「餃子の王将」は年商930億円。2年間で4度の値上げも“ファンが離れない”決定的な理由

 28か月連続で過去最高益を更新中の「餃子の王将」(株式会社王将フ-ドサ-ビス)。業績好調だが、それでもまた2024年6月21日に4度目の値上げを断行する。もともとが安いからという声もあるが、ここ最近の物価高騰で財布のひもが固くなってきている人々にはツラい。

「餃子の王将」は年商930億円。2年間で4度の値上げも“ファンが離れない”決定的な理由

餃子の王将

 この相次ぐ値上げで、もう行かないという声もあるが、それでも多くの人が餃子の王将に引き寄せられてしまう。その魅力は何だろうか?

◆2年間で4度の値上げをする餃子の王将

 そもそも、餃子の王将はラーメンチェーンに分類されるが、消費者には餃子を冠した中華ファミレスのイメージが強いだろう。そのラーメンチェーン業界では、日高屋や幸楽苑を抑え、堂々1位で絶対的な存在感があり、財務体質も盤石だ。

 そんな餃子の王将でも近年の物価高騰に耐えきれず、2022年5月・11月、2023年にも10月に3度目の値上げを実施し、今回で4度の値上げを実行中だ。あらゆるコストが上昇し、飲食店にとっては費用の負担が大きく、どの店も値上げを余儀なくされている。そういった環境下で、値上げしたにもかかわらず、客が離れないところか、業績を過去最高に更新しているのはさすがだ。

◆餃子の王将の今期の業績は?

 餃子の王将は「値上げした分を賃上げの原資にもする」と宣言しており、人を大切にする企業として社会的責任を全うするイメージも定着している。

 2024年の春季労使交渉で、基本給を底上げするベースアップと定期昇給などを合わせて平均月額3万9162円の賃上げで妥結したとテレビや新聞などで報道されている。労働組合が要求した2万220円を大幅に上回る。賃上げ率は11.5%で過去最高となるようだ。

 人に対する投資を怠らない会社の姿勢に、今のところお客さんは値上げにも理解を示しているようだ。3回目(2023年10月)の値上げから半年。その後の顧客動向はどうなっているのか? 今期4月、5月の実績は、

【王将フ-ドサ-ビスの業績(2024年4月、2024年5月)】

2024年4月:売上78億5300万円(前年比104.2%)、客数6820人(102.2%)、客単価1151円(102%) 

2024年5月:売上82億6000万円(106.7%)、客数7197人(104.4%)、客単価1148円(102.1%)

 となっており、5月度は特に売上を6.2%、客数を4.4%も伸ばしている。ただし、客単価は2.1%と微増である。売上・客数の伸びに対して、客単価が微増に留まっているのは、人にはそれぞれ予算があり、その日の気分で増減はするが、使える額は決まっている。その中で自己の満足度の最大化を求めるから上限が抑えられると推察する。

◆4度目は値上げ幅も大きい。顧客の動向は?

「餃子の王将」は年商930億円。2年間で4度の値上げも“ファンが離れない”決定的な理由

各メニューの価格改定前後の値段(餃子の王将公式サイトより)

 今回は、値上げ幅もけっこう大きく、絶対的なファンが多いとはいえ、お客さんの動向が注視される。値上げリスト(税込価格表示)を見ると、特に王将ラーメンは627円が748円と120円の値上げで19%アップだ。

 ランチ予算が減少している今、注文が最も多いランチの時間帯に748円のラーメンは客に受け入れられるだろうか。同じく人気の焼飯も572円と10%の値上げであり、今回は人気商品の10%以上の値上げが目立つ。

 商品を追加注文してもらって単価を上げる餃子の王将からすれば、思惑通りにいかせるのは難しいかもしれない。それでも町の中華店と比較したらまだ安いし、値上げによる顧客離反は微減ではなかろうか。その理由は、安い割に内容が充実しているジャストサイズメニュー、一品料理の存在だ。

 ジャストサイズの鶏の唐揚げ(税込363円)、通常サイズ焼き豚(税込495円)を見たら分かるように、これなら家族客だけでなく、一人飲み客も大喜びである。加えて、お客さんの王将に対するブランドロイヤリティ(忠誠度)は高く、絶対的なファンが多く存在するからだ。

