山口県縦断の美祢線、全線運休1年…JR西日本「単独での復旧とその後の運行は難しい」
山口県内を南北に走るJR 美祢(みね) 線が、昨年6月30日から7月1日にかけての大雨で被災し、全線運休となって1年になる。地元は復旧を求めているが、運営するJR西日本(本社・大阪市)は今年5月、「単独での復旧とその後の運行は難しい」と主張し、代替案を協議する検討部会を設置するよう沿線自治体などに要請した。地元では反発や戸惑いが広がっており、先行きは不透明になっている。(本岡辰章、池田寛樹)
土台ないまま
土台が流されたままのJR美祢線の線路(28日、山口県美祢市で)
今月21日、美祢市を訪れると、土台が流された状態の美祢線の線路は、1年前とほとんど同じ姿のままだった。近くを流れる厚狭川には橋脚の残骸があり、線路は撤去されていた。
「姿が変わった線路を見ていると悲しい。早く復旧してほしい」。移動を美祢線に頼っていたという 厚保(あつ) 駅(美祢市)の近くに住む女性(85)はため息をついた。現在は代行バスが運行されている。
利用促進試算
山口県縦断の美祢線、全線運休1年…JR西日本「単独での復旧とその後の運行は難しい」
被災を受け、沿線自治体や山口県、JR西などでつくる美祢線の利用促進協議会の作業部会は、昨年10月から復旧後の利用促進策について協議してきた。
5月の総会では事務局が、通学定期券の購入費助成や観光客向けの快速列車の運行、居住誘導施策などの利用促進策と、それらを実行した際の効果の試算を報告。最大で輸送密度(1キロ当たりの1日の平均利用者数)が2019年度の「478人」の2・7倍となる「1292人」に増えるとした。
国土交通省がローカル線の存廃検討の目安とする「1000人未満」は上回る試算だったが、JR西の広岡研二・広島支社長は総会で、「大量輸送という鉄道の強みを生かせるレベルに達していない」と指摘。さらに、高額とする復旧費や利用者低迷を理由に「(JR単独での)復旧とその後の運行は難しい」とし、協議会に新たな検討部会を設置するよう要請した。
同社によると、美祢線の収支(19~21年度平均)は、全区間で年間4億6000万円の赤字となっている。
広岡支社長の発言について、村岡嗣政・山口県知事は今月の記者会見で「事業者の責任でまずしっかり復旧してほしい」と強調した。
バス転換警戒
美祢線は10年夏の豪雨でも被災し全線不通となったが、翌年9月に復旧した。事業費約14億円のうち約5億円は県が負担した。一方、JR西は、山口県内で昨年起きた大雨による鉄道への被害について、山陰線は25年度に全線復旧を目指しているものの、美祢線については現段階で復旧費用も明らかにしていない。
効率的な経営や株主への利益還元を重視するJR西は、鉄道のあり方の見直しを各地で進めている。岡山、広島両県を走る芸備線の一部については、改正地域交通法に基づき、再構築協議会の設置を申請。今年、設けられており、今後、国交省、地元自治体、JR西などで鉄道存続かバスへの転換などの結論を出す。
こうした中、美祢線の地元では、JR西からの要請を受け、協議会に公共交通のあり方を議論する検討部会が設置される見通しという。7月に臨時総会を開き、部会設置を決める可能性もある。
JR西の広岡支社長は美祢線についても、「できるだけ早く議論し地域にふさわしい公共交通を実現したい」と語っており、沿線自治体の関係者からは「新たな検討部会では、JR西がバスへの転換などを提起してくる可能性がある」と警戒する声も出ている。
◆JR美祢線= JR山陽線・ 厚狭(あさ) 駅(山口県山陽小野田市)と山陰線・長門市駅(同県長門市)を結ぶ全長46キロの路線。今年3月に全線開業から100周年を迎えた。沿線には観光地として知られる長門湯本温泉があるほか、厚狭駅には山陽新幹線の駅もあり「こだま」が停車する。