なぜ「女子中学生が気絶するまで闘わせる」いじめ遊びが起きてしまうのか「納得のワケ」

なぜ「女子中学生が気絶するまで闘わせる」いじめ遊びが起きてしまうのか「納得のワケ」

なぜ「女子中学生が気絶するまで闘わせる」いじめ遊びが起きてしまうのか「納得のワケ」

学校とはどのような場所なのか、いじめはなぜ蔓延してしまうのか。学校や社会からいまだ苦しみが消えない理由とは。

いじめ研究の第一人者によるロングセラー『いじめの構造』で平易に分析される、学校でのいじめ問題の本質――。

ローカル秩序のなかで生きられる現実感覚は、「人問とは何か」という問題をわれわれに突きつける。というのは彼らはときに人間の尊厳を、ときには生命さえ、あたりまえのように軽視するからだ。自分たちがいじめていた「友だち」が自殺や自殺未遂をしたと知らされて、クラスのみんなが拍手喝采して大はしゃぎする、といったできごとは、いじめが蔓延する学校では、とりたてて珍しいことではない。このような現象も、彼らなりのノリの秩序から説明できる。

ノリの秩序によれば、ひとりひとりの人間存在は、その場その場の「みんなの気持ち」、あるいはノリの側から個別的に位置づけられて在るものであって、人間が「人間である」というだけで普遍的に与えられるものではない。人間は諸関係の総体である。いじめで盛り上がる中学生たちは哲学的な思考などしないが、近代実体主義を超えた徹底的な関係主義と社会構成主義を「いま・ここ」で生きている。

たとえば、いじめ遊びは、「わたしたち」の大切なノリのいとなみであり、そのノリに即して人間の位置と価値が定まる。ノリの秩序の中ではいじめられる身分の者は、その場その場のノリをこの身に受けて共鳴するうつわ=諸関係の結節項(みんなの玩具)としてのみ存在意義がある。玩具に対して「独自の人格」を前提することは不自然であり、命令によって動かすことがもっとも自然な接し方である。【事例3・遊んだだけ】(本章第2節)で、女子中学生が「気絶するまで闘わせる遊び」という命令的な言い方を、大人たちの前ですらごく自然な感覚でしたのは、このような倫理秩序において、である。

「いま・ここ」の関係

このような場での倫理秩序を一言でいえば、「すなおに生きること」だといえよう。いじめ被害者は、あくまでも「われわれ」の関係の中で玩具「として」在る。みんなが共に生きる間柄を離れて彼が彼としての実体的な生命やこころをもっており、それを「われわれ」の「いま・ここ」を踏みにじってまで尊重しなければならないといったことは、吐き気をもよおすほど不自然な理屈だ。あるいは、遊ぶ者と玩具が同じ人間として平等であるという論理は、人間と牛馬が同じ生物として平等であるというのと同様、「いま・ここ」で現に生きられている関係を無視した奇怪な抽象論理だ。むきだしの関係主義者たちが、このような不自然で奇怪な論理を押しつける者たち、すなわち人権や普遍的ヒューマニズムの側からいじめをやめさせようとする者たちをひどく憎むのは当然である。中学生たちが、人間の尊厳を説く講演者を「挑戦的な表情で、上目づかいににらむ」(【事例3】本章第2節)のは、そういうことなのだ。

群生秩序の「いま・ここ」のもとでは、いじめは「よい」。われわれは、「いま・ここ」が響きあう共同体のなかで位置のある人間として、仲間の中で生活し仲間と共に生きていくならば、いじめをしなければならない。それは個を超えた、大いなる関係の倫理である。それに対して、そのときそのときの感情連鎖の場とは独立して、普遍的に「人間の生命」が尊いなどということのほうが、不自然な「悪い」感覚である。彼らにとって、人権や普遍的なヒューマニズムは、「いま・ここ」の関係の絶対性において悪い。わたしたちの関係の絶対性を共に生きようとしない個の傲慢は、人殺しよりも悪い。彼らの心理‐社会的な秩序にとっては、ノリは神聖にしておかすべからず、である。つかのまの全能感ノリこそが「生命」であり、その結果、「玩具」身分の「人間」が死ぬか生きるかなどは取るに足らないことなのである。

