「寅さんファミリー」が勢ぞろい 公開55周年の記念コンサートを開催
「男はつらいよ お帰り 寅さん」シネマ・コンサートで思い出話に花を咲かせる(左から)倍賞千恵子さん、山田洋次監督、前田吟さん=東京都千代田区(提供/星野麻美撮影)
映画「男はつらいよ」の公開(昭和44年)から今年で55年になるのを記念したコンサートが29日、東京国際フォーラム(千代田区)で開かれ、会場に山田洋次監督(92)ら〝寅さんファミリー〟が5年ぶりに勢ぞろいした。
コンサートは映画「男はつらいよ お帰り 寅さん」(令和元年)を上映し、東京フィルハーモニー交響楽団(岩村力指揮)が生演奏で劇伴音楽を奏でた。
「お帰り 寅さん」は、「男はつらいよ」公開50年を記念し、山田監督が寅さんの〝最新作〟として撮った映画。旧作の映像を4Kデジタル技術で修復し、故渥美清さんが演じる寅さんの鮮明な映像を巧みに取り込み、おいの満男を軸に寅さん周辺の近況を描いた。
「男はつらいよ お帰り 寅さん」シネマ・コンサートで思い出話に花を咲かせる(左から)吉岡秀隆さん、倍賞千恵子さん、山田洋次監督=東京都千代田区(提供/星野麻美撮影)
この日は、山田監督のほか出演者の倍賞千恵子さん(83)、前田吟さん(80)、吉岡秀隆さん(53)が駆けつけた。
〝寅さんファミリー〟が顔をそろえるのは、「お帰り 寅さん」公開初日のイベント以来。開演前のトークショーで、思い出話に花を咲かせた。
山田監督は「お帰り 寅さん」について、「『男はつらいよ』48作を全部つなぎ合わせると、見るのに3日近くかかるが、その中の懐かしいショットだけを組み合わせたら、別のもう一本の映画ができるのではないかと考えた」のが発端となったと明かした。
「男はつらいよ お帰り 寅さん」シネマ・コンサートで誕生日の倍賞千恵子さん(左から2人目)にお祝いの花束を贈る山田洋次監督(同3人目)=東京都千代田区(提供/星野麻美撮影)
また、「不良の、ふざけた、価値観の違う、変なおじさんがいることが、自分にとって、どんなに大切だったかを、中年になった寅さんのおいの満男が思い返す。この映画の主役は、満男を演じた吉岡くん」と説明し、「主役は渥美さん」と吉岡さんが慌てる一幕もあった。
その吉岡さんは、「お帰り 寅さん」の撮影について「渥美さん不在を再確認する日々でつらかった」と振り返った。
また、吉岡さんは、ロケ先で食事の際、自分は飲まない渥美さんが「まあ、一杯いこう」とビールをついでくれ、「じゃあ、失礼しますね」と吉岡さんの肩に手をついて立ち上がり、去っていった姿などを思い出して語った。
寅さんの妹、さくら役の倍賞さんは「177本の映画に出て3分の1が寅さん。最初の頃、撮影現場は騒然としていたのに、年々、静かになっていくなと感じていました」と振り返ったが、山田監督は「そうか、僕たちがだんだん年を取ったからだな」としみじみと語った。
一方、山田監督は前田さんに「1作目のさくらへの君の愛の告白。あのクローズアップはよかったなあ。唾がパッパッって飛んでさあ。あれが、いいんだよ。若かったねえ」と笑いかけ、前田さんは「80歳になりました」と答えた。
また、音楽を担当した指揮者で作曲家の故山本直純さんの長男で作曲家、純ノ介さん(66)も出席した。純ノ介さんは、大学生の頃から直純さんの助手として「男はつらいよ」に関わり、「お帰り 寅さん」の音楽を手掛けた。
純ノ介さんによると直純さんは、山田監督の要望に応えて瞬時に譜面を書き直すなどした。
山田監督は「最初の1音を聴いただけで『男はつらいよ』のテーマ曲だと分かる。こんなことができるのは直純さんだけだと、指揮者の小澤征爾さんが言っていたな」と直純さんをたたえた。
また、この日は倍賞さんの誕生日で、山田監督から倍賞さんに花束が贈られた。
なお、トークショーの司会は、俳優の北山雅康さん(57)と松野太紀さんが担当する予定だったが、松野さんが今月26日、死去したため、北山さんが一人で務めた。
北山さんは、団子店くるまやの店員役として「寅次郎サラダ記念日」以降の作品に出た。
アニメ「金田一少年の事件簿」などの声優で知られる松野さんは山田組の常連でもあり、「お帰り 寅さん」では喫茶店店長役を演じた。
山田監督は「松野くんが急に亡くなってしまった。今日参加できなくて残念に思っているでしょう」と松野さんを悼んだ。(石井健)