「副業できないのなら退職します」26歳塾講師の訴えに困惑…会社は「副業禁止」を貫くべきか
副業・兼業など多様な働き方を希望する人が増え、企業にも副業容認の機運が高まる中、それでも「副業禁止」を就業規則に定めている会社はまだ存在する。そんな会社でもし副業をしたいという社員があらわれたら……。社会保険労務士の上岡ひとみ氏が事例をもとに解説する。
就業規則で副業は禁止していたのに…
S学習塾は生徒数20人弱と小規模ながら、馬場塾長(55歳、仮名=以下同)の有名学習塾で培った経験と実績、きめ細やかな指導が評判となり、ここ数年で難関中学校への合格者数を伸ばしています。最近は世間の中学受験熱の影響か、定員以上の入塾希望者があり、馬場塾長は人手不足に頭を悩ませていました。ある日、馬場塾長は英語講師の池田先生(26歳、仮名=以下同)に呼び止められます。
池田先生「塾長、今すこしお時間いただけますか?副業についてご相談があって」
馬場塾長「副業?どういうことですか?」
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池田先生「私、勤務外の時間を使って英語学校で講師をしようかと思っているんです。社会人向けだから夜の数時間で週に1、2回なんですけど、スキルアップできそうだし収入も増えるし頑張ってみたいんです。候補の英語学校にはS学習塾に勤めていることを話したうえで、ぜひ働いてほしいとお返事いただいたので、勤務時間の調整などご相談したくて」
馬場塾長「えっ、そんな話が進んでいるの?うちの就業規則では副業は禁止になっていたはずだよ?就業規則違反は困るよ!副業することで本業がおろそかになるかもしれないじゃないか」
池田先生「この間、ニュースでみましたが、国が副業・兼業を推進していますよね。確か、労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であって会社が制限かけるのは許されないはずです。塾長には応援していただけると思っていました。もし副業できないのであれば、こちらを退職する考えもあります」
馬場塾長はぐうの音も出ず、少し時間をくださいと、池田先生に副業の話をいったん保留してもらうことにしました。
社労士の見解は…
馬場塾長は後日、顧問の上岡社労士に相談しました。
馬場塾長「ただでさえ人手不足なのに、副業禁止ならば退職すると言うんです。うちの就業規則には副業禁止と明記されていたから、こんなことになるとは思いませんでした。副業されることで、本業にどんな影響が出るか不安です」
上岡社労士「それは不安ですよね。ただ、池田先生がおっしゃる通り、基本的には労働時間以外の時間をどう使うかは労働者の自由です。
副業は注意点もありますが、会社側・労働者側の双方にとってメリットもありますし、上手に運用する方法がわかれば、塾長の不安も軽くなるはずです。よろしければ、そのあたりをご説明いたしましょうか」
馬場塾長「そうですね。私自身、副業についての経験も知識もないから不安なのかもしれません。上岡先生、副業の運用方法について教えていただけますか」
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以上のやり取りからもわかるように、労働時間以外の時間をどう使うかは基本的に労働者の自由です。
もちろん、「労務提供上の支障がある」「業務上の秘密が漏洩する」などの場合は企業による制限はできますが、 副業を禁止にするには相当の理由が必要になるのです。
それでは副業、あるいは兼業を解禁し、企業が運用する際にはどのようなことを注意すればよいのでしょうか。後編記事<かたくなに禁止するのは時代遅れ…労働者にも企業にもメリットがある「副業」「兼業」の注意点>で詳しく解説していきます。