村上宗隆も山川穂高も指摘した「飛ばないボール問題」その真相を選手に直撃! 多くの打者が証言した感覚とは…なぜここまで本塁打が減るのか?
セパ両リーグで本塁打トップのヤクルト村上宗隆とソフトバンク山川穂高。両者とも「飛ばないボール」について言及していた
今季の開幕直後から「ボールが飛ばない」という話を何人かの選手から聞いた。中でもヤクルト・村上宗隆内野手が「打球速度と飛距離が比例していない感覚がある」と指摘、中日・立浪和義監督も「明らかにボールが飛ばない」とコメントするなどして、一気に“飛ばないボール問題”がクローズアップされたのは記憶に新しいところだ。
ところが5月に入ると、当の村上が本塁打を量産しだし、徐々に“飛ばないボール問題”が話題となることもなくなっていた。
しかも米国からDeNAに復帰した筒香嘉智外野手に聞くと「日本のボールはめっちゃ飛びます。びっくりしました」と語っていたこともあり、すっかり“飛ばないボール問題”は収束したような感じとなった。実際、選手からもあまりその話題を聞かなくなっていた。
ただ気になることがある。
交流戦での本塁打数が去年に比べても大幅に減少しているのである。
今季の交流戦全108試合での総本塁打数は、昨年の156本(1試合平均1.444本)から111本(同1.027本)と45本も減っているのである。
しかも111本塁打のうち23本は日本ハムの本拠地であるエスコンフィールド北海道で行われた9試合で飛び出したものだ。同球場は中堅121mながら左翼97m、右翼99mで膨らみもなく、外野フェンスの高さも大部分が2・8mと、昨年まで本拠地使用していた札幌ドームに比べると、かなりミニチュア感のある球場である。そこで行われた9試合で全体の約5分の1の本塁打が量産されてのこの総本数である。昨年と同規模のスタジアムでその9試合が行われていれば、さらに本塁打数は減少していた、と考えるのが妥当だろう。
やはりボールは昨年に比べて飛んでいない。
この数字を見る限り、そう結論づけてもいいように思ったのである。
選手に質問「ボールが飛ばない感覚はあるのか?」
そこで何人かの選手に「まだボールが飛ばない感覚はあるのか?」と質問してみた(質問した選手はいずれもセ・リーグ球団に所属する選手で、何人かは匿名で証言してくれたので、一応、全てを匿名で紹介する)。
「やっぱりまだボールが飛ばない感覚はあります。交流戦でも『いった』と思った打球が失速する。守っていても、打球が意外と伸びなくて塀ぎわで落ちてくることが何度もあった」(外野手A選手)
「僕はそんな大きいのを打つバッターではないので、打席ではあまり実感はありませんが、(投手のボールを)受けていて、ときどき思ったより飛んでないなと感じることはあります」(捕手B選手)
「いまも当たった感じの割に飛んでいないなというのはありますね。ただ、きっちり捕えた打球はスタンドまでいく。ちょっと詰まった感じの打球が極端に飛んでいないことがあります」(外野手C選手)
「相変わらずいまも飛んでないですね。コーチスボックスで『行った!』と思った打球が思ったより飛んでいなかったり、外野を抜けたと思った打球が、捕球されてしまうケースもあります」(三塁コーチャーを務めるDコーチ)
打者の多くはいまだに「ボールが飛ばない」感覚があるという証言をしている。
なぜここまで本塁打数が減少しているのか?
現在、NPBで使われる試合球(統一球)はミズノ社製で中国の工場で製造されたものを輸入。NPBが納品前、シーズン中も定期的に大きさ、重さ、縫い目の高さ、反発係数などが規定範囲に収まっているかを検査して使用されている。基本的にこの段階でボールそのものが規定外であるとか、検査に不正や誤差があるとは考えづらい。
それではなぜここまで本塁打数が減少しているのか。理由として投手の平均球速のアップや変化球の精度や種類など技術的な向上を指摘する声もある。
そこで投手にも話を聞いた。
「僕は飛ばないという感じは全くないですね。芯でしっかり捕えられた打球はホームランになっているし、むしろやっぱりいまはリリーフ投手でも150km台の真っ直ぐを投げたり、そういう投手の力が相対的に上がっていることがホームランの減少につながっているんじゃないですか」(E投手)
また在京球団のF投手は「ボールが飛ばないという実感はない」と断言していたが、その一方で気になることを語っている。
「ボールによって均一性がないような気がします。特に今年、気になるのは何か、ちょっとブヨブヨした感覚のあるボールがあることですね。たまにそういうボールに当たるときがある」
ボールの交換を求めるケースも…管理方法が変わった?
