「目の前が真っ暗に」 F4戦闘機に搭乗のCNN記者、6Gの重力を体験

「目の前が真っ暗に」 f4戦闘機に搭乗のcnn記者、6gの重力を体験

CNNのシニア・グローバル軍事ライター、ブラッド・レンドン氏。韓国空軍のF4戦闘機「ファントム」に乗り込む直前の写真/South Korean Air Force

韓国・スウォン(CNN) 40年以上もかかったが、私はついに「トップガン」の夢をかなえた。

韓国空軍の戦闘機F4ファントムの後席で1時間40分、私はあの1980年代のクラシック映画の登場人物、グースになった。本当に、待った甲斐(かい)があった。

子供の頃、私は新聞と作文が大好きだった。だからジャーナリストになったのは自然な成り行きだった。

しかし同時にミリタリーも大好きだった。特に空の戦いが。第2次世界大戦中、ミッドウェー海戦で日本の空母4隻を撃沈して戦局を逆転させた米海軍の飛行士の物語は、その代表だった。

1981年にジャーナリズムの学位を取得しても、私はまだ軍の飛行士に挑戦できると思っていた。そこで海軍の採用担当者に会い、身体検査を受けた。その中に色覚検査があった。暗い部屋の中で光の点滅を見ながら、どれが赤でどれが緑かを言わされた。

私はこれに合格できなかった。現代のパイロットとしては不適格だった。

そこで民間人として働き始め、パイロットの夢は打ち砕かれた。数カ月前、F4ファントムに別れを告げる最後の飛行にCNN記者が参加できると韓国空軍から連絡があるまでは。

ファントムの思い出

私の飛行士になる夢をかなえるとすれば、ファントム以外にありえなかった。

初飛行は1958年、私が生まれる1年前。私が若い頃、軍の航空機といえばファントムで、ベトナム戦争の米軍の航空隊の主力として毎晩のようにニュースに登場していた。1960年代後半から70年代初頭にかけては、私の故郷クリーブランドで開かれた航空ショーで、米海軍のブルーエンジェルと空軍のサンダーバードの展示飛行に使われたのがファントムだった。

1969年、米国の同盟国韓国は、北朝鮮の侵攻を想定して空の防衛を強化するため、マクドネル・ダグラス製のファントムを調達した。

超音速のF4は、首都ソウルの南に位置するスウォン基地から5分以内に北朝鮮との軍事境界線に到達できる。F4は空対空の戦闘ができること、第2次世界大戦のB17爆撃機の2倍の爆弾が搭載できることから、韓国軍の軍事力は大幅に強化された。

初飛行から60年以上たった今もまだ使われていることも、同機の耐久性の高さを物語る。

米軍は1996年でF4を引退させた。韓国以外で今もファントムを使っているのはギリシャ、トルコ、イランのみ。

再び身体検査

韓国の高速鉄道KTXでソウルからテグまで90分。しかし念願のF4搭乗は簡単ではなかった。

私は身体能力を証明する必要があった。低気圧に耐え、機体からの緊急脱出に対応でき、シミュレーターで目まいを起こさず、遠心機に入って体が6G(重力の6倍)に耐えられなければならない。

検査を受けた人の半分近くは6Gで気絶すると警告された。

検査はF4飛行の数週間前、ソウル南郊にある韓国空軍の医療施設で行われた。

フライトスーツとブーツに身を包み、私は搭乗候補の記者仲間と一緒に6Gシミュレーターに向かった。

私たちは呼吸法と、脳から血液が失われないよう体を緊張させる方法を手早く教わった。

検査前は知らされていなかったが、飛行担当医は私の体が適格だとは思っていなかった。多少ふくよかで、姿勢が悪く、それに65歳だからと同僚に耳打ちしていた。

だが私はライト兄弟の故郷、オハイオ州の出身だ。自分は合格できる自信があった。

6Gに耐えるチャンスは2度あった。気をしっかり持って、20秒間、気絶はしない。

私はシミュレーターに乗り込んで、親指を立てて見せた。そして……。

6Gに達すると、目の前が真っ暗になった。黒い背景にピンクの点だけが見えた。とっさに息を吸い込み、喉(のど)から絞り出すような声を上げた。後に動画で見たその時の私は、まるで悪魔払いをしているようだった。