◆ブランドロイヤリティで圧倒的な存在感

「餃子の王将」は年商930億円。2年間で4度の値上げも“ファンが離れない”決定的な理由

ジャストサイズメニューの鶏の唐揚げ(税込363円)

 なんといってもラーメン市場において、売上・店舗数1位のチェーンで、幅広い客層に支持されている。大概のお客さんが「餃子の王将アプリ」を有しており、来店ポイントやさまざまな特典を使って満足している。中華が食べたくなった際、まず想起するのは餃子の王将になる人が多いようだ。

 価格決定要因には、①コストプラス法、②需要志向決定法、③競争志向決定法がある。コストプラス法のようにかかった費用に自店の利益を加えて売価にすれば簡単で赤字になることはないが、そう単純に行くことでもなく、お客さんは価格に敏感だから、自店のお客さんに受け入れられる価格に設定しないと離反する。

 特に今のように賃金上昇が物価高騰に追いついていかない経済状況では、需要志向や競争価格志向が価格決定要因に大きく影響するものである。飲食店においても当然に、売り手と買い手の力関係で価格は決まる。店のほうが強ければ 値上げも客に遠慮なくできるから、採算割れすることはない。

 ここで重要なのは自店にブランドロイヤリティがあるか否かであり、あってもその忠誠度合いのレベルが高いか低いかである。餃子の王将は値上げしても、ブランドロイヤリティが高いお客さんが多いから、それほど客足に影響がないし、本部も自信があるかもしれない。値上げは、物価高への対応や顧客満足度をさらに高めるための店への投資だと、お客さんに理解を求めているのだろう。

◆「大感謝祭」で顧客離反を防止

 また、餃子の王将は、年間売上1000億円達成記念として、大感謝祭を6月13日・14日の両日に実施した。500円ごとに半額の250円の食事券がもらえるキャンペーンだったが、営業が開始されると、筆者の自宅近くの店舗は早々に満席状態となっていた。

 今月21日から4回目の値上げを実施する前に、次に行く時の負担を軽減させるために、普段より多くの注文をされ、多額の食事券をもらって帰る人も多くいた。その光景を目の当たりにし、さすがはラーメンチェーン業界で独走状態である餃子の王将の強さを感じた。

◆同じ看板でも接客にばらつき?

「餃子の王将」は年商930億円。2年間で4度の値上げも“ファンが離れない”決定的な理由

酒飲みにうれしい通常サイズ「焼き豚」(税込495円)

 餃子の王将は料理はチェーンとしての統一性を順守しているが、接客は店によってばらつきがある。店に対するコメントを見ても、接客についてけっこう厳しい意見があり、衛生管理や店の清潔感も同様にある。お客様の声を聞くということは、今後の運営の参考にできるから大切だ。

 なかには、ひとつの現象をとらえて、全体をダメと評価する人もいて、店としては不愉快になることもある。しかし、お客さんの視点で客観的に下された店の評価をを聞くことは、今後の店の発展に不可欠だ。

 カスハラが深刻な問題になっている時代ではあるが、クレームも一部の例外を除き、店のことを思って意見してくれているという認識を持って、その声は大切にして店舗運営に生かさないといけない。

 餃子の王将も現場スタッフのスキル向上のため、王将調理道場における実地調理研修やオンラインによる調理研修を実施し、各人の技術習得に注力しており、確実に成果は出ているようである。しかし、接客に関しては、本部が満足するレベルには達していないようだ。

◆飲食店の基本三原則

 DXを活用して効率化を追求するファミレスと違い、ロボットにはできないホスピタリティある接客を目指す餃子の王将。現在、質の高い接客応対の習得を目的に、接客実地研修を実施しており、今後のスキル向上には期待したい。

 餃子の王将は、同じ看板であっても、立地タイプや店舗規模に大きなばらつきがあり、そこにフランチャイズも加わり、経営形態も違うから、店によって明確な差が出ている。筆者がよく行く直営店の従業員は愛想がよく、接客が丁寧である。王将の料理が好きだから行くのだが、その人から接客を受けたいから行くのも理由のひとつだ。

 こういった顧客とのリレーションシップの強化は大切だと思う。飲食店の基本三原則であるQ(品質)S(サービス)C(クリンリネス)は他のチェーン店と比較すると、見劣りする店があるのも事実。やはり店舗を率いる店長次第で、同じ看板、同じパッケージでも、差が出るものである。

◆餃子の王将の業績を時系列で分析!

