上司が部下を「すぐに叱るべき」、たった2つのケースとは?【コンサルが解説】
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コンプライアンスが重視される現代では、部下に嫌われたり、パワハラ認定されたりする事態を恐れて、部下を「叱れない上司」が増えているという。これまで、200以上の企業で組織開発の支援を行ってきた横山信弘氏は、叱る目的と叱る方法にポイントがある、と指摘する。相手の成長を促す叱り方とは?※本稿は、横山信弘『若者に辞められると困るので、強く言えません マネジャーの心の負担を減らす11のルール』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・編集したものです。
部下が問題行動に走ったら
マネジャーには叱る責任がある
あなたは、声を荒らげて部下を叱ったことがあるだろうか?
「しょっちゅうだ」と言う人もいれば、「ほとんどない」「一度もない」と言う人もいるだろう。
おそらく、厳しく叱りたいと思っている人はいないはずだ。やむをえず、心を鬼にして叱りつける。とても負荷がかかることだが、マネジャーとしての責任を考えたら、そうせざるをえないと判断する。だから、やるのである。
私は、部下の問題行動を変えるには、3種類の働きかけがあると考えている。
(1)叱る
(2)注意する
(3)指摘する
「叱る」ことを奨励する書籍など、今の時代、ほとんど見られなくなった。しかし場合によっては、部下を厳しく叱る必要もある。
厳しく叱っていいのは、重大なリスクを相手が軽んじているときだけだ。リスクがあるだけなら、言って聞かせればいい。しかし、そのリスクの重大性を理解せず、軽視していると判断したら、厳しく叱ったほうがいい。
いったん相手の思考を止める必要があるからだ。
わかりやすい例でいえば、子どもが急流の川に近づいたときだ。
「危ない!近づくな!」と注意を促しても、
「大丈夫、大丈夫!」と言って聞かない。
そういう場合は、「こらァァァァ!」と大声で叱るべきだろう。子どもがビックリして泣いてしまうかもしれない。そのせいで嫌われるかもしれない。だが、子どもの命には代えられない。
「一度溺れてみたらいい。そうすれば、川の怖さがわかるだろう」なんて、呑気なことを言ってはいられない。
徐々にではなく、
「即刻」叱るべき2つのケース
では、社会人に対してはどんなときか?それは、
(1)取り返しのつかないことが起こるリスクを軽視しているとき
(2)「当たり前の基準」が下がるリスクを軽視しているとき
の2つのケースがある。
わかりやすいのは(1)だろう。
30年以上前。高級レストランで、アルバイトをしていたときのことだ。ホール係として結婚披露宴の準備をしていた。その際、私が4枚の皿を一度に持っていこうとして、シェフに激しく叱られた。
「心をこめて作った料理を、そんな風に持っていくな!料理が崩れたら、どうするんだっ!」
ウエイター経験が長かった私は、4皿を一度に持って運ぶことに慣れていた。だから店長に「絶対やるな」と注意されていたのにもかかわらず、その忠告を無視したのである。
早朝から出勤し、お客様のことを思って料理をしていた3人のシェフのことを考えていなかった。
(2)は、私たちコンサルタントがとても重要視することだ。
たとえば毎朝5分、10分遅れてくる部下がいたとしよう。何度も「遅刻するな」と言い聞かせても、「5分や10分の遅刻にそこまで言わなくても」と言い返されたら、「ふざけるなっ!」と言いたくなるだろう。言葉遣いは気をつけなければならない。しかし、「徐々に、できるようになればいい」ということではなく、「即刻ルールを守らせなければならない」ときは、何よりもインパクトが重要だ。
言葉を尽くしても納得しない相手だ。そういう相手には、いったん思考停止にさせるぐらいのインパクトが必要だ。
「叱る」最大の目的は
相手の行動を変えること
咄嗟のときなら、仕方がない。しかし、そうでないなら、叱るときは感情をコントロールしよう。
頭にきて、唇が震えていたり、胸の動悸が激しかったりするときは、叱るのをやめたほうがいい。感情に振り回されて、「叱る」がうまく機能しないからだ。
こうなると、目的が「相手の行動を変える」ではなく「詰る」「罵る」になってしまう。
大事なことは、相手の行動を即刻変えることである。厳しく叱らないと相手がすぐに行動を変えないから、その手段をとるだけだ。叱ることが目的ではない。
では、どのように感情をコントロールするのか?
