爆増する「ロピア」にも負けないスーパーの正体 従来スーパーが切り捨てた生鮮ノウハウを強化
ロピア(写真:アフロ)
ディスカウント型スーパーマーケットのロピアが本拠地の関東から出て関西、中部、九州等へと急速に出店エリアを拡大している。直近はイトーヨーカ堂の北海道、東北の撤退店舗の大半を手中に収めたことでも大きなニュースとなった。筆者のもとにも、ロピアが地域に進出してきて、地場のスーパー業界は今後どうなるのか、という問い合わせをいただくことが急に増えてきた。
【写真でわかる】ロピアに負けない生鮮に強いスーパーは、中部地方では屈指の小売グループ
ロピアと言えば、テレビ露出も多い人気スーパーで、店舗平均の売り上げが約40億円という圧倒的集客力(業界平均は14億~15億円)を誇る。企業業績を見ると、2015年度は701億円だった売り上げは、2023年度グループ営業収益で4126億円に急成長、業界では最も注目される企業である。
この集客力を支えているのは、値段の「安さ」もあるのだが、肉を中心とした生鮮売り場のコスパであるという。
ロピアは一般的なスーパーと何が違うのか
神奈川県の精肉店から発祥したロピアは、精肉店のノウハウを進化させて、チェーンとしての運営にも拡張しており、品質と安さを両立させた生鮮売り場が消費者の高い支持を得ている。生鮮の各売り場の運営はかなり権限移譲されていて、独立した商店のように社内で競争する組織となっているのも特徴だ。
アニマルスピリットにあふれた社員チームによって、売り場改善の努力が続けられており、結果、常に変化する売り場が再来店につながる、という好循環が回っている。マニュアルに従って売り場作りをする一般的なチェーンストアとは異なる「売り場の鮮度」+安さが、また来たいという気持ちにさせる。
新たに進出した各地で「ロピア旋風」を巻き起こしており、地域のスーパー勢力図を塗り替えようとしている。
こうした現象を見た現地のマスコミから「地域スーパーはどうなる」といった問い合わせが来ることになるのだが、多くの場合、地場スーパーにとっては大きな脅威であることは間違いないものの、サービス競争がより激しくなり地域の消費者にとってはいいことではないか、といった趣旨のお答えをしている。
しかし、最近会った中部地方のマスコミの方からの質問には、ちょっとニュアンスの違う回答をした。ロピアが人気店となるのは間違いないが、そちらにも、バローがいる。最近のバローの「デスティネーション・ストア」は負けず劣らず魅力的だ、と。中部地方以外の方には馴染みが薄いと思うので、そのバローについて少し説明してみたい。
食品スーパーのバロー(写真:編集部)
売上高8000億円超、中部地方屈指の小売りグループ
バローホールディングスは岐阜県の多治見という山に囲まれた街から発祥し、今では食品スーパー、ドラッグストア、ホームセンター、スポーツクラブなど複数業態をチェーン展開する企業で、M&Aも実施しつつ着実に成長を続けて、2024年3月期の売上高8078億円と中部地方では屈指の小売グループとなっている。
主力事業はスーパーで、営業収益4542億円と過半を占めており、中部地方を中心に成長を続けているが、最近では大都市圏愛知県と関西地区(グラフでは、その他になっている)での勢力拡大が顕著になっている。
ただ順調に見える成長の軌跡だが、2010年代後半期には、収益率では少しずつ低下する傾向もみられた。一般的にはこうした状況になっても、さらなる拡大でなんとかしようとする企業が多い中、バローは立ち止まって基本戦略を大きく変更した。
名古屋の超繁盛スーパーをM&A
その時、生み出されたのがデスティネーション・ストア(他店を通り過ぎて来店してもらえる店の意)であり、生鮮売り場の魅力によって選んできてもらえる店を開発し、既存店をそのスタイルに変更していく、という方針だった。
それまでのバローは、店舗オペレーションの標準化を進め、自社物流で効率性を追求したインフラを整備し、プライベートブランド商品の開発にも注力して、EDLP(エブリデーロープライス)の店舗を実現する、といった展開で、チェーンストア理論の具現者というイメージでどちらかと言えば、オーソドックスな(ある意味、無機質な)スーパーだった。
しかし、地域における寡占化が進行してくると、チェーンストアの勝ち組同士の同質化競争となって、拡大を進めると収益が伸び悩む、という状況は避けられない。
そんな中、バローに新たな差別化戦略を提供したのが、2005年M&Aでグループの一員に加わったタチヤという生鮮特化型スーパーだ。タチヤは昔の魚屋、肉屋、八百屋の集合体のような店で、当日仕入れ、当日売り切り、というノウハウ(このため、この店には青果の冷蔵ケースもない)をチェーン化した名古屋の超繁盛店である。
ちなみにタチヤの愛知県の店は店舗あたり(売場面積660㎡ほど)18億円の売り上げがあり、愛知県のバローの店(広さはタチヤの3倍弱)とほぼ同じ水準である。
ロピアにも引けを取らない(写真:編集部)