前出のB捕手もボールの均一性がなくなっているということについては「確かにそれはあるかもしれないですね。ボール交換した直後にピッチャーが、『これ代えてくれる』と改めて、また交換を求めるケースが時々ある」とも証言しているのである。
こうした証言を聞いて、1つ気になることがあった。
それはボールの保管方法だ。
基本的に試合球はミズノ社から定期的に各球団に納品されたものを、球団がそれぞれ球場やクラブハウスの倉庫で保管。試合で使用する分を、毎試合出してくるという形となる。保管場所は使用球場が変わった日本ハム球団以外は、ここ数年は変わらない。
ただ実はボールの管理で、昨年と今年で1つだけ変わったことがあるのだ。
それは製造元のミズノ社がカーボンニュートラルを目指す全社的取り組みの一環として、ボールを1ダース毎に入れている箱を昨年までのコーティングした塗工紙の箱から、今季は段ボール製の箱に変更しているのである。
段ボールは保湿性が高く湿気がこもりやすい。保管時の湿気の影響で、検査当時より湿気を多く含んで反発係数が落ちて、飛ばなくなっている可能性がある。ボールの均質性が落ちて、ブヨブヨする感覚という指摘も保管中に湿気を含んだため、と考えると納得できる。多くの選手が証言するように、去年と今年でボールの飛び方や均質性に変化が出ているとすれば、そうした保管方法の変化がボールに微妙な影響を与えている可能性があるかもしれないということなのである。
「ボールが飛ばない」は今年に始まったものではない
同時にもう1つ、気になるのはボールが飛ばないという声が、今年に始まったものではないということだ。
2022年には当時西武の山川穂高内野手(現ソフトバンク)が「明らかにボールが飛ばなくなっている」と指摘。実際、両リーグの合計本塁打数は21年の1449本(1試合平均1.688本)から、22年には145本減の同1304本(1.519本)まで減少している。
実は山川が「飛ばなくなった」と指摘した22年にも、ボールの保管方法に、もう1つの変化があった。
ボールの個別包装の仕方が、それまでのアルミ箔をビニール袋で包んだものから、「GL BARRIER」という蒸着フィルム素材の袋に変更されているのである。長い間、新しい試合球を下ろすときにはアルミ箔を剥いで取り出すという“儀式”のような手順があったが、いまは袋を破って取り出すようになっている。「GL BARRIER」という蒸着フィルム素材は、お菓子の袋などに使われるもので、保管時の湿度、温度の影響を最小限にし、紫外線の影響による変色も防いで、アルミ箔と同等以上の状態でボールを保管できるとされている。
山川穂高も「飛ばなくなっている」と語る真相とは…
ただ、ボールの包装がアルミ箔から「GL BARRIER」に変更になったその年に、年間の本塁打数は145本減少し、山川は「ボールが飛ばなくなっている」と語っているのだ。
こうした個別包装の方法や保管する箱の変化がどれくらいボールに影響を与えているのかは、明確ではない。2度の保管方法の変化と本塁打の減少が偶然に一致しているだけかもしれない。ただ保管方法や保管場所の環境によって、ボールの水分含有量を含めた質の変化が生まれることはある。湿気を含んだボールが飛ばなくなる、というのも紛れもない事実なのである。
メジャーではかなり厳密に湿度と温度管理をした倉庫で試合球は保管されているが、日本ではそこまでボールの品質保持のための環境が整っていないのが現実だ。
NPBも「違反球問題」を経て厳しい検査を行なっているので、ボールそのものが規定外ということは考えづらいが、それぞれの球団で保管されている試合球の検査を行なっているわけではない。となれば事前検査は通過していても、実際にゲームで使用するときには、そうした外的影響で反発係数などの数値が変化している可能性も否定はできないところだろう。
いま日本のプロ野球は、極端に本塁打が減少して、ボールが飛ばないという現実を目の当たりにしているのである。原因究明のためにも、NPBは一定の頻度で各チームで保管している試合球のサンプリング検査などに乗り出すことも必要ではないだろうか。