解説|BRICSの拡大と加速する米ドル離れ
解説|BRICSの拡大と加速する米ドル離れ
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こんにちは、NEKO ADVISORIES 岩倉です。毎週金曜日のNEKO TIMESは話題のニュースを取り上げ、経済・ビジネスのトレンドについて解説します。
この1週間も、世界各国の情勢が目まぐるしく変わっています。欧州ではヨーロッパ議会選挙においてフランス与党連合が極右政党の「国民連合」に敗北する見通しを受けて、マクロン大統領は議会下院にあたる国民議会を解散する方針を決定しました。
欧州議会選挙 極右政党などが躍進か フランスは議会解散へ | NHK | フランス
国民連合を率いるルペン氏は過去には付加価値税の税率引き下げや退職年齢の引き下げなど財政支出がかさむ政策を支持していたことをふまえ、同氏の経済政策が採用されるとフランスは「債務危機」に陥るとの見方もあります。(ロイター)
このほか、オランダやオーストリアでも極右政党が勝利を宣言しており、新しいリーダーが国を率いることになります。ドイツにおいては連立政権が敗れ、イタリアにおいては首相率いる極右政党「イタリアの同胞」の強さを確固たるものとしています。(BBC)
さて、極右政党は反グローバリズムを掲げ、国家主義・保護主義的な政策スタンスを掲げています。すなはち、ヨーロッパにおいては、通貨ユーロの利用の廃止やEUからの脱退という考え方にも繋がります。先週はゴールドの動きから世界の分断について考えました。今週は国と地域の結びつきの動きから世界の分断について考えていきましょう。
<本日のトピック>
・拡大続くBRICS、中露印の思惑
・オイルマネーも米ドル離れ
・世界の基軸通貨は変わるのか
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拡大続くBRICS、中露印の思惑
イタリアでの主要7か国首脳会議(G7サミット)の開催に先立って、ロシアや中国、インドなど新興国で作るBRICSの外相会議がロシアで開かれました。(時事通信)現在BRICSにはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、エチオピア、イラン、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)が参加しています。イランやエジプトなどは今年からの顔ぶれであり、経済的な枠組みとして地域的に広がりを見せています。
(以下引用)
(以上引用)
ラブロフ外相(ロシア)
Statista
新たにトルコやタイがBRICSへの加盟に対して関心を示しており、タイ政府は先月末に加盟申請を発表しています。同国の承認が認められれば、東南アジアでは初の加盟国となります。
欧米諸国との対立関係および経済制裁によりドル決済システムから排除されているロシアとイランは新たな経済・貿易の秩序をつくり上げ、米ドルからの脱却をはかりたい意向です。中露は手を取り合いデジタル通貨とブロックチェーンに基づく独自の決済システムの検討にも乗り出しています。(コインデスク)
BRICの経済規模はすでにG7を上回っています。(参考:Statista)アジア・アフリカ・南米から加盟国が増えるなら引き続き勢力は拡大することになります。また、注目しなければならないのは加盟国が資源を有しているということです。
オイルマネーも米ドル離れ
BRICS加盟に関心を寄せるサウジアラビアもアメリカとの関係を大きく変えようとしています。(参考:ジェトロ)サウジアラビア政府はこのほど原油取引において米ドル決済を用いる「ペトロダラー(オイルダラー)協定」を更新しないとの報道がありました。
2023年にサウジアラビア外相がドル以外の決済方法について言及してから進展した形です。(ロイター)今回の報道に合わせてサウジアラビアは中国が主導するデジタル通貨のプロジェクトに参加することが明らかとなりました。
サウジ、中国主導の中銀デジタル通貨プロジェクトに参加 | ロイター
BRICSに加盟するアラブ首長国連邦(UAE)は、サウジアラビアに先立って2023年7月からインドとの貿易においてルピーなど米ドル以外の通貨で決済を行っています。(ロイター)また、原油取引だけではなく、天然ガスの取引でも米ドル離れは進んでいます。中国はフランスのエネルギー会社と人民元で天然ガスの取引を行いました。(ロイター)
世界の基軸通貨は変わるのか
パンデミックによる経済危機、世界各国・地域における地政学リスクの高まり、さらには上述のように米国を中心とした経済的な枠組みと中露印を中心とした新興国による新しい枠組みの対立の中で、米ドルの優位性が低下していることが取り沙汰されています。国際通貨基金(IMF)のブログでは非伝統的な通貨に押され気味であることを指摘していますが、依然として「米ドルが卓越した基軸通貨である」と結論づけています。
IMFの公式外貨準備の通貨構成(COFER)の最新のデータによると、中央銀行や政府が保有する外貨準備に占めるドルの割合が徐々に低下しています。また、ドルにユーロ、円、ポンドを加えた4大通貨の割合の増加と一致しておらず、豪ドル、カナダドル、中国人民元、韓国ウォン、シンガポー ルドル、北欧通貨など、非伝統的基軸通貨と呼ばれる通貨のシェアが上昇していることがわかっています。
IMF
また、IMFは昨今の地政学リスクの高まりと、それに伴う世界的な金融制裁リスクの上昇をふまえて、新興国を中心によりリスクの少ない金を保有することをも明らかにしています。しかしながら、各国中央銀行による金の保有が歴史的に高水準にはないことを考慮すると、依然としてドル優位の状況にあるとしています。