多くの上司は知らない…部下が次々と辞めるのは「上司の姿に絶望」したからという「残酷な現実」
「人手不足」は、今の日本経済の発展にとって大きな足かせとなっています。帝国データバンクによると、2023年度の人手不足を原因とする倒産は前年度比約2.1倍の313件で、過去最多を大幅に更新しているとのこと。人手不足は今後ますます深刻化していくと見られますが、今回はその要因の一つ、離職の原因についてお話しします。
盲点になっている離職原因があった
以前にも申し上げましたが、人手不足の原因は大きく分けて2つあります。1つは「人が採れない」こと。もう1つは「人が辞める」ことです(参考記事:46歳経営者が後悔…「もっと早く値上げすればよかった」企業が苦しむ“離職の連鎖”を止められたワケ)。
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私は人間心理に基づいて経営改善をする経営心理士講座を主宰し、受講生から離職防止に関する相談も数多く受けてきました。その中で盲点となっていて、意外と多くの会社が対応できていない離職の原因があります。
例えば、広告業の会社で部長を務めるB氏(36歳)から、このようなご相談がありました。
「部下に対して、丁寧に優しく関わり、欲しいスキルが身につく仕事を経験させて、良い点は褒めています。なので部下との関係は良好だと感じています。
給料も決して悪くないし、福利厚生もそこそこ充実しています。
それでも多くの部下が辞めていくんです。『違う業界に挑戦してみたい』とか、『他にやりたい仕事ができた』といった理由で辞めていくんですが、本当にそれが原因なのかなと。自分たちとしてはやれることはやっているつもりなんですが、どう思われますか?」
こういったご相談に関し、離職の原因を突き止めていく中で、「上司であるBさんご自身は、仕事を楽しんでいますか?」という質問をしています。この質問をすると、だいたいの方はその意図が分からず、ポカンとされます。ただ、この質問から、盲点となっている離職の原因が明らかになることがあります。
その詳細を説明したいと思います。
「上司の働く姿に絶望した」という離職原因
部下は上司の姿に数年後の自分を見ます。その上司が楽しそうに活き活きと働いていたら、「自分も数年後、あんなふうになれるんだな」と未来に希望を持ち、この会社で長く働こうとします。
しかし、上司が深夜残業、休日出勤の連続で、つらそうに仕事をしていたら、「自分も数年経ったら、あんなふうになるんだな」と未来に絶望します。現状には満足していても未来に絶望すると、人はリスクを回避するためにその場から離れようとするのです。
IT企業で働いていたE氏(28歳)は、昇進の話を持ち出されたタイミングで会社を辞めて転職しました。その理由をこう話されました。
「前職の会社は給料も良かったし、仕事も面白かったです。上司も面倒見の良い人が多くて、皆さんとてもいい人たちでした。ただ、その上司の人たちは年次が上がるほど平日は深夜まで働いてて、土日祝日も出勤してるんですよ。
『昨日も家で2時までやってたわ』『結局、日曜日も出てたよ。マジきついわ~』。そんなことを冗談っぽく話されているんですが、『マジっすか? それはきついっすね~』って返しながらも正直引いてました。
あの上司たちの姿を見ていて、『自分も昇進したらこうなるのか。昇進する前に辞めないとヤバいな』と思って辞めました」
コンサルティング企業で働いていたH氏(27歳)は、憧れの会社に就職できたものの、入社4年で辞めました。その理由をこう話されます。
「もともと憧れの会社だったので、入社できた時は本当に嬉しかったですね。やりたい仕事もやれてたし、給料も良かったです。上司は丁寧に指導してくれましたよ。でも、その上司がとてもつらそうに仕事をしてたんです。
それからよく仕事の愚痴とか会社の悪口を言ってました。『こんな仕事のふり方はあり得ない』とか、『会社は金儲けのことしか考えてない』とか、『前から社長のことが嫌いなんだ』とか。
そういう話を聞くほど、会社が信用できなくなりました。自分も昇進したら、こんなふうに愚痴や悪口を言うようになるのかなと思うと、この会社に長くいちゃいけないなと思ったんです」
こういった「上司の働く姿に絶望した」という離職原因が意外に多いと感じています。と同時に、この点は多くの会社で盲点となっており、これによる離職を防げていない会社もまた多いと感じています。
皆さんは、ご自身の上司の働く姿に自分の未来を見ることはないでしょうか。そして、もし上司がかなりつらそうに働いていたら、このままこの会社にいてはいけないと未来を危惧し、離職を考えたりはしないでしょうか。
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この「上司の働く姿」に起因する離職を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。その点については、後編記事〈36歳管理職が青ざめた…部下の前で「忙しいアピール」をした結果起きた「まさかの事態」〉で詳しくお伝えします。