中国の「人民元安」が止まらない!「この通貨安リスクはホンモノ」との指摘も…一人負け「習近平」が陥っている「窮地」
人民元安が止まらない…
中国の人民銀行(中央銀行)は6月20日、人民元の対米ドル中間値を33ベーシスポイント引き下げ7.1192元にしたと発表した。
これは昨年11月以来最低値。21日、さらに4ベーシスポイント下げて7.1196元となった。21日のオフショア人民元は対米ドルで7.2923元まで下落し、7.3元の大台目前だ。
習近平国家主席(左)。人民元安が止まらない… Photo/gettyimages
ユーロやポンド、香港ドルに対しても急落を続けている。人民元下落は今年以来急激に進んできたが、中間値を一気に引き下げる人民銀行のアクションは、国際社会も予想していなかった。
これは中国が元安を容認した、あるいは人民元安を誘導していく、というシグナルと受け取っていいのだろうか。
習近平のジレンマを映す「人民元安」
中国の人民元レートは、毎日午前9時15分に前日の取引から算出した中間値が発表され、対ドルなら上下2%、円、ユーロ、ポンド、香港ドルは上下3%の範囲内での取引が許可される。
それ以上の値動きは政府が介入によって水面下でコントロールする。
中国が人民元レートを誘導するときは、二つのやり方がある。
中間値を推計値と大きく乖離して調整するやり方。そして中間値からの変動幅を拡大するやり方。変動幅拡大の方がより人民元の市場化の方向に即している。今回は中間値を調整するやり方で予想外に大きく引き下げられた。
今年に入り、人民元は対ドルで2.2%下落している。
今回の人民銀行のこの大胆なアクションの背景には、今年のGDP成長率約5%の目標達成のため、習近平政権は緩和的な政策を強調していることもある。
だが、必ずしも、元安は中国の本意ではないという見方もある。
2023年に入ってから、中国経済は長引く不動産危機と消費低迷の圧力に押され、人民元は守勢に回っていた。
金利の低下が資本流出を招き、また中国と欧州の関係の悪化もあって、外国人投資家が中国市場から資金を引き揚げていることで、状況はさらに悪化。米国は、ロシアに対する経済制裁範囲を拡大し二次制裁を行う方針を示した。
制裁を受けているロシア企業と取引する第三国企業も制裁を科される。
ターゲットは言うまでもなく中国で、特にロシアの金融機関と取引している中国の銀行が制裁を受け、SWIFT(国際銀行間通信協会)のシステムからはじかれてしまうことになる。
こうした米国の圧力もあって、オフショアでの人民元売りが加速していた。
一人負けの「人民元」
6月に中国本土市場から330億元の資本が流出し、4ヵ月続いた純流入に終止符が打たれた。中国本土から香港への南方向き資金流出も1290億元に達した。
ブルームバーグによると、4月にドル高が進行したときは、当局は元高に向けて抵抗をつづけたが、5月にさらに元安となった。5月は米ドル指数が今年初めて、月間を通じて下落に転じ、約1.4%下落したタイミングだった。
これに対し、多くのアジア通貨が対米ドル1%以上の上昇を示したが、オフショア人民元だけは下落を続けた。人民元は他の通貨に対しても軒並み負けたかっこうだ。
こうしたことから、人民元安圧力は金利差など為替環境要因よりも、主に中国経済のファンダメンタルズから来ることが示唆されている。だからドル相場が調整されても人民元が大きく上昇するとは限らないのだ。
中国の不動産セクターが回復せず、北京と欧米との貿易摩擦が深まるであろうという予測がある限り、人民元は下がり続ける。また中国はここのところ明確な利下げ政策を継続してきた。これは当然、資本対外流出を促進し、さらに人民元の下げ圧になる。
UBSの元チーフエコノミストで、オックスフォード大学中国センターおよびロンドン大学東洋アフリカ研究学院のアソシエイトフェローであるジョージ・マグナスが、5月6日付のフィナンシャル・タイムズ紙に「人民元安のリスクはホンモノだ」と題する記事を寄稿し、「人民元は今後1~2年の間に下落を続け、経済的、政治的に大きな影響を及ぼす可能性がある」と分析している。
市場では、人民元リスクが意識され始めた…Photo/gettyimages
では、中国はこういう状況でなぜ、人民元を下げる調整をおこない、人民元下落誘導のシグナルを発したのか? 単純に中国の輸出産業を促進し経済の下支えをする、という経済的な理由だろうか。
後編記事「いったいなぜ…!習近平が「人民元安」に誘導か…日本経済にも影響が及ぶ、中国の「隠された思惑」」で、人民元安を誘導する習近平政権と中国金融当局の「思惑」の真相に迫っていく。