「餃子の王将」は年商930億円。2年間で4度の値上げも“ファンが離れない”決定的な理由

餃子の王将の看板メニューの餃子

【餃子の王将の業績推移(2019年3月期~2023年3月期)】

売上高(前期比):816億3800万円(104.5%)→855億7100万円(104.8%)→806億1600万円(94.2%)→847億7500万円(105.2%)→930億2200万円(109.7%)

直営店既存店売上伸率:102.3%→104.0%→92.8%→103.1%→108.7%

売上総利益(率):572億6100万円(70.1%)→601億4800万円(70.3%)→560億8800万円(69.6%)→581億7500万円(68.6%)→636億5700万円(68.4%)

営業利益(率):69億2400万円(8.5%)→76億9800万円(9.0%)、60億7300万円(7.5%)→69億5900万円(8.2%)→79億8100万円(8.6%)

経常利益(率):73億1000万円(9.0%)→80億8400万円(9.4%)→68億6700万円(8.5%)→130億2400万円(15.4%)→91億4000万円(9.8%)

当期純利益(率):41億8900万円(5.1%)→53億1100万円(6.2%)→42億8700万円(5.3%)→88億0700万円(10.4%)→62億1300万円(6.7%)

総資産:639億5000万円→675億3800万円→911億5400万円→894億500万円→841億300万円

純資産(自己資本比率):468億7200万円(73.3%)→503億500万円(74.5%)→529億5200万円(58.1%)→590億9800万円(66.1%)→627億7000万円(74.6%)

 王将フードサービス決算情報(2023年3月)から業績を時系列でみると、2023年3月期の売上は前期比9.7%増の930億2200万円で2ケタに近い伸び率で成長している。今年度2024年3月期の実績も、直営全店売上は925億5600万円(前年比109.1%)、と、通期においても過去最高売上を達成している。

 ちなみに、客数8万1735人(前年比105.9%)客単価1132円(前年比103.1%)と総て前年比を上回っている。FC売上を含む全社売上高(決算上の売上高)は、26か月連続で同月比過去最高を更新しており、通期では創業以来初めて1000億円(1009億8400万円)を突破している。

 2023年3月末の店舗数は732店。そのうち、FC加盟店は190店舗。FC比率は26.0%で、直営店主体の店舗展開を行っている。餃子の王将は直営店が多いため、家賃や人件費などが直接費用となり、固定費が高いことで損益分岐点は高めである。だから不測の事態に陥った時のリスクは大きい。

 そういった費用構造でも、2023年度実績では、営業利益率は8.6%は確保しており、収益力に問題はない。貸借対照表を見て財務状態を分析しても、自己資本比率が74.6%と財務基盤は盤石で経営の安定性は評価できる。

◆損益分岐点高めだが投資家からは評価

 上場企業だから資本効率(ROEが10%以上なら投資価値があると判断され、 5%以上なら合格点、15%以上なら優良企業といわれる)も重要指標として見られるだろうが、餃子の王将のROEは10.20%だから投資家にも一定の評価はされている。

 このように収益状況や財務基盤が安定しているのに、頻繁に値上げを断行するのは、まだまだ先行きが不安定のため、今のうちに経営基盤と組織体質を強化しようとする表れか。餃子の王将も店舗数729店舗(2024年5月発表)、売上1000億円を超え、従業員も2254人(2023年3月末時点)と巨大な外食企業となった。

 値上げは将来を見越して、成長する企業の社会的使命を全うするためで必要不可欠と判断したことであろう。株主、従業員、地域社会への責任などを重視する餃子の王将らしい。それが、どこまでお客さんに伝わり、安定成長を後押ししてくれるかは、収益の源泉である店舗次第であろう。ラーメン業界において、なくては困る餃子の王将をこれからも応援したい。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】

飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan

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