いじめが蔓延する場の生徒たちは、仲間とノリを共に生きる付和雷同を通じて、特有の「よい」「悪い」、あるいは自分たち独自の倫理秩序を体得しており、それに対して、大人の予想をはるかにうわまわる自信と自負を持っている。

彼らの「人間の死を軽く見る」傾向や、「個人と個人との間に信頼関係がまったくないにもかかわらず濃密に密着しあっている」傾向は、確かに実感としては驚くべきものかもしれない。しかし、ここまで本書を読み進めていただいたなら、中学生たちが人間の生命を軽視することが、もはや不思議でなくなるはずだ。「いま・ここ」で生きられている関係主義的存在論と倫理秩序を考えれば、彼らが自信を持って「あっ、死んじゃった、それだけです」「死んじゃったら、それはそれでおもしろいじゃん?」「遊んだだけよ」(【事例3】)といった発言をするのも、驚くに値しない。「死の実感がない」といわれる中学生たちの言動は、ここで説明したような、彼ら独自の倫理秩序に整合する帰結である。

赤の他人と一日中ベタベタ共同生活することを強いる学校制度のもとで、生徒たちは生活空間を遊びのノリで埋め尽くしながら、そのノリを規範の準拠点とする「自分たちなり」の秩序を生きる。そしてこの秩序のなかで彼らは、酷薄な関係主義的存在論をこともなげに生き抜いてしまう。

みんなのノリのきずな

このような心理‐社会的な秩序においては、人が生きるきずなの質も異なってくる。

わたしたちは、まず個人があって、その個人と個人がきずなを結ぶと考えがちだ。しかし事例にあるような中学生たちの学校共同体では、まずみんなの関係が第一次的にあり、個人はその第二次的な項として、(関係規定的・函数的に)在る。当然みんなのノリのきずなに対して、個人と個人のきずなはそれ自体では無に等しい。

たとえば、ほんの数分前まで「仲良く」じゃれあっていた「友だち」が、みんなから「浮いた」としよう。すると次の瞬間、「仲良く」していたはずの生徒は、当人にも何が何だかわけがわからず意地悪な気持ちになり、みんなといっしょに「友だち」をバンバン蹴る。このとき、共同体のなかでパブロフの犬のように身体化した「われわれの善き慣習」が、関係の第一次性として生きられている。このとき蹴っている者の現実感覚の半分はこすっからい保身であり、あとの半分は、わたしが蹴るというよりも、わたしのなかから関係が蹴る、あるいはわたしの中からノリが蹴るとでもいったものだ。

蹴られた人が負傷したり死んだりして事情聴取されるとしたら、加害者たちは「何となくノリで蹴っていた」「おもしろいから蹴った」「遊んだだけ」と言うだろう。その場の空気を読んで集団に同調することが唯一の規範である学校共同体では個人の責任などという事態は生じ得ないのだから、彼らは自分の行いに対して責任をとろうとはしないだろう。

自分が好意を持って近づこうとする以前に運命としてベタベタさせられる生活環境で、生徒たちは、個人で愛したり、憎んだり、楽しんだり、むかついたりするのではなく、みんなのノリを感じ取り、その盛り上がりに位置づけられた「自」の「分」としての「自‐分」の感情を身分的に生きる。あるいは、そのようなこころの動きの軌跡として自分が在るとでも言うべきかもしれない。このように「ノリ来たりて我を照らす」間柄感覚の無責任のおかげで、生徒たちは身もこころも軽くなって、ひとりではできないことを平気でやる。

このように考えれば、これまで挙げた事例は、余すところなく理解可能になる。もう一度事例に目を通していただきたい。

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