要はバローの店舗の3倍販売力があるということであり、ロピアと比較しても決して引けを取らない。バローはこのノウハウを求めてタチヤをグループに招き入れ、バロー化することなく、逆にその手法をバロー店舗に実装していった。ちなみにスーパー部門主力会社バローの今の社長はこのタチヤ出身である。
バローデスティネーション・ストアは、このタチヤのノウハウでできた生鮮売り場とバローのチェーンインフラを活用して調達したコスパの高い工業製品群(日配、グロサリーなど)が合体しており、鮮度と安さの両立により地域の同業との差別化を実現した。
わかりやすいのが、鮮魚売り場で丸魚を大量に並べて、昔の魚屋さながらの接客販売を行い、セールストークに引き込まれた来店客が次々に調理加工を頼んでいく。そこに、店内DJであおりを掛けると、さらに人が群がる。生鮮目当てで来店した客は、せっかく来たので生鮮以外の商品もひと揃え買って帰るため、従来店よりかなり売り上げが増えるようだ。
生鮮部門にかかる労力とコストは増えるのだが、それ以上に売り上げ貢献が大きいため、結果、収益が増える、といった仕組みである。
名古屋に鳴り物入りで乗り込んだロピアとの激突
この戦略転換によって、バローは本格的な再成長モードに入ったことはデータにも表れ始めている。バローの全社ベースの設備投資は、2016年頃からデスティネーション・ストアへの転換のために、既存店改装投資が増加しており、2021年3月期に新店投資を上回った後もほぼ同程度で推移している。バローの並々ならぬデスティネーション・ストア転換への意欲の現れであろう。
そして、この投資が進んでいくと、2020年3月期まで右肩下がり傾向であった売り場効率(売り場面積あたり売り上げ)が急回復をみせる。その頃から、微減傾向だった既存店売上、客数増減率がプラスへと転じてきた。コロナによる巣ごもり特需もあったのだろうが、その後失速していないのだから本物とみた。
そして、結果として、営業収益を伸ばしつつ、漸減傾向だった営業利益率は上昇トレンドになった。バローのデスティネーション・ストア改装はまだまだ途上であるが、それはこの会社のさらなる成長余力を意味している。
名古屋に鳴り物入りで乗り込んだロピアと、名古屋の生鮮王タチヤがプロデュースするバローデスティネーション・ストアが激突すれば、地域のスーパー業界にも大きな刺激となるに違いない。
従来のスーパーが切り捨ててきたノウハウ
食品スーパーのオペレーションは、チェーンストア理論をベースとしているため、店舗の標準化、マニュアル化などにより、オペレーションを単純化することで、非正規雇用比率を上げて運営コストを下げて収益を確保する、という考え方が一般的である。
この戦略は、組織化されていない個人商店などからシェアを奪って成長するためには、極めて有効であったため、食品流通においてもチェーンストアが勝ち残り、主流を占めるようになった。本来、生鮮品という足の速い商品に関しては、現場でのきめ細かい管理ノウハウ(ロスを極小化して売り切るノウハウ)が重要だが、チェーンとしての全体最適のため、スーパーにおいては切り捨ててきた。
こうした時代の流れを受けて、かつての生鮮専門店が持っていたノウハウは、個人商店の衰退と共に絶滅寸前にまで追い込まれていた。
しかし、生鮮専門店の中には生鮮管理ノウハウをスーパーのチェーンオペレーションとは異なる仕組みで多店舗化する企業もいた。それが肉のユータカラヤ(ロピアの前身)であり、タチヤ(青果店出自)であり、角上魚類(大規模鮮魚チェーン)などであり、こうした専門店チェーンにおいて、きめ細かい生鮮管理ノウハウを多店舗展開できる企業も現れるようになった。
こうした企業の中から、自らがスーパーとして展開したり、アライアンスによりスーパーと合体することで、新たなイノベーションを起こすものも現れた。それが、ロピアであり、バローデスティネーション・ストアなのであろう。
生鮮強化型チェーンストアの手法が突破口を開く
チェーンストア同士の同質化競争に陥りつつある今、チェーンオペレーションに加えて、生鮮管理ノウハウを駆使した売り場作りをすることが、大きな差別化要因となる。人口減少で市場が縮小していく環境下、チェーンストアによる同質化が進んだ今こそ、こうした生鮮強化型チェーンストアの手法が突破口を開くひとつの解となるはずである。
唐突だが、この話を書いていて、昔、生物の授業で習った「ミトコンドリア」のことが頭に浮かんだ。動物などが動くためのエネルギーは、細胞内に存在するミトコンドリアが作り出しているのだが、このミトコンドリア、元々は別種の好気性細菌だったのに、捕食されたか何かのタイミングで、細胞が取り込んで共生している、という関係らしい。
異物を取り込んで消化してしまうのではなく、共生ができれば、さらに発展するという過程がなんとも不思議なのだが、生物の歴史の中では割とよく起こっているのだという。生鮮専門店を取り込んで(どっちが主体かはさておき)、上手に共生するスーパーは、きっと次のステージに進化できる、そんな気がするのである。