本を読んでいるのか。
子ども・若者に「両親は自ら本を読みますか」と尋ねると父親の52%、母親の78%が本を読むと答えている。16~19歳で男子59%、女子68%が本を読むと答えているが、親世代でも女性の方が本を読んでいる。なお、日本では書籍の読書率は16歳以上全体では52.7%(文化庁「国語に関する世論調査」平成30年版。2018年調査)である。雑誌も含めれば子育て世代の女性の8割は本を読んでいるかもしれない。
なお、「両親のいずれも本を読まない」と答えた割合は18%。若者自身の「読書が好きではない」と答えた割合は19%。2割くらいはおそらく遺伝的な要因や身体的な理由(視力の問題など)等々もあってそもそも字が苦手/本から疎外されている、あるいは本という形態を好まないのだろう。
フランスと日本では、子ども・若者と意外にも読書率やメディア利用時間は近い。だがデジタル、オーディオブックなどでは日本は大きく水を空けられている。ここは教育政策的に読書推進の余地がまだまだあるだろう。また、マンガ人気やオーディオブック人気を踏まえると、日本の出版社、IPホルダーのフランスにおけるビジネスチャンスも大きいと思われる。