演技をすればいい。
つまり、事前に準備したセリフと感情レベルで、相手を叱るのだ。
演技でやっているからこそ、感情に振り回されることがなくなる。役者さながらの感情コントロールができたらベストだ。
何度も言い聞かせて、行動や意識を変えようとするときは、叱ってはいけない。
そんなことをすると、「ガミガミ言う」人になってしまう。これは親子の関係でもそうだ。
「叱る」と決断したら、一発で相手の行動を変えるつもりでやろう。
何度も繰り返す必要があるなら、注意する。「注意」だと「叱る」よりはインパクトが弱い。だが、その分お互いが受けるストレスも少なくて済む。
「月間のKPIは君以外全員がやり切ってるんだから、君も必ずそうするように。いいね?」
できる限り、ニュートラルフェイス(真顔)で言おう。しかめっ面もダメだが、無理して笑顔を作る必要はない。
普段笑顔で接していれば、ニュートラルフェイスで注意するだけで、それなりにインパクトを与えることができる。
上司のその表情を見ただけで、「ちゃんとやり切らないと、マズいな」と部下は受け止めるはずだ。部下の問題行動が明らかになったら、「注意する」をまず選ぶべきだ。
「注意」するときは
ルールの明文化を忘れずに
ただ「注意する」ためには前提条件がある。それが「ルール」である。「決めごと」「約束」がないと、相手は戸惑うし、「聞いてない」、「そんな話、初めて知った」と受け止める。
注意するなら、必ず「ルール」や「基準」を明文化しておくのだ。
とはいえ、
「結果を出すための個人ごとの月間KPIを決めた。今後は、必ずやり切るように」
これだけを伝えても、新たなルールを決めたとは言えないだろう。新しい文化を根づかせるには、情緒的な側面も大事にすべきだ。人は感情の生き物だから、理屈だけでは通じないことも多い。
新たなルールを作るときはセレモニー(儀式)的なこともやろう。1回でいいのだ。過去と決別するためにも、やったほうがいい。
できる限り、リアルで全員を集め、こう言うのだ。
「今期の目標を達成させるには、個別に設定したKPIを必ずやり切ってもらう。1人1人と面談を繰り返して設定したKPIだ。中途半端に考えないで、必ず達成するように。よろしく」
うまいことを言う必要はない。
「他はともかく、今回のことはキチンとやらないとマズいな」という印象を与えられたらいい。こうすれば、ルールは形骸化されなくなる。
そして、「ちゃんとやらないとダメだろ。言ったはずだ」と注意したときに、効力が高くなるのだ。
「注意」と「指摘」のつかいわけは
部下の理解度を見極めてから
「叱る」ときと「注意する」ときの共通点は、相手がわかっているのにもかかわらず軽んじているときだ。著しく気が抜けていたり、意識が低くなっているときに使う。
しかし、もし、相手が意識するのを忘れているだろうな、もしくはちゃんと伝わっていないだろうと思ったときは「指摘」してみよう。
「先日の会議で部長が、残業を20時間以内にする、と言っていたけど覚えているか。なのに、今月の時間外労働がもう25時間を超えているじゃないか」
こう指摘したとき、部下がどう反応するか、しっかり観察しよう。このようなときに必要なことが「ヒューマンスキル」である。
もし、相手の表情や言動に触れて、わかっていなかったと判断したら、「部長はかなり本気で組織を変えようとしているから、頼むよ」と笑顔で指摘すればいい。
部下は、残業を20時間以内にしなくてはいけないことは、わかっていたし、部長が会議で言っていたことも覚えている。
では、この部下がわかっていなかったこと、知らなかったことは何だったか?
『若者に辞められると困るので、強く言えません マネジャーの心の負担を減らす11のルール』 (東洋経済新報社) 横山信弘 著
それは「部長の本気度」である。部長が本気で組織を変えようとしていることを知らなかったのなら、仕方がない。「注意する」のはやめて「指摘」しよう。
しかしながら、「申し訳ありません。以後気をつけます」と部下が言っても、部下の表情や態度を観察すると「部長が本気で組織を変えようとしているのを、わかっているな」と判断した。そうしたら「指摘」では済まされない。
「部長が本気で改革しようとしているの、わかってたんだな?だったら絶対に20時間以内にしなさい。できない場合は、事前に部長へ申請することになっていたはずだ。ちゃんとしろよ」と、このように真顔で「注意する」。
「指摘する」程度で相手は変わらない。