それでも気絶はしなかった。それで十分だった。

いよいよF4に

私のファントムフライトは、韓国空軍が同機の引退を記念して計画した2回の飛行の2回目だった。F4は6月7日で役割を終えた。

各区間を編隊を組んで飛行する4機のF4のうち、3機の後席に記者が搭乗。このイベントを記録するカメラマンを乗せたF15が一緒に飛行した。

我々を乗せた軍のバスは、よく晴れた木曜の午後、テグ空軍基地に到着した。ちょうど午前のフライトがスウォンからデグに到着し、滑走路で轟(ごう)音を立てていた。私はゾクゾクして、笑みがこぼれた。

これは現実だ。ついにその時が来た。

午前のフライトに搭乗してF4から降りてきた米国人記者にあいさつした。私がこの日の午後に搭乗する機体だった。

「どうだった?」

自分には良かった、と彼女は言った。けれど残りの2機に搭乗した韓国人記者はそうでもなかったらしい。2人とも吐き気に襲われ、1人は2度嘔吐(おうと)した。

昼食を済ませ、パイロットから説明を受けた後、午後のフライトのために装備を整えて機体へ向かう時が来た。

駐機場へ戻ると、あとはあっという間だった。パイロットとハイタッチしたことは覚えている。「スピードが必要なんだ、スピードが」(トップガンの名セリフ)――。それからはしごを上がってコックピットに入り、シートベルトを締める。パイロットがゼネラル・エレクトリック製のJ79ターボエンジンを始動させた。

後席に座った私には仕事があった。レーダーを作動させる。これは後席からしかできない。そう、私はグースだ。

私たちはキャノピーを閉じ、滑走路へ移動し、轟音と共に韓国の青い空へと飛び立った。

過去と未来、高度4000フィート

巡航高度に達すると編隊が密集した。大きな戦闘爆撃機の翼の先端同士が接触しそうなほど近かった。

パイロットはスロットルを調整しながら上昇して間隔を保ち続け、滑らかながらも多少ガタガタ揺れる飛行を続けた。韓国人記者の胃の具合が悪くなった理由が分かった。

10~15分後、下と後ろと右に目をやった。我々の編隊にぴったり寄り添っているのは、韓国軍航空界の未来を担う国産戦闘機KF21。プロトタイプでこれまでに飛行したわずか6機の中の1機だった。2機目のKF21が編隊の左側にやって来た。

KF21を開発した韓国航空宇宙産業は6機のプロトタイプを製造。2026年まで試験飛行を行った後に、量産して配備する。2030年までに計120機を韓国空軍に納入する予定で、輸出も可能になる見通し。

15~20分ほど編隊と並んで飛行した後、KF21は翼を地面とほぼ垂直にしながら急旋回し、基地へ戻って行った。

ファントムは飛び続けた。

私はKF21に驚嘆したのと同じくらい、自分の乗る戦闘機にも驚嘆していた。私は自分を取り囲むノブやボタン、レバーの姿を心に焼き付けた。

このアナログの驚異は私に、私の時代に、私の世代に語りかけてくる。

KF21はデジタルの驚異であり、違う種類の飛行だ。

韓国人のファントムパイロットの1人は、KF21には乗り換えないと私に言った。それよりもボーイング737のような航空機を飛ばしたいという。韓国軍のそれほど洗練されていない戦闘機か、いっそドローンを操縦したいというパイロットもいる。1人は多少の感傷を込めて、デスクワークにすると言う。彼らが知る限り、KF21を飛ばしたいというパイロットはいなかった。

最後の区間

黄海から朝鮮半島の西部沿岸にかけての上空を飛行しながら、私は目の前の計器盤のアナログ時計に目をやった。

「10分遅れてる」と思った私は、自分の腕にはめたカシオの時計で時間を確認した。

自分が思っていたより早く、この冒険は終わろうとしていた。

間もなくパイロットがファントムを右に傾け、無線で指示が入り、我々はスウォン空軍基地へのアプローチを開始した。

ファントムが減速すると、フラップが展開されて三輪式の着陸装置が降りていることを、計器盤の左下にあるアナログ計器が示していた。

我々は左に大きく傾きながら最終アプローチに入った。ほぼ真下にスウォンの光景が見えた。

数秒後、車輪がコンクリートに接触した。旅客機よりも滑らかな感触だった。驚いたことに、重さ約1万3600キロの戦闘機が滑走路に着陸したのに、衝撃も振動も感じなかった。

地上クルーが4機をチェックした後、格納庫へ移動しながらパイロットが感想を尋ねてきた。

「また走って列の先頭に並ぶよ」と答えた私は、オハイオ州の遊園地でジェットコースターにもう一度乗ろうと走った時のことを思い出していた。

1時間と40分の間、私は「グース」だった。1時間と40分の間、私は40年来の夢を生きた。

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